外国人の日本語 トンカツラーメン?

※小説家になろうの自身の別エッセイから転載


 マーク・ピーターセンの「日本人の英語」を読んでから、いつかこのタイトルのエッセイをやりたいと思っていた。とは言ってみたものの、ただ大真面目にやるのもつまらないので息抜きを交えながら話を進めたい。

 中原は普段から日本語を勉強する外国人と関わることが多い。日本語のような小さな島国でしか話されていない言語がアニメなどのおかげでこれだけ世界中の人々に学ばれているというのはありがたいことである。しかし同時に日本語や日本に対する誤解が世界中に拡散されてしまった。ネット全盛時代の現代ではもう誰も止めることのできない謎の情報が独り歩きし、今では私が出会った外国人に日本人であることを告げると気が狂ったオウムのように「センパーイ」とか「オマエハモウ、シンデイル」とか言ってくる始末である。


 そもそも英語に日本語からの借用語があるということは私にとっては驚きであった。しかしその中には「なぜそんなものを日本語で言う必要があったんだ……?」と首をかしげるものも多い。ちょっと例を挙げる。


 ・sayonara


 日本語でもよく別れを告げるときにふざけて「アディオス(スペイン語)」とか言うのと似た感覚かもしれない。このsayonaraはどんなネイティブでも知っているレベルのと化し、渋い顔のカウボーイが宿敵を追い詰め銃で撃ち殺す寸前に「Sayonara, fucker!」とか言うイメージがついているそうだ。Sayonaraという発音の響き的にスペイン語だと思ってる輩もいるそうです。なぜ。


 ・waifu

 

 オタク界隈では自分の一番好きな女性キャラクターのことを「嫁」とか言ったりするが、なぜかそれがネットを介してアメリカに伝播。日本人をヘンタイだと決め付けて疑わない海外のネット民によって、「wife」に日本語の発音っぽくするために-uを勝手に付け足した「waifu」なる謎の単語が爆誕してしまった。

 今やアニメキャラのあしらわれた抱き枕を片手に「my waifu」とか言ってるかわいそうなキモオタが世界中に増えてしまった。


 ・-chan/-kun


 以前、とあるアニメの英語吹き替え版を見ていた時に、「~ちゃん」とか「~くん」を訳さずに英語でも名前の後ろに-chan/-kunをつけてお互いを呼び合っていた。Senseiとかsempaiが英語でも割と通じるようになってきたのは、やはりこうしたアニメの中で英語と混ぜて使われている日本語が原因の一つであろう。

 しかし-kunは「クン」である。そのアニメではまるで「カン」のように読んでいて、それだとなんかcuntみたいに聞こえ……


 ・Nani the fuck?


 これもネット上でだが、「JAPANESE 4 DUMMIES(バカのための日本語)」というmemeのせいで「英語の一部を日本語に変えてみた遊び」がちょっとしたブームになった。なるほど、What the fuck?のwhatを「何」に変えてみたわけだ。北斗の拳のおかげで「Nani!?」という日本語はみんな知っているのでこれも覚えやすかったのだろう。

 そのせいかここ数年、日本語を勉強してる外国人が私に向かって「Sorrymasen」とか「Chotto a minute」みたいな英語圏で独自の発展を遂げた奇妙なピジン言語を浴びせてくるようになった。よい子のみんなは、ちゃんとした日本語を喋りましょう。何でもかんでも文頭に「Oniichan」、語尾に「nya」とつけたりしても日本語にはなりません。


 ・anime


 元々英語で「アニメーション」はcartoon「カートゥーン」と呼ばれていた。日本のアニメもディズニーアニメもピクサーのCGアニメーション映画も全部cartoonである。そして日本では、英語から輸入された「アニメーション」を省略した「アニメ」がcartoonの意味で使われてきた。

 しかし日本のアニメが世界中に広まり出したことが切欠となって、英語圏では日本のアニメだけを日本語から逆輸入した「アニメ→anime」という言葉で呼ぶようになったのである。

 まとめると、

 cartoon = (日本語でいう)アニメ、ディズニーのアニメーション映画等を含むアニメ全般

 anime = 日本産の/日本のアニメ

 となる。同じ理屈でmangaも日本の漫画のみを指し、アメリカのMarvelだのDCだのはcomics「コミックス」である。


 そんなわけで「I like Disney anime!」とか言ってしまうと英語圏の人は「!? ディズニーはアニメ作ってないだろ?」という反応をするかもしれない。


 ・hentai


 hentaiは日本語の「こっ、このヘンタイ!」の意味ではなく、日本製のエロアニメを指す単語として使われている。エロ方面に関しての語彙は積極的に取り入れられており、もちろんbukkakeも通じますし、Hitachiは電マの意味で使われています。理由は察してください。


 ・emoji


 初めてemojiという単語を聞いたときは普通に英語の単語だと思ったが、由来はなんと日本語の「絵文字」である。エモーティコンと響きが似てるから定着しちゃったのかしら。

 英語圏ではあまりなじみのなかったtsunami(津波)やkimono(着物)が英語になったのはまあ分かるものの、ponzu(ポン酢)とかもなぜかアメリカでも割と通じる。「パンズー」って何やろ、と思ったら日本語かーい。

 それにしても海外の日本食レストランは「Hibachi(火鉢)」だの「Wagamama(我がまま)」だの我々日本人から見るとちょっとヘンな名前が多い。


 ・umami


 味には「甘い」、「塩辛い」、「酸っぱい」、「苦い」などがあるが、「うまみ」という味の概念はもともと西洋にはなかったようで、日本語から取り入れられて広まった。うまみというのはグルタミン酸やイノシン酸の味だそうだが、一般的にumamiは単純に肉の味(=たんぱく質自体の味)であるという説明がなされているようだ。実際、欧米の料理では肉料理が多いこともあって昆布や鰹節で出汁をとったりはしないので、うまみという概念について考えることはなかったのかもしれない。

 余談だが、海藻を日常的に食べる国は東・東南アジアぐらいなものである。英語では海苔も昆布もワカメも全部seaweed扱いになる上、このseaweedに対するイメージは極めて悪く海の底に生えている藻みたいな気持ち悪いものという感じなので、欧米人に「seaweedはおいしいよ」とか言うとオエーッという反応をされることも多い。


 ・shiba inu


 Redditや4chanではよく犬のことを「doge」という。これはなんJでいう「イッヌ」みたいなもので、犬をおどけた発音で呼んでいるに過ぎないのだが、なぜかdogeのイメージとして使われている犬の写真が柴犬なのだ。「なんだよ、オマエ」とでも言いたげにカメラを斜めに見つめる様子がまるで人間のようでキュートなこの柴犬。一体何者なのだろう。

 さきほどKnow Your Memeというサイトで調べてみたのだが、この写真はどうやら幼稚園教諭の佐藤敦子さんが自分が飼っている柴犬のかぼすちゃん(♀)の写真をブログに投稿したものらしく、それがRedditに転載された結果世界中で有名になったしまったようだ。本人もそんなことは夢にも思っていなかっただろう。

 今やdogeといえばshibaであり、柴犬自体の知名度も飛躍的に上がってしまった。


 ・トンカツラーメン?


 さて、タイトルだがramen自体は英語圏でも非常に有名な単語で誰でも知っているレベルである(たまにと読んでいるやつがいてムカつくけど)。しかし発音が似ているというだけの理由でtonkotsu ramen「豚骨」とtonkatsu「トンカツ」がくっついてしまって豚骨ラーメンのことを「トンカツラーメン」だと思っている外国人が多い。このエッセイを読んで日本語を勉強している外国人の方はいらっしゃらないかもしれないが、念のために説明しておくと、

 ・豚骨(とんこつ) 漢字のとおり、豚の骨。豚骨スープは豚の骨で出汁をとったスープ。

 ・トンカツ(とんかつ) 豚+カツレツ(=カツ)。豚肉にパン粉をつけて油で揚げた(=deep-fried)もの。

 です。

 しかしトンカツラーメンというのもうまそうな響きだ。日本には実物大のガンダムもあるぐらいだし、海外の期待にこたえて実際に作ってしまったらいいんじゃないだろうか。テロの脅威よりも糖尿病問題の方がずっと深刻なアメリカ人もきっと喜ぶに違いない。

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