第13話

「!!!何をなさいます?」


 陰陽師は慌てて声を張る。

 しかし、神楽の君様は至極落ち着いたまま、ジッと主上様を見つめられながら


「いとも容易き事。この美しき精を吸い取るだけの事……」


「はっ?その様な事……」


 陰陽師は呆れる様に言い捨てた。


「安倍……???よ、そなたらはこの国で、確かに力を持ち知識も持つ者達よ。しかしながら、高々の人間であるのだ。私はそなた達よりも、いとも容易くいとも簡単に、事を成す事ができるのだ。よいか、如何様に力を持とうとも、慢心するでないぞ」


 そう言われると、スゥーとその桃花の様に可憐なる唇に、主上様のお口元から何やら白い物を吸い上げられた。

 すると今まで鼻についていた香が、まるで形を作るようにクルクルと円を形どって回り始めた。

 主上様の周りを……神楽の君様の周りを……陰陽師、晨羅の周りを弧を描いて広がって行き、そしてパッと弾ける様に消え去った。

 それと同時に香の煙が掻き消され、香炉が音を立てて落ちた。


「安倍……何某であったか?その香は


 神楽の君様はにこやかな笑顔をお向けになられると、可憐なる桃花の唇を無造作にお拭きになられる。


「お兄君様!」


 主上様は大声を発せされると、パッと眼をお開けになられた。


「目覚められたか主上」


 御帳台の隅に腰掛けられる、兄君様に視線をお向けになられ


「兄君様……」


 主上様はか細く弱られた御身を起こされて、傍らにお座す兄君様に縋りつかれた。


「主上、ご安心なさいませ。かの安倍……???陰陽師が、悪しき物を取り除きましたゆえ」


 神楽の君様が、主上様を抱きしめられ、お側にかしずく陰陽師に視線を送って言われたので、尚もお兄君様に縋りついたまま、主上様は陰陽師に視線を向けられると


「大義であった」


 お声をかけられたものの、暫くお兄君様の懐に抱かれたまま甘えておいでてあった。

 それ程迄に主上様の御心身は、弱りきっておいでであったのだ。

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