逃走
人間は、99.9%同じ遺伝子で出来ている。
その話を聞いた時、私は衝撃を受けた。
今こうして授業を聞いているクラスメイトも、話している先生も、親も、みんな私とほぼ同じ生き物なんだと思うと、気持ち悪くなった。
どうして神様は、こんな悪戯を思い付いたんだろう。
「由美」
私の名前を呼ぶ声がする。
遂に幻聴が聞こえ始めたのか。全く。私の体は使い物にならない。
もっといい夢を見させて欲しいものだ。
「由美、起きて、早く」
顔を上げる。
白い天井に白い壁。一人分のベッドと個室のトイレ。私を監視していた人間が座っていたはずの木製のデスク。ドラマとは程遠い、どちらかというと、保健室のような空間。
「由美」
鍵は?見張りは?どうしてここに?
聞きたいことは色々あった。
口から出たのは、いつもの私の、ひねくれた台詞。
「まるでドラマみたいね。少女漫画かしら。」
「逃げるぞ。行こう。」
男は返事もせずに、私を急かす。
「…私を殺人鬼から逃亡者にさせるつもり?」
「どうせ1人でも逃げ出すんだろ。行こう。」
目鼻立ちのしっかりした、色白のイケメン。
どっかのハーフで目が青い。外国の血が混ざってるっていいよね、美しくて。
「…これから警察が余罪を見つける。そうなれば私は死刑よ。」
「見つからない。」
「どうして?人を殺したのはおっさんが最初じゃないのよ?」
「俺が処分したからだ。」
…このイケメンはさらっと何を言ってるんだろうなぁ…
「……馬鹿なの?」
「あぁ。」
「………正真正銘の馬鹿ね。もう…」
「手錠の鍵。」
「危ないから投げないの。…どうやってここに?」
「殺した。」
「…まさか警察を?」
「お揃いだね」
「…私は国家権力を殺したわけじゃないんだけど。」
「いいじゃん何でも。」
「…狂ってるわ……」
木村 朔月 同い歳
私は彼が、嫌いだ。
何を考えているか分からないし、大切なことは何も言わない。こうやって私を助けに来た理由も。彼の生年月日や血液型、どんな人生を送ってきたのかなんて何も知らない。ひょっとしたら、偽名なのかもしれないし。
まぁ、この退屈な空間から逃げられるなら、どうだっていい。
「どこに行くの。」
「どこか遠くに。楓も待ってる。」
「ご苦労なこと…」
「…言っとくけど、助けるって言ったのは楓だからな。」
「分かってるわよ。あんたみたいな変人が1人で来るわけないじゃない、気持ち悪い。」
「気持ち悪いとは何だ。失礼な奴…」
「いいから行こう。めんどくさい。」
「あーはいはい。」
走りながら後ろを振り返る。
まぁ、人を殺したんだから、警察は追いかけてくるはずだ。
「…ふふ。」
「何だ」
「別に?」
ばーか。笑
捕まえれるなら捕まえてみろ。私達を。
「…追い付けると良いわね。ふふ…」
容疑者 恋涙 @Re_x_s
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