ふたりのほうが

勝利だギューちゃん

第1話

「ここは、どこだ?」

暗闇の中にいる。


真っ暗だ。

何も見えない。


あっ、あそこに灯りがある。

とても小さいが・・・


行ってみよう。


「あれは、罠よ」

その声に、思わず立ち止まる。

「誰?」

「いいから、そこにいて」


その言葉に従い、僕は立ち止った。


「よかった。間に合った」

声からすると、女の子のようだ。

でも、世格好はわからない。


「君はだれ?僕は・・・」

「君は、幸喜くんでしょ?」

「どうして知ってるの?」

「私は、ピヨン。君のナビゲーターよ

「ナビゲーター?」

「うん。この道のね」


道と言っても、僕には見えない。


「さっき、あの灯りが罠だって言ったけど」

「うん。あれは疑似ね。獲物を引き寄せて食べるという」

「そうなんだ」


ここは、どこなんだ?


「さあ、手をとって幸喜くん。君をここから出してあげる」

「うん」

差し出されたと思う手をとる。


温かい・・・でも、小さい・・・

異様なまでに・・・


「驚いた?」

「うん」

「私は、君たちとは異なる存在だもん」

「そうなんだ」


納得するしかなかった。


「で、ここから出してくれるのは?」

「私の言う通りにしてくれればいいから」


僕は、頷いた。


このピヨンと名乗る女の子には、僕が見えているのか?


「私には、君は見えてるよ」

「本当に?」

「うん」

声は笑っているように感じた。


「まずメガネをかけているね」

「うん」

「一重だね」

「ああ」

「鼻は大きいね」

「正解」

「唇は薄い」

「その通り」

「福耳」

「よく言われる」

「鼻の下に、ほくろがある」

「ああ」


そこまで見えているのか・・・


「体型は、痩せている。もう少し太ろうね」

「余計なお世話だ」

「フフフ」


何者だ?

この子は・・・


「随分歩いてるけど」

「まだ、そんなに歩いてないよ」

「どのくらい?歩いてるの?」

「30分程かな・・・」


時間の感覚が、麻痺しているのか・・・


「で、どこまで行くの?ピヨンさん」

「ピヨンでいいよ。もうすぐだよ」

「うん」

「ねえ、幸喜くん、『名は体を表す』って知ってる?」

「うん」

「どうして、その名になったか知ってる?」

「幸せを喜べるようにと、言ってた気がする」

「正解」


何で知ってる?


「私の名前の由来はわかる?」

「知らない」

「考えてみて?」


そう言われても・・・


「ピヨンは、フランス語で蝶を意味するパピヨン?」

「当たり。さすがだね」

いや、憶測です。


「で、パがないのはどうしてかわかる?」

「そこまでは?」

「頭ひとつ、抜けた存在になって欲しいんだって」

「そうなんだ」

「でも、現してないけどね・・・」


何が言いたいんだ?彼女は・・・


「さっ、着いたよ。でも、少し待っててね」

「うん」

ピヨンは、どこかへ行ったようだ。


「幸喜くん、もういいよ」

「どうするの?」

「手を伸ばしてみて」

言われた通りに手を伸ばす。


ドアノブ?


「開けてみて」

「引くの?押すの?」

「どっちでも開くよ。好きにして」

そう言われても・・・


仕方ない。

押してもだめなら引いてみな


引いてみる事にした・・・


眼が見える。

ここは・・・

お花畑?


見た事もない花が、一面に咲いている。


たくさんの人がいる。

でも、彼らは確か・・・


故人?


するとここは・・・


「あの世だよ」

ピヨン?

どこにいるの?


「君の肩の上」

見るとそこには、童話で見るような、蝶の妖精がいた。


「やあ。幸喜くん。驚いた?」

「ああ。そんなに小さかったんだ」

「うん。でも、残念ながら君は、死にました」

「だよね。わかるよ」

「驚かないの?」

「ああ」

「心臓に毛がはえているね」


皮肉だな。


「あの時、君がドアを押していたら、未来は開けてた」

「そうなんだ」

「後悔していない?」

「うん」


ピヨンは、全てを悟ってくれたようだ。


「じゃあ、行こうか。」

「どこへ?」


【新しい世界へ】


明るい所を1人で歩くより、暗い所をふたりで歩くほうがいい。

僕はもう、1人ではないのだ・・・

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ふたりのほうが 勝利だギューちゃん @tetsumusuhaarisu

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