第23話 精霊王について

 翌朝ティールームに行くとヒートさんとダリアさん、キャタモールさんが訪れていた。



「そう、私はアンティークを集めるのが好きでね、ノエもそのひとつだったんだ」



「ノエの絵付を間近で見られて本当にラッキーでしたよ!」



 何やら盛り上がっているな……



「おはようございます」



「夢子君、おはよう!」

「おはようございます」

「ああ、夢子さんおはよう」



 着替えてカウンター内に入る。



「夢子君、君の活躍を聞いたよ!すごいじゃないか!」



 え?活躍?



「すまん夢子、ヒートさんにバレてしまった」



「大丈夫、君のエッグノッグ話は誰にも言ったりしないよ!それにしてもあのノエのティーセットはキャタモール公からだったのだね!納得したよ!」



 そ、そうですか。

 何に納得?ジュリーの顔を見ると察したのか答えてくれる。



「キャタモール公は公爵家のお方だ。この国で軍事権力、財力トップクラスの一族、日本でいうと徳川家みたいな感じだな」



「え、そんなすごいお方……」



 ど、どうしよ、ひれ伏した方がいいのかしら……



「ああ、夢子さん、そんな堅苦しく考えないでくれ。このティールームではそんな階級なんてないものだと思って接してほしい。ここに訪れる貴族は皆そう思ってるよ」



 そ、そうなのかな……



「このティールームの歴史は長い。先祖代々皆ここで階級を気にせず紅茶を楽しんでいたんだ。私はディーターが産まれてから来られていなかったが……今は君のおかげで心に余裕が出来たよ」



 にこやかに話してくれるキャタモール様。



「ところで、私もディーターに飲ませてくれたエッグノッグをのんでみたいのだが……お願いできるかな?」



「はい、お待ちください」



 ジュリーが少し心配そうな顔をしたが大丈夫、もうぶっ倒れたりしないよー。



 ヒートさんとダリアさんも飲みたがったので3人分だ。

 材料は卵がなくなったのでこれでラスト。



「どうぞ」

 出来たエッグノッグをお出しすると皆さんカップを手に取り口に運ばれる。



「うまい」

「美味しい」

「素晴らしい!」



 それぞれ感想を述べて下さる。

 こうやって喜んでもらえるとやっぱり嬉しいな。



「夢子君のいれるお茶を飲むといつも幸せな気持ちになるのだよ。やはり水の精霊王に愛されているからかな」



「「あ……」」



 ジュリーと声が被る。



「水の精霊王?」



 キャタモール様が首を傾げる。



「あ……」



 しまった、という顔のヒートさん。

 はあ、と深いため息がダリアさんからもれる。

 ついうっかり言ってしまったよヒートさん。

 もう出禁だ出禁。



「ええと、その……」



 気まずそうに私を見てくるヒートさん。

 もういいや、話してしまおう。

 流石に火の精霊王は黙っておいた方が良いよね。

 キャタモール様に水の精霊王に会った話をする。



「夢子さん、精霊王に会える人間なんていないに等しい……君は精霊王の事をどれだけ知っているのかな?」



「ほとんど知らないです……」



「この国にいるなら知っておいた方が良いだろう」



 そう言って咳払いをしてから語り始めたキャタモール様。



「この国には精霊王が4人いると言われている。水、火、風、土、そしてそれらの頂点に立つのが精霊神。その精霊神がこの国を護ってくれていると考えられていてね、人々は精霊によって毎日を生かされ、神殿では神官たちが日々精霊王、精霊神に祈りを捧げている」



 精霊神なんていらっしゃるのね。



「水の精霊王に愛された者は治癒の力、火の精霊王に愛された者は予見の力、風の精霊王に愛された者は強靱な力、土の精霊王に愛された者は繁栄の力をそれぞれ得られると言われている」



 ほうほう。



「夢子さんの治癒の力は正に水の精霊王に愛された証だろう」



 ほへー。

 なんか現実味ないから他人事みたいに聞こえちゃうなあ。



「夢子さん、貴女に自覚はないかもしれないが、この国にとって貴女はとても貴重な存在だ。陛下……王に匹敵する権力があってもおかしくない程に」



 え……今なんと?



「貴女がこの国に住まうならば貴女の住む場所は精霊神殿であり、ここで働くという事は出来なくなるだろうね」



「え、あのちょっとごめんなさい、話についていけなくなってます」



 混乱してきましたよ、何がなにやら。



「私にとって貴女は息子の命の恩人だ。貴女が望むならば陛下と大神官に話をしておくし、もし貴女がここにいたいと願うならば何も知らない事にしておくよ」



 あわわわわわわ。



「な、何も知らない事にしておいて下さい!私はここで働いていたいんです。それに……それに、私はこの国の人間ではないので、このティールームからは出られませんから」



 そう、この国の人間ではないのだから。



「君が招かれ人だという事は周知の事実だよ。もしも君がこの国に留まる事を選んだ時は、その時は必ず君の助けになろう。約束するよ」



 穏やかに微笑まれるキャタモール様。

 少しほっとしつつもモヤモヤとした気持ちになる。

 もし精霊王の慈愛を受けた事が世間に知られてしまったら……私はどうなるんだろう。

 平々凡々が1番だと言っておきながらその反対を突き進んでしまっている気がする。



 程なくしてヒートさんダリアさん、キャタモール様は仕事に向かわれた。



「ジュリー、私平々凡々でいたいな……」



 ボソッと呟くとジュリーに「わかってる」と言われ頭をグシャグシャにされた。



「お前は精霊王よりエディだもんな」



 おおう!



「エドワード様は何も関係ないでしょが」



 全くもう。



「平々凡々言うけどな、もしエディと一緒にでもなったらそれはそれで大変だと思うぞー、なんせ伯爵様だからなー」



 ニヤニヤしながら話すジュリー。



「一緒にって、なんでそんな話になるの!」



「うひひひ、まずはディナーだな、ディナー、もう数日したらエディ達も帰ってくるさ、キャタモール公にいつ帰るか聞けば良かったな、エディ達の上司だかんな」



「あ、そうか。軍事権力保持者だって言ってたよねキャタモール様は」



「まあそのうち帰ってくるさ。エディとのディナーしっかり楽しめよー」



「もうからかわないでよ!……ん?」



「どうした?」



「ディナーって言った?」



「あ?ああディナーだ」



「えええええ!ランチじゃないの!?」



「お前、どこの世界に男女2人で食事って言ってランチする奴いるんだよ、友達かよ」



「え、友達じゃないの?!」



「俺に聞くな!」



「ええ!?ディナー?ええ!?」



「うるせーな、いい歳して男と2人で食事なんて普通だろ?なんだお前デートした事ないのか?」



「ない!!」



「いばるな!まじかよお前、23年間何して生きてたんだ」



「うわーん!ジュリーがいじめるよおおおお」



「わめくな!とにかくディナーはニコニコ笑って話しながら飯食えばいいんだ、それだけなんだから純粋に楽しめ!」



「き、緊張して楽しめない」



「食事やら何やらはボールトン伯爵が用意してくれるから手ぶらで大丈夫だぞ、あ、ヒートからもらったドレスは用意しとけよ」



「ええ!あれ着るの!?」



「当たり前だ!」



「ひいいいい!」



「……当日逃げるなよ」



「ひいいいい!」



 もう何がなにやら。

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