抜け穴


「どうでした、あいつ。」

「…訳の分からんことばかり言う女だ。俺がいても居なくても関係ない。ずっとぶつぶつ喋ってやがる。鬱陶しい。」

「医者は精神病だって言ってましたよ。」

「またか…最近そればっかりじゃねぇか。」

「装ってる可能性もありますが」

「…どんな理由があろうとも殺人は殺人だ。きっちり刑期と罪を償ってもらわなくちゃな。」

「そうですね。」



やれやれ、嫌になる。

呆れた女だ。

どうしてあんなのばっかり出て来るんだろうか。



「これからどうします、先輩。」

「…まずは現場を見に行くしかないだろ。何か証拠を探さねぇとな。」

「ほとんど鑑識に回りましたが、まだありますかね?」

「俺の勘だが、鑑識から証拠は出てこねぇ。もっと他の決定打が眠っているはずだ。」

「どうしてそう思うんですか?」

「勘だ。」



混雑したオフィスを抜け、早足で歩みを進める。

部署が決まってるんだから戻れよ、邪魔だ。



「どこに行く」

「証拠集めですよ。」

「女はどうした」

「口を割らないんですよ。試してみるだけいいでしょう?」

「…暇だな。」


「なんですかあのポンコツ。」

「やめとけ。行くぞ。」

「上でふんぞり返ってるだけのくせに…」

「早く。」

「すみません!」



ボロい階段を降りる。

外見だけはいい建物だ。現実はドラマほど美しいものでは無い。地方だから尚更だ。そのくせ上下関係だけは厳しい。



「なぁ山岸」

「はい」

「人間は99.9%、同じDNAで出来ているらしいぞ。」

「…知ってますよ。」

「俺は知らなかった。」

「高校の時に聞きました。社会科の先生は抜け穴って呼んでましたよ。」

「なんで抜け穴なんだ」

「いやぁその先生は変わり者というか…もしも、その違う少しの間を何かで埋めることが出来たなら、皆同じになれるよね…例えばその0.01の隙間を賢い人間のDMAに擦り変えれば、皆が賢くなる…同じ思考だけになる…とか、言ってました。抜け穴理論と名付けるとかなんとか。」

「…0.1じゃないか?」

「……雰囲気でいいじゃないですか。とにかく抜け穴なんですよ。ははは」

「面白くないな」

「僕もそう思います。」



全てが同じDNAだったなら。

同じ顔、同じ声、同じ背丈、同じ思考、同じ手口、同じ犯罪…



「そいつは平和でいいな。犯罪も戦争も起きねぇだろうよ。はっ!」

「すごくつまらなさそうに笑いますね」

「つまらねぇよ。」

「そうですか。何から始めますか?」

「現場だよ」

「そうでした、行きましょう。」

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