第5話「逆境が男の器を磨く」

裸のリカちゃん人形を、部屋の隅っこに放り投げて、オレは明日の計画のシュミレーションを開始した。


オレに無視を決め込む小西を、こちらへ振り向かせる方法。


それは小西のことを


「新田マッケンユー」


と呼ぶのである。


新田マッケンユーは、父を千葉真一に持つ、まだ若い日本のイケメン俳優だ。男であるならば「イケメン」と呼ばれることは嬉しいものだ。それならば


「新田マッケンユー」


と呼ばれることも、小西は嬉しいのではないだろうか?学校でおもむろに彼を「新田マッケンユー」と呼ぶ。そう呼ばれたら


「やぁ大東、誰がイケメンだって?」


とまんざらでもない表情を浮かべて反応してくれるはずだ。


これは妙案だと我ながらに思う。


そうと決まれば今日は早く寝て、明日に備えるとしよう。




※次の日※




オレはまた早めに起きて、学校の校門の前で小西が登校してくるのを待った。今日はオレの鞄にリカちゃん人形は付いていないので、オレのことなど気にかける者はいない。


数分後に、登校してくる小西を遠くに確認することができた。


そしてオレの声が届く間合いに小西が入ったので計画の実行だ。




「おはよう。新田マッケンユー」




泣く子も黙る男前



将来有望なイケメン俳優



そんな名前で呼ばれた小西は…










無視である









ピクリともしない










オレのことが空気にしか見えてないのか、こちらをチラとも見ずに学校の中に入っていった。


オレは教室に入り、自分の机の椅子に着席をした後に、自前の国語辞典で


「無視」


の意味を調べた。


【名】

存在価値を認めないこと。また、あるものを無いがごとくみなすこと。





小西のおかげで無視という言葉の意味を深く理解することができた。






この計画は何がいけなかったのか?オレはそれを少し思案した。




その刹那!



頭の中に閃きの雷光が走った!



「存在価値を認めない」


存在価値…


これだ!




つまり小西は新田マッケンユーのような優男系のイケメン俳優が好きではないのだ。男の魅力というものは様々にある。実は小西は


「ラグビー選手のような筋骨隆々な男」


が好きなのかもしれない。オレは重大な思い違いをしていたのかもしれない。


そして癖の強い小西のことだ。ただムキムキの男の名前を言われたぐらいでは喜ばないかもしれない。



と、ここでまた妙案が浮かんだ。



「リーチマイケル」



と小西のことを呼ぶのである。


リーチマイケルはラグビー日本代表のチームのキャプテンである。もちろん本人の肉体の筋肉も凄まじいが、リーチマイケルは屈強な日本のラグビー選手を束ねる司令塔という点だ。


つまり「筋骨隆々の上に立つ者」というわけだ。


リーチマイケルと呼ばれた小西が



「やぁ大東、お前はオレが賢いムキムキマンだと言いたいのかぁ?」



と、惚れ惚れとした表情を浮かべて反応するに違いない。


そうと決まれば今日も早く寝て、明日に備えるとしよう。




※次の日※




オレはまた早めに起きて、学校の校門の前で小西が登校してくるのを待った。今日もオレの鞄にリカちゃん人形は付いていないので、オレのことを気にかける者などいない。



数分後に、小西を遠くに確認できた。



またしても、オレの声が届く間合いに小西が入ったので、計画の実行である。




「おはようリーチマイケル」





屈強な日本代表ラグビー選手たちのブレーン




男の中の男




そんな名前を呼ばれた小西は…












黙殺である












またしてもピクリともせずに、学校の中に入っていった。


オレは教室に入り、自分の机の椅子に着席して昨日同様、自前の国語辞典を取り出し


「黙殺」


の意味を調べた。


【名】

無視して取り合わないこと。



なるほど。昨日に「無視」の意味を深く理解できたことが、さっそく役に立ったわけだ。






※ ※ ※







学校から帰宅してオレは考えた。


新田マッケンユーでも、リーチマイケルでもダメであるならば、他にどんな名前で小西を呼べばいいのか?






名前







名前!?










その時、またしても頭の中に閃きの雷光が走る!





彼のニックネームは「小西」である。それは彼が「ドン小西」に似ていることが由来なのだ。



オレはまたしても重大な思い違いをしていたのかもしれない。


彼は今の「小西」という呼ばれ方を、とても気に入っているのではないか?


それならば


「新田マッケンユー」

「リーチマイケル」


と、呼ばれようが興味を示さないに決まっているではないか。





原点回帰である





ドン小西で攻めるのだ




そうと決まれば、さっそく自宅のパソコンを開き、アマゾンでドン小西の著作した本を探した。さっそく見つかり、この目に飛び込んできた本のタイトルが


「逆境が男の器を磨く」


という、まさに今のオレにピッタリのものだった。そして値段も「1円」という、まさにこの計画にうってつけの本だった。



この本を購入することに決めた。



そしてこの本を小西の近くで読むのだ。



それを見た小西は



「やぁ大東、面白そうな本を読んでいるなぁ」



とオレに話しかけてくるはずである。




そうと決まったので、アマゾンでこの本の購入手続きを済ませた。




そして3日後の夜に、その本は届いた。




※その次の日※




今日は朝の教室での勝負だ。



さっそく机の椅子に着席している小西の周りを、この


「逆境が男の器を磨く」


という本を読みながらウロつく。








どうだ小西








気になるだろう?









話しかけてこい









「大東よ」








!!









小西が話しかけてきた!






「お前が何やら色々としているのは気づいていた」



小西は続けて、こう言った。



「お前は何か大事なことを忘れてやしないか?」


「あれか、リカちゃんのお父さんのピエールを、リカちゃんと一緒に鞄に取り付けなかったことかい?そのことは少し悩んだのだがなぁ」


「違う、お前はオレの日記を勝手に読んだことを、オレに一言も謝っていない」







そう言われてハッと気づいた。






「そうだったな…。すまなかった小西。許してくれ」


「もういいよ。それにしてもお前は変な発想で行動し過ぎだ。全部見てたし、聞こえてたぜ」


「お前と仲直りしたくてな」


「お前さ、オレの日記を読んだということは、オレが今 恋をしている ひろこちゃんのことも知っているのか?」


「いや、それは知らなかったが。なんだ、お前は いま恋をしているのか?」


「そうなのだ。完全な片思いだがな。また相談に乗ってくれ」


「わかったぜ。また話そう」







こうしてオレは小西と仲直りをした。





こいつとはいつまでも親友でいたいものだ。





※その夜※





「逆境が男の器を磨く」


という、このアマゾンから1円で買った本を、メルカリに1000円で出品したらすぐに売れたのだ。



偶然ながら、転売の手伝いまでしてくれる小西のことが、オレは大好きである。









本が売れたその直後、小西からオレの携帯電話に着信があった。



すぐに電話を取って話した。



「大東聞いてくれ!今度の日曜日に、ひろこちゃんと2人っきりで遊びに行くことになった!ぜひともここで男を魅せたい!妙案があったら教えてくれ!」


「そうなのか!?わかったぜ!オレに任せろ。お前を男にしてみせるぜ」





こうして、オレは小西の恋のキューピッドになるべく、次なる計画を企むことになったのだった。

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足元 空飛ぶゴリラすん @vetaashi0325

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