第22話 お礼
『急がなきゃ!早く!早く!』
石畳の道を必死に走る。
苦しくて何度も立ち止まりそうになるけどそれを堪えてひたすら走る。
日が傾き始めている。
暗なる前に急がなきゃ。
早く、早く、エドワード様!
■□▪▫■□▫▪
はっと目が覚めた。
なんか急いでる夢を見ていた気がするが……もう忘れた。
頭がぼーっとしている。
ん?ここはどこだ?
周りを見ると二階にあるジュリーの部屋だとわかった。
あれ?私寝てた?何でここで?
しばし考える。
あ、そうか。
起き上がってそっと下に降りてみる。
お店はどうやら閉めているようだ。
「夢子!お前大丈夫か?」
「おはよー、ジュリー」
珍しく真剣な表情だ。
心配かけちゃったかな。
ジュリーがお茶をいれてくれる。
温かくて美味しい私の1番好きなアールグレイ。
「ありがとう」
ジュリーから私が倒れた後のことを聞いた。
倒れて一晩中寝ていたそうな。
男の子はすっかり元気になり後日改めてお礼に訪れるとの事だ。
今回エッグノッグで治癒した事は黙っててほしいと伝えたそうだ。
色々と面倒な事になりそうだし、私が倒れた原因がエッグノッグだとしたら噂が広がり作って欲しいと人が訪れ、作る度に倒れてしまうのではとジュリーが心配になったらしい。
ジュリーが私に何度も声をかけても起きないので医者に見てもらったところ、ただの疲労だろうとの診断だったのでそのまま寝かせておいてくれたそうな。
朝までぐっすりでしたか……
と、とりあえず家に帰った方がよさそうかな。
帰ったら怒られそう……
「まあ、お前が無事で良かった。心配したぞ」
頭をポンポンとしてくるジュリー。
「うん、ごめんね、もう大丈夫だから」
ポンポンされて思い出すのはエドワード様。
彼は怪我をしていないだろうか、無事だろうか。
「大丈夫ならいいが……やっぱり倒れた原因はエッグノッグ?魔法?」
「うーん……多分魔法だろうと」
真剣に祈ったからね、きっと魔法の力よね。
「人間慣れないことするもんじゃないね、平々凡々がいちばんだわ」
「お、お前ちょっと俺に似てきたな」
ニヤっと笑うジュリー。
え、私ジュリーに似てきた?それって褒めらる事じゃないよね、きっと。
「まあとにかく今日はゆっくり家帰って休め」
「うん、ありがとう、そうさせてもらう」
そうして少しぼーっとしながら家に帰ると案の定親に怒られた。
怒られながら昨日の夜の事を思い出す。
男の子のお母さんすごい心配したんだろうな。
自分の子供だもんね、心配して当たり前か……
「心配かけてごめんね、お母さん」
そう母に告げると『素直すぎて気持ち悪いわ』と言われた。
失礼な、素直に謝ったというのに。
■□▪▫■□▫▪
翌朝ティールームに行くと先日の男の子と女の人、父親と思われる人もお店に来ていた。
「初めまして、貴女が夢子さんですね、私はレイン・キャタモール。こちらは妻のアンビー、そして息子のディーター、息子を助けてくれて本当にどうもありがとう」
そう言って握手を求められる。
手を出すとしっかりと両手で握られた。
「息子は産まれた時から病気がちで……今回は本当にもう、その、ダメかと思ったんだ……今こうして息子の元気な姿が見られて、これからの成長をこの目で見られるのが本当に嬉しい。心から感謝します。ありがとう。あなたは息子の命の恩人だ」
キャタモールさんの手が微かに震えている。
目も赤い。
涙を堪えているようだ。
「お役に立てたなら、嬉しいです」
そう言うとキャタモールさんは微笑んでくれる。
「お姉ちゃん、どうもありがとう!お姉ちゃんは大丈夫だった?」
「私も気になってまして……お身体、大丈夫ですか?」
ディーター君とアンビーさんから心配される。
私もすっかり元気ですよー。
「1晩寝たら元気になりました。大丈夫です、ありがとうございます」
まあ、確かに目の前で人が倒れたら心配にはなるよね。
「お姉ちゃん、これあげる」
そう言うとアンビーさんがなにやら大きな箱を渡してくる。
「お礼のひとつです。どうぞ受け取ってください」
お礼なんていらないのにな……
「ありがとうございます」
でもここは素直に受け取っておこう。
「夢子さん、ジュリーさん、何か必要なものや助けがあれば言ってください。キャタモール家が必ず力になります」
「今度は僕がお姉ちゃんを守ってあげる」
そう言うとディーター君は優しく私の手を取り、手の甲に軽くキスをしてくれた。
か、かわいい!何このかわいい生き物!!どうしよう、お姉さんキュン死しそう!!
隣から冷ややかなおっさんの視線を感じるが無視しておこう。
「失礼致します、旦那様……」
ドアが開いて執事らしき人が入ってくる。
「すみませんが、そろそろ行かねばなりません。今度は客としてゆっくり来させて頂きます」
そう言ってキャタモール家の皆様はお帰りになられた。
頂いた箱を開けてみればそれはそれは豪華なティーセットが。青くて小さい綺麗な花が描かれている。
せっかくだからこのティーセットで朝のお茶を楽しもうとジュリーと2人で準備している時だった。
「おはよう、ジュリー!」
「おはようございます」
ヒートさんとダリアさんだ。
「今日は夢子君も朝からいるのだね!おはよう夢子君!ん?そのティーセットは……よく見せてくれるかい?」
え、もうお茶カップに淹れちゃったよ。
近くに来てじっくり観察するかのように見ているヒートさん。
「こ、これはっっ!!」
ヒートさんが震えだす。
「これは……この絵付は……ノエ!!」
のえ?
「ノエですって!?見せて下さいませ!!」
あら?ダリアさんも興奮してます?
「ジュリー、このティーセットはどうしたんだい?ノエの作品なんてなかなかお目にかかれないアンティークじゃないか!」
「「え……」」
2セットのティーカップ。
2つ目のカップに注いでいたお茶の手が止まる。
といってもほとんど注いでしまったのでなんの意味も無い。
「ど、どうしよ、注いでしまったよ高級品に……」
「いれてしまったものはしょうがない、思い切ってこのまま飲もう!お前らには飲ませんからな!」
ヒートさんとダリアさんを見てからグイッと飲むジュリー。
ええい、私も飲んでやる!
「「こ、高級な味がする……」」
所詮私とジュリーは庶民である。
茶葉はいつものダージリン。
カップは超高級品。
アンティークなんて言われなければわからないのだ……そんなすごい物だとは。
貰ってしまったよ、どうしよう。
ヒートさん達には人助けのお礼に頂いたと言っておいた。
こんな立派なお礼をくれるなんて余程の事だ、誰から貰ったんだと色々と聞かれたが突っ込まれるとめんどくさいので秘密にしておいた。
しかし翌日レイン・キャタモールさんがご来店する事により、ティーセットの秘密はあっさりとバレるのである。
キャタモール家とは公爵様、国の軍事を任される権力のある有力者だったのだ。
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