第22話

 牛飼童うしかいのわらわの黄砂は、主上様から神楽の君様の下に残る様にと言い渡されて、動揺が収まらない。何か粗相をしたのではないか?今上帝様にお怒りを買ったのではないかと、身を縮める思いで神楽の君様の御前に侍り平伏した。

 今上帝様が、をお戻りになるお姿を、暫し見送られた神楽の君様は


「黄砂と申すか?」


 と、黄砂を見て言われた。

 畏れ多く自身のこれからが不安な黄砂は、お返事をする事ができずに平伏すばかりだ。


「そなたはこれから私の従者となる為、そこの銀悌に教えを請うて、生を全う致した後は私と共に彼方に参る事となる」


「はっ?」


 黄砂は神楽の君様のお言葉が、理解できずに面を微かに上げた。


「よいか?そなたは高貴な父を持ったが、母の身分が低い為に認められる事がなく、哀れにも母は早逝いたした。それでも健気にこうして生きて参ったが、非道にも悪しきものに喰らわれて、そう長くは生きられぬ……だが、銀悌がその力でを退治致す代わりに、そなたは私に傅く従者となるのだ。私は後に神となりて天に昇るか、此処神山に住まう事となる。その折にそなたを側に置くゆえ、それまでに神山の住人となるべく教えを請うのだ」


「…………」


「黄砂よ。そなたはこの上もなく、幸運の持ち主である。そなたの心根が実に清いが為、神となられる神楽の君様のお目に留まった。私もそなたのような童を、教育するは実に楽しみというものだ」


 なかなか理解しがたい話しに、黄砂は再び面を下げるが、どうする術など持ち合わせない。ただ今上帝様が下げ渡した神楽の君様の、お言い付けをお聞きする術しか……。


「そなたの一生で辛いは、悪しきものを退治いたすその一瞬だけである」


 深々と身を地面に擦り付けて平伏す黄砂を、慈愛を持って神楽の君様は見つめられ、笑顔をお見せになられて言われた。

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