第20話
此処神山は、人間でも容易く登って来られる、尊き神が住まわれしお山だ。
中津國に姿を現して神山と云われているものは、神山のほんの一部でしかなく、其処迄は誰でもが立ち入りを許される所だ。
だが真の神山は、地続きになっていてそれは広大な神聖な大地の塊だ。
その奥に、足を踏み入れる事は決して許されない。
つまり稀に踏み入れる者があれば、それは死を意味するから、遺体となって現世に送り返されるのだ。
……が、稀に、ほんとうに稀に、其処へ踏み込む事を許される者がいる。
その者は神に許された者で、奇跡の生還と呼ばれる事がある。
さて奥深き神山に暫しの間、神楽の君様の為に設えられたお屋敷に、今上帝様は兄君様とのお別れを偲ばれてお泊りになる事とされたので、取り残された御所車に侍る従者達は、神山の麓の誰しもが立ち入りを許された所に、急遽銀悌によって設えられた、こじんまりとした屋敷に泊まる事となり、神楽の君様のお計らいで、それは贅沢なおもてなしを頂き、近衛府の者や舎人達はそれは大喜びであったらしい。
何せ今上帝様の御行幸ともなれば、仰々しく華々しい物だが、俗世と隔たりを持たれ、ひっそりとお暮しの御兄君様の元にも、お出ましのおつもりであられたから、お兄君様に倣い共の者達も少なく済む、御所車でのお出ましとされた。
そんな少人数での御出ましであるが故に、片時もお側を離れる事なく侍る晨羅は、今上帝様とかしこくも尊いご身分の神楽の君様のお屋敷に泊まる事を許された為、他の従者達の喜び様を見る事は叶わなかった。
……どころか、いたく仏頂面の銀悌と差し向かいで、それは嬉し気な主上様と神楽の君様のお側に侍る事となり、なんともつまらぬ一夜を過ごす事となってしまった。
「主上……」
人を酔わすそれは心地よい声音で、神楽の君様は主上様をお呼びになられる。
「あの童を私にくだされませぬか?」
「あの童?」
すると主上様は顔面を歪められる。
「お兄君様はあれを、お気に召されましたか?」
「そうではないが……確かにあれは可愛いが……」
益々主上様の顔付きがきつくなられ、多少なりと御目がつり上がられる。
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