第29話 ディナー
ワインを飲むエドワード様を見るとなんというかそう、『大人だなあ……』なんて当たり前の事を思ってしまう。
まあ、私も大人なんだけど、ワインが似合うというか、お酒が似合うというか。
「嫉妬するな」
「え?」
グラスをそっと置くとじっと私を見てくる。
嫉妬?
「ヒートさんは……夢子の素晴らしさを全て引き出すドレスをプレゼントした。正直……それは俺がしたかった」
「んなっ!」
なんて恥ずかしい台詞を真顔で!!
こ、こういう時なんて返事したらよいのでしょうかっ。
「でも、こんなに綺麗な夢子が見られたんだからヒートさんには感謝だ」
「そ、そんなにじっと見られたらご飯食べられないです……」
恥ずかし過ぎて顔をあげられない。
顔が熱い。
これはお酒のせいではなく。
いつもよりずっと色っぽいエドワード様。
そんな台詞を言われると勘違いしてしまいそうになる。
この世界の男の人は皆歯の浮くセリフを平気で言うのだから。
「最初はもう少しカジュアルな食事を考えてたんだけど……父に夢子と食事をすると話したら全て任せろと張り切ってしまって。緊張させたかな?ごめんね夢子」
苦笑いのエドワード様。
ボールトン様、楽しそうだったもんね。
「そ、そりゃ緊張しますよ、でも……」
「でも?」
「こんなに綺麗にして頂いて、美味しい食事をエドワード様と一緒に食べる事が出来て……私今とても幸せです」
「夢子が幸せなら、俺も幸せだ」
ああどうしましょう。
嬉し恥ずかしとはこういう事です。
テンパりすぎてご飯の味がしません。
綺麗に盛り付けられた前菜。
少しづつ口に運ぶ。
お上品に食べなければ……それだけは、そこだけは絶対に失敗してはならない!
ふふっと笑うエドワード様。
「どうしました!?」
早速何か失敗しましたかね!?
「いやごめん、緊張してるのがわかりやすくて、つい。そんなに固くならないで。いつもの夢子のままでいいのだから」
いつもの……いつもの……ふっ、と笑ってしまった。
「そうですよね」
そんな気負ってたら食事なんて楽しめない。
いつも通り。
それでいいじゃないか。
なにか少し吹っ切れるとエドワード様をしっかり見る事が出来るようになった。
食事も味わえる。
周りの景色も見えてきた。
ここ本当にいつものティールームですかね……華やかに装飾されたテーブル、いつの間にか搬入されている観葉植物、よく見るとカーテンまで変えられていた……すごい行動力です、ボールトン様。
せっかくだから楽しまなくちゃ。
「エドワード様、少し質問しても良いですか?」
「もちろん」
「ええと、休みの日は何をされてるんですか?」
「最近はずっとここに来てたけど……その前はよく海に行ってたな」
「海ですか。泳ぐんですか?」
「泳ぐ日もあれば何もせず海を見ながら日光浴する日もあるかな」
「気持ちよさそうですね」
「ああ、のんびり出来る。だが……」
「だが?」
「たいていリックがついてくるから賑やかだが」
「ロードリック様とは本当に仲良しですよね」
「なぜかどこにでもついてくるんだよな……」
困ったように笑うエドワード様。
でも全然嫌ではないと目が言っている。
男の友情ってやつかな、なんかいいな。
「因みにあいつは今日、見合いだそうだ」
「えっ、お見合いですか?」
「ああ。リックの兄がそろそろ身を固めろとうるさいらしい。リック本人はあまり乗り気ではないが」
「ご両親でなく、お兄さんが」
「そう、彼はリックを溺愛してるから」
「兄弟愛ですね」
「きっとそんなもんだ」
うーん、お見合い相手よりもお兄さんがどんな人か気になるな……今度ロードリック様に聞いてみよ。
「夢子は?休みの日は何を?」
「そうですね……本を読んだり、カフェに行ったり、コンビニの新作スイーツをチェックしたり」
「コンビニ?」
「あ、私の世界のお店の事で……色んなものが売ってるんです。中でも美味しいスイーツがたくさん売ってて、つい買っては食べてしまい……」
はははと笑って誤魔化す。
いかんいかんいかん、食いしん坊キャラをアピールしてしまったよ。
「夢子らしい」
「あはは」
し、失敗したあああー!!
せめて料理をするとかにしとけば良かった……
ああ、ジュリー助けておくれ。
私、心の中で泣いております。
でももう良いのです。
今日というこの日を楽しむと決めました。
憧れのエドワード様とのディナーですから!
「夢子は……可愛い」
「はい?」
今なんと?
「素直に可愛いと思うよ」
優しく微笑むエドワード様を見つめる。
ああどうしよう。
胸が高鳴るとはこういう事なのだろうか。
心臓がうるさい。
エドワード様から目をそらせられない。
「エドワード様は……素敵です……」
はっ!思わず言ってしまいましたよ!しかもガン見して!
「ありがとう」
微笑む彼の瞳に自分が映る。
今だけは自分だけを見てくれている。
その事実がたまらなく嬉しい。
この時間がずっと続けばいいのに。
しかし恋愛とは上手くいかないように出来ている。
そう、第六感の予見の力により見事に邪魔された。
それもとても恐ろしいものが見えてしまったのだ。
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