第19話
今上帝様は未だに摂政様の下に置かれているが、そんなにお小さい訳ではなく、充分に政を司る事もおできになられるお年であるし、それだけの資質も充分にお持ちのお方だ。
だが、実権を手放す事をよしとされない摂取様が関白職を辞され、主上様を今だに掌に収めておいでだが、主上様の母君であられる皇太后様と、兄君様となられる摂取様との間で、今上帝様の実権を巡り軋轢が生じ始めている。
母心として皇太后様が、ご自分の血を濃く受け継ぎ、上皇様の良い所を受け継がれている、聡く利発な今上帝様に、政の全てを司られて欲しいと思うのは至極当然の事で、自分の娘の皇后様に親王様をご誕生頂き、外祖父として君臨したい摂取様とは、少しずつ相容れないご状況になるのは仕方の無い事だ。
お年頃におなりの主上様が、皇后様や后妃様をお迎えになられるのは自然の成り行きで、特に内裏はそういう所だから、当然の様に宮の者達の思惑が渦巻いている。
天の定める吉日に、お二人の初夜の儀を執り行う事となっているが、主上様のご容態を鑑みると、暫く先延ばしせざるを得ない状況だ。
これにいたく遺憾の意を表されるは摂取様で、お二人には早く仲睦まじくなって頂き、皇后様には親王殿下をご誕生頂きたいのが摂政様のお望みだ。
それに反して、これ以上兄の権力が増す事に恐れを抱いておられる皇太后様は、皇后様以外の女御に親王様を授かりたい。
陰陽寮の安倍琴晴に命じて、今上帝様のご容態が妖の精に取り憑かれた事により、悪しきものを取り除いたにも関わらず、ご体調が思わしく無い事とし、ご体調の改善を待っての儀式の執り行いとさせた。
最低でも一年の休養を、主上様に与えさせたのだ。
その間に皇后様以外の者に、今上帝様が溺れる程の美女を、あてがう心算を持たれての事だ。
だがしかし、どんなに今上帝様が思われようが、あの手のものには決して溺れられては困る。そう母心……否、只々ご自身の自尊心で思われておられる。
「たとえ仕留めたとて、あれは駄目だ」
それが皇太后様の一念だ。
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