第6話 本田 黄熊
もうすぐ五分が経とうかとした時である。
「やはり先生は来られないみたいですね。えっとーあなた…名前はなんと言ったかしら」
「中野翔也です、中学の頃はしょーちゃんと…」
「中野さん、そろそろ先生を呼びに行ってもらってもよろしいでしょうか?」
「あ、大丈夫です……」
すかさずあだ名で呼ばせようとした翔也にこれっぽっちの興味も示さず、竜神は翔也に約束通り先生を呼んでくるよう指示を出した。
(はぁ、やっぱり行かなければならないのか)
と、翔也が席を立ったその時であった。
──ガラガラ。
教室の前のドアが開き、そこから眼鏡をかけた男性が入ってくる。ラッキーと翔也はすぐさま席に着き、一同もやっとHRが始まるのかと
男は教卓に立つと何事も無かったかのように挨拶を始めた。
「皆さん、ご入学おめでとうございます。私は、今日から一年間皆さんの担任を務めさせて頂きます……」
──カンカン……。
その男性が黒板に書いた文字を見て、先程まで落ち着きがあった教室が、またしてもざわつき始める。
『本田 黄熊』
(いや、キラキラネームかよぉぉぉぉ!!!!!!)
翔也は、心の中で盛大にツッコミを入れていた。この学校に来てからというもの、ずっと綾といたのだ。普通の人を潜在的に求めてしまっていたのだろう。
すると、男性はそんなざわつきを
「私の名前は、
(いや、キラキラネームじゃねぇのかォォォォォ!!!!!!)
またしても翔也は、心の中で盛大にツッコミを入れていた。ここまで来たらキラキラネームであってほしかった。
「決して黄色い熊ではないぞ、そう思ってしまったやつはどうやら
(((なんだこいつ…)))
笑いながら、そんなことを言う目の前のオヤジに翔也を含め、教室の全員が同じことを思った。
「せんせー、そんなオヤジギャグなんかよりもみんなに言わなきゃいけないことがあるじゃないんすかー?」
「咲喜せっかくの入学式なんだからやめなさい」
「ちぇーわかったよ」
尾上の作りだした不穏な空気は、竜神の一声で振り払われる。
「流石は竜神。鶴の一声だな…」
「翔也」
「ん?どうした綾」
「それを言うなら竜の一声です」
(はいはい、はじまった。いつものね。だが、甘いな俺もゲームなら俺だってやるんだ。竜といえばドラゴン。ドラゴンと言えばブレスだ。)
「綾、甘いな」
「そうですね、竜と言えばドラゴン。ドラゴンと言えばブレス。つまり、竜の
「えっ…」
「ドラゴンブレスとも迷いましたが、さすがに安直すぎですよね。私もそこまで馬鹿ではありません」
「ばか…??」
やっと流れを掴みかけた翔也であったが、ドヤ顔するどころが馬鹿呼ばわりされ、撃沈してしまった。
「ですが、その気持ちはもっともです。みなさんも不安になっていましたし、先生からご説明があれば幸いです」
翔也の目の前が真っ暗になり、ただの屍になりかけている所をまたしても竜の息吹に助けられる。
「そうだな。入学早々で不安の中待たせてしまって本当にすまなく思っている。しかし、私には重要な使命があったから遅れたんだ。皆には理解して欲しい」
心なしか綾の目が輝いているがこれはスルーしておく。
「みんなも知っているとおり、この学校は今年度から共学となった。つまり、今年度からこの学校には男子がいるんだ。このクラスにもチラホラと男子がいるようだな」
先生は、メガネの奥から殺気に似たオーラを出しながら教室を見渡す。
「元女子校であったからと、異性を目的にこの並木ヶ丘高校に来た男子も多くてな。早速問題を侵したやつを今朝から指導していたんだ。入学早々だと言うのに…まぁそういう訳だ、改めてすまなかった」
思っていたよりも、先生がまともであったことにクラスの女子は安心する。その一方で、翔也を含め不純な理由で選んだ男子生徒達は震えている。
「まぁ、このクラスの男子生徒は俺の管理下にある。俺の目を盗んで、不純な行動を取ってみろ。特に厳罰に対処するからな」
え?これ俺に言ってんじゃね??と、翔也は思ったがもちろん顔には出さない。
「さて、これからHRを始めたいと思うが、時間が押している。そのため、重要事項だけの連絡をさせてもらう」
「──最後に、先生の呼び方だが自主規制がかかってしまうので本田先生と呼ぶように。ここまでで、なにか質問があるやつはいるか?」
「はいはーい」
「なんだ尾上」
「自主規制ってなんのことっすかー?」
「大人の事情だ」
「えっ……」
「さて、他にはいないようだな。それではHRを終了とする。準備が出来次第、廊下に並ぶように」
こうして初めてのHRは終わった。
残念女子高生の異世界願望 きりてゃん @kiriteyan
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