第ニ巻
第15話
主上様は殊の外お元気になられ、その手柄を神楽の君様は、陰陽師の安倍琴晴様にお譲りになられた。
なんと無欲なお方であろう。
そして主上様は、お元気なお姿をお見せになられようと、上皇様がおいでになられる、後院にお出向きなられた。実はこれは只のご口実で、それより遠方となる、神楽の君様にお礼に赴かれたいのがご本心だが、ご挨拶のみぎりにお妃様より、神楽の君様が、この中津國で尊い霊山にお出掛けになられている事をお聞きになられ、それはいたく落胆のお色をお現しになられた。
ここ中津國は神々様が多々おいでになられ、魑魅魍魎や鬼達も存在する、地上と
「主上は然程に
とても落胆しておいでの主上様を、御几帳の奥からご覧のお妃様が問われられ、主上様はさも残念と思し召されたご様子を、お隠しにはなられない。
お妃様はあの神楽の君様のお母君様であられるから、とんと宮中のしきたりなど念頭にお持ちになられない。宮中におられる時は、后妃としてしきたりを守られておいでであったのだろうが、此処後院に来られてからは、しばしば主上様がご挨拶に来られると、
無論自然と長く伸ばしたままの黒髪は、
「はい。あの
素直にお気持ちをお答えになられる。至極主上様は正直なお方だ。
お妃様はそれはお優しい笑みを浮かべられ
「さように、あの偏屈を慕うてくださいますか」
嬉しそうに、主上様を覗かれて言われた。
「……ならば、兄弟の想いに免じまして、此度だけにございますよ」
それは意味ありげに申されて、桃花の唇を悪戯っぽく尖らされた。
その意味すら解されない主上様は、暫しの時を上皇様とお妃様と共に楽しく過ごされた後、最もお会いしたく思っておいでの兄君様への想いを胸に仕舞われて、すごすごとお帰りになられる道すがら、牛車の傍にお供していた晨羅が、主上様にお声をお掛けした。
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