第9話

 晨羅しんら薄月うすづきを仰ぎ見た。


 ……ほほほ、ほほほほ、ほほほほほ……


 何の声だろうか?

 晨羅には天が笑っている様に伺えた。

 ドンドンドンと門を叩く。


 ……ほほほ、ほほほほ、ほほほほほ……


 声はけたたましく、深閑とした薄闇夜に響き渡る。

 ドンドンドン……幾度目かに門を叩いた時に


「どなた様で?」


 と、中から声が聞こえた。


「今上帝様のお側にお仕えいたす、侍従でございます。神楽の君様にお目通り頂きたく、ご迷惑を顧みず馳せ参じましてございます」


 すると門の閂を外す音がして、かなり重たげに門が開いた。


「はっ?」


 晨羅は門が開いたと同時にフリーズした。


「我らはこれからが楽しみな時であるに、真に迷惑極まりない」


 かなり仏頂面を臆面も無く向けて来るは、何と鼻にくっきりと白い線を浮かべる白鼻芯だ。

 均整が余り取れていないにも関わらず、それは見事に二足で立ち、不調法なくらい晨羅を仰ぎ見て睨め据えている。


「おい!じゅ、客だ。寝てるなら起きて来い!」


 まるで恫喝するような声で、屋敷の方に向けて言い放った。


「何をその様に不機嫌に?」


 屋敷の方から銀色の狐が走って来る。


「客だ……」


 白鼻芯が晨羅に視線を投げて言うと、銀色狐はその赤茶けた瞳を向けた。


「はて?これは弟帝様の……」


 そう言うとスッと、長身の神楽の君様の従者の銀悌へと姿を変えた。


「ぎ、銀悌殿?」


「その様に、恐れを持った目をお向けくださいますな」


 とか言いながら、それは面白いものでも見る様にする。


「あーいえ……えっ?ぎ、銀悌殿は……」


「ご覧の通り、銀狐でございます」


「ぎ、銀狐?」


「はい。自慢ではございませぬが、我が一族は神使の中では、由緒正しい一族にございます」


 銀悌はそう言いながらも、狐顔の目を一文字に細めて笑ったが、その顔が昼間見る見目麗しい趣きとは一変してちょっと不気味だ。

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