中国人日本語学習者のアクセント(音调)にありがちな誤形成について
外国人の方はあまり気にしていないかもしれないが、日本語には一応「高低アクセント pitch accent」というものがある。私は以前、方言のアクセントや外国人が日本語を学ぶときにどういったことが問題になるか研究していたことがあった。
日本語のアクセントというのはある意味で中国語の声調と似ていて、例えばある単語のアクセントがXと決まっていたら、その単語が文章内のどこの位置に来てもその単語のアクセントが変化することはない。日中双方で例を挙げよう。
箸(はし) 高低
箸がある。 高低低・高低
私は箸を買います。 低高高高・高低低・低高高低
それは箸? 低高高・高低
筷子 kuai4zi0
筷子背后的历史 kuai4zi0bei4hou4de0li4shi3
使用筷子 shi3yong4kuai4zi0
这里有筷子吗? Zhe4li0you3kuai4zi0ma0
箸、筷子という二つの名詞は文中のどこに来てもアクセント・声調は変化せず、「はし」なら「は」の方が高く発音され、kuai4zi0ならkuai4の声調はいつでも第四声になる。
しかし英語の場合、
Chopsticks are eating utensils.
Do you have chopsticks?
と言った場合、chopsticksのword stressは一音節目にありそこは変化しないが、イントネーションとしては一つ目の文の場合一音節目が高く、二番目の文の場合は二音節目が高く発音される。このように、英語やほとんどのヨーロッパの言語では同じ単語内の音節の高低関係はイントネーションに依存しており、文脈によって変化する。
そういうわけで、英語母語話者が日本語を話すと、
誰(だれ) 高低
誰が行きますか? 高低低・低高高低低
あなたは誰? 低高低低・高低
という二つの文を読むと、二番目の誰を低高?と発音してしまうことが多い。
しかし中国人学習者の場合、そもそも中国語が声調言語であるためこうした単語一つ一つの発音や聞き取りは問題がないことが多い。
だが、中国人学習者に典型的なアクセントの言い間違いがいくつかあるので紹介しようと思う。
●「家が」
「家」のアクセントは低高であるが、「家が・家に・家を」など助詞がつくと低高低と発音される。しかし同じ低高である「鳥」は「鳥が・鳥に・鳥を」などと言った場合低高高と発音される。これは「鳥」という名詞は平板式、「家」という名詞が起伏式アクセントの名詞だからである。
日本語のアクセントは大きく分けて平板と起伏の二種類で、日本語にあるあらゆる単語がどちらかのカテゴリに属する。
・平板
牛(うし)、魚(さかな)、散髪(さんぱつ)など低高高……と発音されるもの
・起伏
神(かみ 高低)・卵(たまご 低高低)・神奈川(かながわ 低高低低)など高低、低高低という感じで途中から低く発音されるもの
こう見ると「家 いえ」は低高であるので一見平板に見えるが、実はこれも起伏式のアクセントの名詞(尾高型と呼ばれる)で、二番目の拍の「え」にアクセントの核がある。そういうわけで「家が」は低高低と発音されるのだが、中国人の多くはこうした尾高型の名詞、例えば「山が」「川が」「石が」と言ったものを低高高と平板で発音してしまうことが多い。
●「食べた」
動詞にも平板と起伏といったアクセントがあり、例えば三拍動詞(簡単に言うとひらがな三文字の動詞)は低高高、低高低のどちらかのパターンであることが多い。
・平板式の動詞
変わる、消える、燃える、など
・起伏式の動詞
食べる、見える、慣れる、など
平板式の動詞は活用してもアクセントが平板のままなので、変わる 低高高 変わった・変わって 低高高高 変わらない 低高高高高 という感じで発音すればいいのだが、起伏式の動詞はアクセントの核が移動し、「た」「て」が後ろにつくと「食べる 低高低」から「食べた 高低低」に変わる。
見える 低高低 > 見えた 高低低
慣れる 低高低 > 慣れた 高低低
中国人学習者は多く、こうした動詞を元のアクセントに沿って「食べた 低高低」、「慣れた 低高低」という感じで発音していることが多い。「食べた 低高低」と発音するとまるで京阪式アクセント(大阪弁など)のように聞こえてしまう。
●「京都大学」
日本語の名詞は複合語になると変調する。例えば「京都」、「大学」は単独では高低低、低高高高と発音されるが、「京都大学」になると低高高・高低低低と発音される。
しかし中国人学習者は多く、大学が低高高高というアクセントであるので「東京大学」や「京都大学」と言った単語を低高高高・低高高高とか後ろの「大学」の部分を平板型で読んでしまう傾向がある。
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