第14話
暫くして、後院にお戻りの上皇様とお妃様は、事の次第をお聞きになられたが、此度神山に里帰りをなされたお妃様は、いたくこのお話しにご興味をお寄せになられた。
「
と後院にお戻りの、お父君様とお母君様にご挨拶にお越しの、神楽の君様にお問になられた。
「はい、全くございません。しかしながら、実に美しき女でございました」
「さようか?」
「はい。母君様を彷彿とさせる美しさにございました」
「……で、それを吸い取ったそなたは如何なのです?」
「如何と申されますと?」
「如何は如何です……それ以外の意味はございません」
お妃様は悪戯ぽく片頰を膨らまされると、傍らで笑顔の上皇様がプッと、その頰を指で押さえられたので、お妃様は、それは朗らかに笑って上皇様と見つめ合わられた。
「上皇様は、悪戯ばかりなされます」
「そなたが可愛い事ばかり致すのだ」
「その様な事はございません」
お妃様は満更では無い笑顔を、お側で呆れ顔の神楽の君様にお向けになられる。
「朱よ。そなたはも少し、力を溜めねばなりませぬな」
「は?」
「かの精に思い当たらぬとは情けない」
「それ程迄のものにございますか?私はそれを吸い込んでしまいました」
「まさか、かの精を吸い込んだわけでは無い。主上が思い詰めてしまった思いが、形となったものゆえ、そう焦る事ではありません」
お妃様は、可笑しいと言わんばかりにお笑いになる。
「……私は、主上のさほどの想いを、吸い込んでしまったのでございますね……」
神楽の君様は、それはそれは神妙な面持ちを、お作りになられて呟かれた。
「……ゆえに、そなたは神山で、滝に打たれて参られませ」
「神滝でございますか?」
余りにあっさりと仰せになられるお妃様のお言葉に、神楽の君様は呆気に取られて言われた。
「さよう……暫くそれに打たられて、かの精を考えてまいられませ」
「……はい」
美しく気高きお妃様は、我が身によく似た美しく気高い神楽の君様を、見下げながら微かに口元を綻ばされた。
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