第21話 魔法の力?

 エッグノッグで回復したらしいジュリーはその後すっかり元気になりいつもの様に接客をした。



 案の定他のお客様が皆して『私にもエッグノッグを!』と言って注文してくるのでひたすら卵を割りまくった。

 でも誰も風邪なんてひいてないのでジュリーに現れたような目に見えた効果は感じられない。

 それでも皆様『飲んだら元気が出てきたよ』と言って嬉しそうに帰って行かれた。

 いや、うん、元気になったなら嬉しいんだけどね、結局何で治ったんだろう?本当にエッグノッグ効果?



「絶対エッグノッグのおかげだって!飲んだら急に元気になったんだぞ。それ以外考えられん」



「えー、でもエッグノッグで瞬時に治るなんてありえないよ」



「魔法じゃね?魔法」



「そんな魔法あったら医者いらなくなっちゃうよ」



 お店を閉めた後ジュリーと話していた時だった。

 ドアを大きくノックする音が聞こえた。



「すみません、お願いです、開けてもらえませんか?」



 女の人の声がした。

 焦っている様に聞こえる。

 なんだろう?

 ジュリーがドアを開け女の人を招き入れる。

 メイドさんらしき人も一緒だ。

 とても身なりの良い女の人は3歳くらいの男の子を抱き抱えている。

 気のせいかな?男の子はかなりぐったりした様子だが……



「遅くにごめんなさい。お友達から聞きましたの。こちらで出されたエッグノッグを飲むとどんな病気もすぐに治ると」



「え?」



 なんか話が誇張されてませんか?



「お願いです、この子熱がさがらずに7日経つんです。咳も出て苦しそうで」



 目に涙を溜めて訴えるように話し出す。



「どんな医者に見せても治る様子がなくて……こちらの噂を聞きまして、いてもたってもいられず皆の反対を押し切って屋敷を出て来てしまいましたの……お願いです!どうかこの子を助けてくださいませっ!」



 最後には泣き出してしまった。



「私からもお願いします。どうかエッグノッグをお願いします」



 メイドさんも心配そうな顔をしている。



「とりあえず座ってください」



 ジュリーがテーブル席へと案内し座らせる。

 子供がコンコンと咳をし始めた。

 可哀想に、苦しそうだ。



「夢子、エッグノッグだ」



 はい?本当に作るの?



「あれは間違いなく薬になった、とにかく作ってみろ」



「お願いします!」



 期待の眼差しが痛い……作って飲んで何も起きなかったらどうすんの。



「あの、私は医者ではなく単なるここのバイトなんです。作って効果があるとは言いきれません……」



「それでも構いません!色々と試してダメだったんです、もうここしか頼れないのです」



 しっかりと子供を抱きかかえ、泣きながら強く言ってくる女の人はよく見ると目の下に大きなクマがあり青い顔をしている。

 心配と不安、看病疲れだろうか。

 自分の子供が治らない病気にかかってしまったら……それはどんな事よりも辛いだろう。

 私に子供はいないけど、家族や大切な人が病気になったら絶対に悲しい。


 子供の咳がとまらず女の人はずっと背中をさすっている。

 見ていて心が痛くなった。



「……作ります」



 やれるだけやってみよう。

 作って効果があればそれでよしなんだから。



 卵はまだある。

 牛乳もある。

 お酒は……子供だしな……香り付け程度なら良いかな。

 なんてこった、手が震えてる。

 どうしよう、緊張する。

 チラと子供の姿を見た。

 苦しそうに咳をしながら全身で息をしているようだ。

 可哀想に……


 ……しっかりしなきゃ。

 首を横に振って集中する。



 そっと精霊王からもらったネックレスに触れてみる。



『大丈夫』



 そんな言葉が聞こえた気がした。



 卵を割り、牛乳、砂糖を鍋に入れる。

 子供が元気になるように、可愛らしい無垢な笑顔が見られるように、気持ちを込めてしっかりとかき混ぜる。

 鍋を火にかけ温めている間も全快するよう祈る。

 このエッグノッグで助けることが出来ますように。


 最後に少しだけラム酒を垂らして……



「出来た……」



 飲ませやすいようにスプーンと一緒にお出しする。



「どうぞ」



「ありがとうございます!」



 メイドさんと一緒に子供にエッグノッグを飲ませる女の人。

 スプーンで少しづつだが確実に飲めているようだ。

 皆が見守る中、半分くらい飲み終えた頃だった。


 咳が治まり、呼吸が落ち着いてきた。

 閉じたままだった瞳がゆっくりと開き、大きなブルーの瞳が女の人をとらえる。



「かあ……さま?」



 小さく掠れた声でそう言われた女の人は大粒の涙を流しながら男の子を抱きしめた。



「ああ、よかった!よかった、私のディーター!」



 少し困った様子の男の子は女の人の頭を一生懸命撫でながら顔を覗き込む。

 その仕草がとてもとても愛らしい。



「泣かないで母様」



 咳が止まり顔色がすっかり良くなった男の子はとても元気そうに見える。



 ああよかった。

 治ったようだ。

 すげーよエッグノッグ。


 ホッとしたら、急に力がストンと抜けた。

 天井が見える。

 ジュリーが何か言ってる気がしたがどうせいつもの適当なセリフだろう。

 眠くて目を開けていられない。


 すまんジュリー、少しだけ休ませて。

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