第23話

 さて黄砂が従者となって、神山で銀悌の教えを頂く事となった頃、神楽の君様は神山より戻られて、後院で蜜月の日々をお過ごしの、上皇様とお妃様にご挨拶に参られた。


じゅよ戻りましたか?」


 お妃様は、意味有りげな笑みを浮かべられて言われる。


「はい」


「……と、言う事はかの〝世にも美しい精〟が誰であるか、察しがついたという事ですね?」


「はい……」


 神楽の君様は至極真顔を作られて、お妃様を睨め付けられる。


「……あれは〝精〟ではございません」


「ほっ。なぜそのようにしかめて、物を申しておられます?」


「母君様は、ご存知だったのでございますね?」


「はて?何をそれ程に不機嫌に申すのです?」


 さも楽しげにコロコロと笑われる。そのお姿に神楽の君様の不機嫌が増されていく。


は、私でございます……主上の中の私の姿にございます」


 それは苦々しく吐き捨てられた。


「まぁ?主上がそなたを、女の姿にして思っておられたのか?」


 物凄ーくらしく驚かれて言われたので、神楽の君様の額に青筋が浮き上がって、ピクピクと脈打たれている。


「なんと今上帝がか?」


 上皇様は、唖然として大声を上げられた。


「上皇様、何をその様に驚かれておいででございます?」


「あーいや……今上帝は男……朱も男であるぞ?いや……兄弟であるのだ……いや……」


 さすがの上皇様も呆気にとられておいでなのか、パニくられておいでなのか……。

 只々落ち着きを保たれる、お妃様を見られるばかりだ。


「何を高々その様な事……我が一族は永きに渡り、血族婚を繰り返さねば婚姻致せますし、とて同様でございましょう?それに朱は神になる身ゆえ、男神であろうと女神であろうと変わりはございません」


「へっ?」


 あっさりと言い退けられるお妃様に、上皇様と神楽の君様が異口同音でお声を立てられた。

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