第349話 突入の前に

 敵は倒した。『棺』まではあともう少し。できることなら、敵の増援が来る前に入ってしまいたいところであるが――


 いままでのことを考えると、そう簡単に進んでくれるとは思えない。無論、なにもなければそれに越したことはないが、大抵の物事は自分の思うように進んでくれるものではないのである。警戒を緩めず、先に進むしかない。


 竜夫は空にばら撒かれたままの機雷を避けながら、『棺』へと向かっていく。敵を倒したというのに、残っていた機雷に当たってやられてしまっては元も子もない。最低限、ここを抜けるまでは細心の注意を払いながら進んでいこう。


 背後で戦っていたティガーたちの戦いも終わりを迎えつつあった。彼らが命を賭して背後を守ってくれなかったらどうなっていただろう? 最初に戦うことになった大量の自律兵器に圧し潰されていたかもしれない。


 一緒に戦ってくれた彼らのためにも、なんとしても勝利をつかまなければ。未来を託されたものとしての責務を果たさなければ。


『そっちはどうだ?』


 竜夫は逆側から『棺』へと向かっているはずの大成に話しかけた。


『なんとか敵は倒した。聞いた感じだと、まだ余裕はありそうだな』


『……どうだろうな』


 ある程度の余裕があることは間違いない。だが、いつまで力を温存していられるかは不明瞭である。『棺』についたからと言って、戦いが終わるわけではない。ここからも幾度となく戦いは続く。『棺』にあるはずの、竜たちの本体を破壊しない限り。


 あと少しで、残された機雷が設置された場所を抜けられる。これで明らかな邪魔はなくなり、進みやすくなるが――


 そこまで考えたところで――


「な……」


 設置されたままになっていた機雷が動き出した。近場に設置されていたものが、いくつもこちらへと迫ってくる。


 竜夫は振り返り、銃を創り出して向かってくる機雷を撃墜。だが、未だに無数に残っている機雷は次々と動き出し、こちらへと迫ってくる。


 なにがどうなっている? あの機雷を設置したあいつは倒したはずだ。であれば、勝手に動き出すはずがない。


 竜夫は次々と迫ってくる無数の機雷を撃墜していく。動きこそ速いものの単調なので、狙うのはそれほど難しくないが、いかんせん数が多い。かなりの威力を持つ機雷がこれだけの迫ってくると、さすがに無視して進むわけにもいかなかった。


 くそ。一体なにが起こったのか? 先ほど倒した奴は偽物で、本物がまだ残っているのだろうか? しかし、奴と戦った感触からして、あいつが偽物だったとは思えない。それとも、別口の敵がまだいるのだろうか?


 せっかく勝利を収めたというのに、すぐに足止めをさせられるとは。だが、悔やんでもいられない。現実として敵の邪魔はまだ終わっていないという現実は変わらないのだから。なんとかして先に進まなければならない。


『棺』の方向へ進みながらも、向かってくる無数の機雷を銃で撃墜していくが、その数は極めて多かった。減っていることは間違いなかったものの、状況を考えれば、残された霧すべてを撃墜しているような時間などあるはずもない。


「ちっ……」


 何故このようなことになったのかまったく不明だが、どうにかする以外、ほかに選択肢はなかった。


 とはいっても、機雷に手間取っている間に、別の敵が現れることも多いにあった。これ以上のここでの戦いは、できることなら避けるべきだろう。なんとしても前に進まなければならないが――


 残された機雷の数は無視できるような数ではなかった。なにしろ、あの機雷はその爆発をまともに受ければ、そのまま戦闘不能になりかねない威力を持っているのだ。そんなものが、数えるのも億劫になるほど残っている。すべてを無視して進むにはあまりにも危険すぎた。


 竜夫は迫ってくる無数の機雷を迎撃しながら、あたりに目を巡らす。


 いまのところ、敵の姿はない。先ほど倒したのが偽物であったとは思えなかった。現段階では別の敵が隠れ潜んでいた可能性も低い。となると――


 奴は、自分がやられた時のことも見越して、やられてしまったとしてもこちらの邪魔ができるような手立てを組んでいたと思われる。設置された機雷が動き出したのもそれが理由であろう。敵ながら用意周到だ。


 向かってくる機雷を撃墜する。


 機雷の動きを見るに、奴が健在だった時のように高度な動きはしていなかった。恐らく、いまの機雷は、奴がやられたときにあらかじめそう動くようにプログラムをされていたと思われる。たぶん、いくつかの簡単なパターンに基づくものだろう。奴が直接動かしていたときのように高度で複雑な動きをしてこないことは救いであるが、これだけの数があるとそれでも充分に厄介なものであった。


 無数の機雷が次々と迫ってくるせいで、なかなか前に進めない。時間が経てば経つほど、こちらの状況は悪くなっていく。早く進まなければならないのに、それができない状況。その焦燥はじわじわとこちらに焦りを生み出させていった。


 焦るべきではないことはわかっている。同時に、悠長に戦っていられる状況でもなかった。


 くそ。どうするべきか? このままだらだらと戦っているわけにもいかなかった。こちらはどこまでも有限の存在である。いつまでも戦っていられるはずもない。


 こうなったら、あの機雷を一気に破壊できるような力を放つか? 竜と化したいまの全力を出せば、殲滅はできなかったとしても、相当の数を減らすことはできるはずだ。あれだけの数を一気に破壊するとなると、相当な消耗になるが、このままだらだらと戦っているよりはいいだろう。必要以上に消耗を恐れた結果、気づいたときには消耗しきっていたというのが一番怖い。それなら、ここで一気に力を使って、支払うコストをできる限り抑えるべきであるが――


 そこまで考えたところで、竜夫は大成のほうがどうなっているのだろうと思った。向こうもこちらと同じように邪魔をされているのだろうか? 奴のほうでもなにか起こっていたとしても、不思議ではないが――


『そっちはどうなっている?』


 竜夫が交信すると、『厄介なことになった』とすぐさま声が返ってくる。


『どうやら、〈棺〉は障壁かなにかが守られているようだ。恐らく、全方位にわたるものだろう。攻撃してみたが、かなり強力でびくともしねえ。あれをどうにかできなきゃ、俺たちはあそこに辿り着けねえな』


 竜夫は『棺』へと目を向ける。


『棺』のまわりには、ここからでもはっきりと見える障壁があった。恐らくそれは、先ほど戦いで奴が使っていたものと同じものであると思われる。であれば、それを破るのは容易ではない。


 やられてもなおこちらを行かせないとは。つくづく用意周到な奴め。自分がやられたとしても敵をしっかりと足止めできる策を考えているとは、敵ながら見事であるとしか言いようがなかった。


 大空の戦いは、まだ終わらないらしい。

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