第17話 ホラー映画
発端はシロ先輩のとある一言だった。
「ねえみいちゃん、睦月。今夜この映画見ない?」
そう言ってシロ先輩が取り出したのは『ウォ〇キング・デッド』と題された有名ホラー映画のDVD。
「ボクは別にいいけど、みすずっち確かホラー映画苦手じゃなかったっけ?」
そう。むっちゃんの言う通り、私はホラー映画が大の苦手だ。というか怖いもの全般が苦手。こら! そこ「おこちゃまだね~」じゃない!
それにしてもおかしいな。確かシロ先輩には再三私は怖いのが苦手って言ってたはずなんだけど。
ジト目で見ると、シロ先輩はコホンと咳払いし両手を大きく広げた。
「私思うのよ。最近みいちゃんが私に全然甘えてくれないって」
「確かにボクにも甘えてくれないね。一体どうしたのかな?」
今度はふたりが私をジト目で見る。
そりゃあねえ。もう私も大学生になったことだしいつまでも子どもみたいに甘えるのは恥ずかしいというか。
「そこで私は考えたの。みいちゃんの苦手なホラー映画を一緒に見れば、再びみいちゃんが私の胸に飛び込んでくれるようになるって」
「なるほどね。みすずっちが暗い部屋の中でボクに抱き着いてくれると。最高じゃないか! よし、ぜひその映画観よう!」
こうしてなし崩しに私の部屋でホラー映画の鑑賞会が開かれることになった。どうでもいいけど本人の前で下心満載の発言をするのはどうかと思うよ。
「そろそろスタートするわよ」
部屋を暗めにして、左からシロ先輩、私、むっちゃんの順に並んでソファーに座る。
まだ映画は始まっていないにもかかわらず、私の体は恐怖で小刻みに震え、両手はしっかりとふたりの手を握りしめていた。
「シロ先輩やっぱり観るのやめませんか?」
「大丈夫。みいちゃんは私たちが守ってあげるから」
「ウンウン。たとえ本当にゾンビが出てきてもボクたちなら全く問題ないね」
確かにふたりがゾンビにやられるイメージは湧かないけどさ。それと怖さは別なんだよ。
そうして映画の上映が始まった。
目をつむって映像を見ないようにしたものの、それがかえって私の想像力を掻き立て恐怖心を強くする。
…ダメだ。手のぬくもりだけじゃ足りない。
映画が進むにつれて、私はいつの間にかシロ先輩とむっちゃんの腕を抱きかかえるような形になっていた。
「「(ちょっと期待とは違ったけどこれはこれでアリね(だね))」」
ふたりがそんなことを考えているなどつゆ知らず、私は映画が終わるまで早く時が過ぎるのをただひたすら願ったのだった。
そんなこんなで上映が終わり。
「ごめんなさい、みいちゃん」
「ごめんよ~みすずっち」
「ツーン」
頬を膨らませ私は不機嫌アピールをする。
「もう、本当に怖かったんだからね!」
「え、でもみすずっちずっと目をつむってたじゃん」
「音だけでも怖いの!」
「みいちゃんの怖がりは筋金入りね。まさかここまでとは思わなかったわ」
そう言ってから手を口に当て何かを思案するシロ先輩。
「…そうね。お詫びと言ってはなんだけど、みいちゃん今夜は私の体好きにもてあそんでいいわよ」
と言うやいなやシロ先輩はパジャマを脱ぎ捨ててすっぽんぽんになる。
「「ちょっ白美(シロ先輩)!?」」
「さあ、みいちゃんの怒りを思いのままに私の肉体にぶつけてちょうだい!」
「いや、それ白美の願望じゃん……。ん、まてよ? たまにはそういうプレイもアリか。よし、ボクも反省の意を込めて今日はマグロに徹するよ!」
ああ、結局こんな展開になるのね。これホラー映画のくだりいらなかったのでは?
そんなことを思う夜の一コマだった。
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