第18話

「兄君様は、此方に如何してお越しでございます?」


 主上様は、神楽の君様がご自慢の神泉の側の四阿あずまやで、今が盛りの桃の花をご覧になられながら問われた。


「……そなたの夢に棲まいし〝精〟を考えよと、お妃様のご命で最も神聖なる神山の滝に身を打たれておったのです」


 すると主上様は、顔を真っ赤にさせて


「お兄君様……私の夢をお覗きでございますか?」


 と、少し声を荒げてお言いになられた。

 そのご様子にさしもの神楽の君様も、唖然となられて主上様を見つめられる。


「事の仔細を知らねばならず……申し訳ございませぬ」


 それは畏まられた神楽の君様を認められて、主上様は慌てる様に手を振られる。


「と、とんでもございませぬ。私如きにそこまでお手間をお掛けいたし……」


 主上様の顔は益々赤みが増される。


「……そ、それで、お兄君様は、かのお方の事をお分かりでございますか?」


「……分かりそうでなかなか……」


 神楽の君様は軽く首を振られたので、主上様は真っ赤になりながらもホッと息を吐かれた。


「かのお方は、私に害を及ぼすものではございませぬ。ゆえにこの件はこのままに……」


「いや。もう少しで分かりかけておるが歯痒い……お妃様がご命でございますゆえ、しっかりと考えたいと……」


「無用に!……無用になされまし……ならば、私の命でございます、お辞めくださいませ」


 主上様がきつく言われるので、神楽の君様は怪訝気に主上様をご覧になられるので、益々主上様は赤面し、耳まで真っ赤に染められた。


「……さようにございますな。主上様が少しながら患われたというだけで、ご心中を推し量るは失礼極まり無い事でございました。浅はかな私をお許しください」


 神楽の君様は年若き主上様がお年頃で、思いをお寄せになられる女官がいても、おかしくないとお考えになられ、微かに笑まれて弟君様をご覧になられた。

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