第7話

「何と?」


「先にも申しました通り、私は瑞獣ずいじゅうにございます。たとえ端くれとはいえ〝神〟でございます。高々の人間が勝てるものではございませぬ……。ゆえに私共は主人のお許しがあらば、貴方様の様に望まれる方の元に、嫁す事ができますが、高貴なお方の跡目は継がせてはならぬ掟があるのです……」


「ならば、私は最も寵愛いたすそなたの子を、皇太子に立っせぬのか?私が最も寵愛致すであろう我が親王を?」


「さようにございます。よくよくお考え頂けましたら、その道理をご理解頂けるかと?」


 后妃様は、それは美しい笑顔を作られて、先帝様を見つめられながら、そっとその細くしなやかなおよびを、かしこくも貴き先帝様の御頰に這わされた。


「私も我が子も、そのような事を望むものではございませぬ……それよりも、貴方様に一瞬なりと長くお側に置かれ、ご寵愛を頂くが望みにございます」


 后妃様はそう言われると、それはそれは慣れたご様子で、クルリと先帝様に抱かれると


「私が孕んでおりますこの機に、どうぞ皇后様にお子をお授けくださいませ」


 まるで言い聞かせる様に、甘える様に耳元で囁かれる。


「なんと?」


「主上様。私には欲はございませぬ……ただ、貴方様の御心のみでございます。言い換えますれば、此処だけはお譲り致しかねまする……私が身籠っておりますこの機を逃さば、貴方様は他のものにお子を授ける機がございません。それでは、大神様がお慶びの治世が保てませぬ」


 先帝様はジッと后妃様を覗かれると、くすりと口元を綻ばされた。


「そなたが房事を致せぬ間に、子を作れとな?」


「沢山のお子をお授けくださいませ」


 后妃様は、先帝様の唇を啄ばみながら言われた。

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