月夜物語

ムーン

第1話 かぐや姫との出会い

ゆっくりと冷たい風が吹き上げる。私の傷付いた体に風が触れると、痛みが痺れてくる。


「そなた、大丈夫かのぅ?」


私を見て華やかな服を着た女性が現れる。他の人たちとはまるでオーラが違う。だからこそ私と異なっていることが羨ましくて殺したいと思った。私は背中の腰に掛けていた二つの刃を手にし、その女性に刃先を向ける。表情を変えずに女性は「あなたが苦しいだけよ、それでもよきならばいざ向かいたまえ」と私に言う。その時の私は動かなかった。いや、手も足も動けなかった。


「私はかぐや。ここの姫じゃ。そなたは何者や?」


彼女の言葉に対して、自然に口から答えが出る。


「私に名前などございませぬ」


言い放った言葉に対して私は後悔した。笑われるかと思ったからである。しかし彼女は真顔で自分の長い黒髪を一本も揺らすことなく、はっきりとした口調で言う。


「名が無いのは虚しきことかな。わらわがそなたに名付けよう。ここは月の都、いわゆる月。世界ではこの言葉を一つとしてこう言う。”ムーン”、と。ムーンよ、この都のように私の側にいてくれないか?」

「ムン?……ムン?……ムーン!!」

「喜んでくれたようで何より。さて、そなたはここで何があったのじゃ?」

「肩ぶつかっただけなのに大人たちに殴られたり蹴られた」

「そうか」


そう言うと、彼女は私の方に歩み寄ってくる。体が動かない。まるで土から紐が生えて体を縛られてるかのようである。そして彼女の白い右手は私の左腰へと伸びていく。金属を擦る音が鳴り響く。彼女の手には剣一本手にしていた。もちろん、私のだった。


「これで許してやってくれないか?」

「そんな……」


彼女は自分の髪の毛を数本切り、地面に落とすのを私に見せる。落ちた髪の毛はすぐに黒から白へと変わり果てた。


「大丈夫、あなたの命に比べればこんなことは些細なことよ」


自由になれた私でもその時は何も言うことが出来なかった。これが幼少期の頃の私とかぐや姫のはじめて出会った話である。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

月夜物語 ムーン @moonchan

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ