第6話

 陰陽寮と神祇の祭祀を司る神祇じんぎ官は、平安の御世が続くお祝いとして神光を分けて頂いた、と上奏した。

 そしてその日、一人の女官が宮中に上がった。

 神祇官と陰陽寮によれば、その者はこの御世に煌めく程の幸運を、与えるものであるとされた。

 それゆえに、素性が定かではないにも関わらず、アレよと言う間に先帝様のお目に留まり、そして直ぐにお子を授かった。

 妹を皇后にして、幼帝の外戚として栄華を極めたい左大臣様には、それは由々しき事であったが、尊きお方からの授かりものであり、絶大なる先帝様のご寵愛を得られている后妃様について不平不満など、口が裂けても言葉に出せるわけがない。

 そんな左大臣様の思いが通じてか、ご寵愛を一身にお受けになられる后妃様は、畏れ多くも先帝様に一つの提案を申し上げられた。


「私は大神様の元でお仕え致します、瑞獣でございます。我が一族は曲がりなりにも、神の端くれでございますゆえ、人間の帝位につくは禁じられております」


 それは美しくも、粛々と先帝様を見つめられながら言われる。


「なぜかご存知でございますか?」


 宮中で随一のご寵愛の后妃様となられた瑞獣様は、その黒曜石よりも奥深く美しい、深い紫色の瞳を向けられる。

 余りの深さの瞳の色に先帝様は、傍に抱かれて幾度と無く覗かれても、当初はそのにお気づきになられなかった。しかし、日々を毎日の様に伴に過ごされる様になって初めて、その瞳の色合いに気づかれた。

 水晶の様に明るくないが、ジッと見つめていると、吸い込まれる様に奥深く、そしてその奥底に輝く宝石の煌めきの様な紫色……。その色に囚われてしまうと、もはや身動きなどできなくなる美しさ。

 先帝様はただ見入る事しかおできになられずに、小さくお顔を横に振られた。


「私の子が天下を取りますれば、覇王となるからにございます」

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