第8話
翌年、后妃様は親王様をご誕生なされ、他の女御にも親王様と内親王様がご誕生なさった。
めでたく皇后様も、内親王様を御誕生された。
そこで苦虫を噛み潰されたのは 、皇后様のお兄君様の左大臣様だった。
女御の中に、皇子様を授かった者がいるというのに、皇后様が皇子様を授かれぬとは……。
先帝様の后妃様へのご寵愛ぶりは、宮中で知らぬ者がいない程なのに、皇子様を誕生させ再び寵愛を欲しいままにされれば、皇后様に皇子様を誕生させる望みは薄い。
左大臣様は、憤りを隠す事ができぬ程の日々を送られた。が、その心配の種であった后妃様は、産後のご容態が思わしく無く、ご出産の後一年程、伏せられる様になられた。再びの機を得られた皇后様は、めでたく翌年に今上帝様をご誕生なされたのだ。
その事を思うと、皇太后様は惨めなお気持ちになられる。
あれは、自分に情けをかけたとしか、思えないからだ。
今上帝様がご誕生される頃には、先帝様は后妃様に再びのご寵愛をお向けになられ、皇后様を始め御子様を授かった女御達にお目を止める事は、二度とおなりにならず、前以上に周りに憚る事のない、それは呆れる程の后妃様へのご寵愛ぶりをお見せになられ、一年も経たぬ内に今上帝様を皇太子に立し、三年も経たぬ内に譲位されて、後院に后妃様だけをお連れになられ、上皇様となられた。
そして古より、皇女様しかなれないとされた〝妃〟という呼び名を、お与えになられ呼ばれている。
それから、上皇様はお妃様と蜜月の日々を送られている。
夫に一度たりと愛される事無く、皇子様と皇女様を授かった皇后様は、もはやその存在すら夫に忘れ去られて、皇太后様として日々を過ごしておられる。
あれはただ存在するだけで、上皇様を誑かす。
「今上帝迄も誑かす気か……」
「皇太后様……」
侍女の
「あのお方は、妖の精ではございません。大神様より遣わされし、瑞獣にございます」
「ふん。瑞獣であろうと妖であろうと、然程変わりは無い……あれらは人間を誑かすものたちよ」
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