第28話 約束の日3

「夢子様、とてもお似合いですわ」



「今1番人気のヒート様のデザインドレスをお持ちだなんて凄い事です。予約でいっぱいだと聞いていますわ」



 ヒートさんに貰ったドレスに初めて袖を通した。

 予想以上に華やかで生地も軽くて。

 こんなドレス、成人式の写真撮影でさえ着たことのない……この平坦な顔立ちの私には絶対似合ってないと思うんだけどなあ……



「さ、まずはメイクですよ」



 ボールトン家のメイドさん達が5名、料理人6名、そしてボールトン様と執事さんがお店にやってきた。

 料理人さん達はお店のキッチンを使いあれやこれやと料理の下準備をしている。

 店のキッチンに6名て……ちょっと狭いだろうよ……

 執事さんはボールトン様と色々と話をしながらテーブルセッティングをされ、メイドさん達は私の着替えやらヘアメイクやらをして下さっている。


 なんでいつものティールームで食事するだけなのにこんな大掛かりな事になっているのか謎だ……

 ボールトン様は嬉しそうに「今日という日を楽しみにしていたのだよ」と言われるが、なぜボールトン様が楽しみにしているのだ……


 2階で支度をしてもらいながら、どうしてこんな大袈裟なことに……と頭を悩ませた。

 ただご飯食べるだけなのにこんな……

 戸惑って思考も停止しかけているのでメイドさんが何か話しかけてくるが適当な相槌しか出来ていないのが現状だ。



「夢子様、髪はどうされましょう?巻いてみますか?それともアップにしてボリュームをだしてみますか?髪飾りはこちらが良いと思いますわ」



 ええと……



「メイクはしっかりベースを作っていきます。あ、動かないで下さいませ」



 もう全部おまかせにする事にしました。

 皆様プロですしね。

 まるでセレブの高級ブティックにでも来たかのようだ。

 まあ、少しでもエドワード様に見合う姿になるよう祈ろう。

 でもこうやって色々と綺麗にして貰えるのって嬉しいな。

 せっかく女に生まれたんだからこういうのを素直に楽しんでもいいかも。

 しかしじっとしてなきゃならないのと、ものすごく時間がかかるのはしんどい。

 この世のお嬢様達って皆こんななのかな……大変だな。



「さ、夢子様、出来ましたよ。とてもお綺麗ですわ」



 お綺麗って……照れるじゃないか。

 お世辞が上手いんだから。

 てかいったいどれくらい時間がかかったんだろう。

 はかっておけば良かった。



「ほら、鏡でご覧になってください!」



 早く早く、とメイドさん達が急かす。

 恐る恐る全身を見てみる。

 どうなったかなあ。



「!?」



 驚きのあまり言葉が出ない。

 まじまじと鏡を覗き込んでしまう。

 これ、私だよな……磨けばなんとかなるもんだ……すごいよメイドさん達。

 薔薇のドレスに合わせたメイクは艶っぽく、アップにされた髪には赤いレースのリボンが品よく飾られている。

 精霊王から貰ったネックレスはそのままつけておくことにした。



「夢子様、エドワード様が下でお待ちです」



 メイドさん達がニコニコと満足そうに微笑んでいる。



「は、はい」



 緊張してきたよ。



「あ、あの」



 メイドさん達にお礼言わなきゃね。



「こんなに綺麗にしてくれて、ありがとうございます」



 メイドさん達が驚いたような顔をする。



「とんでもございません。私達はするべき事をしたまででございます。しかし……そのようなお言葉を頂けて素直に嬉しく思います」



 微笑むメイドさん達。



「さ、エドワード様の所へ」



 頷いて階下に降りた。

 ドキドキする。

 ただご飯食べるだけなのにね。

 降りるとジュリー、ボールトン様、エドワード様が何か話をしていた。

 最初に私に気付いたエドワード様。

 じっと見つめそして近寄ってくる。



「夢子……とても綺麗だよ」



 優しく微笑むエドワード様もしっかりと正装されている。

 どうしよう、かっこよ過ぎて直視できない……



「夢子さん、私とジュリーは出かけてくるよ。今夜は楽しんでくれたまえ。それにしても……本当に美しい」



「馬子にも衣装ってやつだな」



 ふっと笑ってしまう。

 ありがとうジュリー、見事に緊張とけたわ。


 2人を見送る。

 執事さんとメイドさん達が綺麗に一礼し出ていった。



 残ったのは私とエドワード様、料理人さん達。

 2人きりって訳ではないと思うと少しほっとする。

 やっぱ緊張するからね。



 エドワード様が席までエスコートしてイスをひき、座らせてくださる。

 こんな事されたの人生で初めてです。

 エドワード様も席につくとソムリエと思われる人がワインをついでくれる。



 お互いグラスを手に取り、少しだけ掲げる。

 カンパイの合図だ。



「「カンパイ」」



 長い夜が始まった。

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