第14話 北条家のメイドさん

 私は母に頼まれて近所の商店街に買い物に来ていた。


 今日の晩ごはんはカレーということで、買うのはじゃがいも、にんじん、牛肉、あとは――


「みすず様」


 声のした方を向くと、そこにはメイド服を来たきれいな女性が立っていた。


 メイド服といってもメイド喫茶で見られるようなやっすいコスプレではなく、由緒正しき正装である。そう。彼女は本物のメイドさんなのだ。


「シリルさんお久し振りです」

「お久し振りです…と言いたいところですが、私的には全然久し振りな気がしないんですよね。毎日白美様がみすず様のことをお話になるので」


 甘やかされすぎてついつい忘れがちだが、シロ先輩は大手財閥北条グループのお嬢様であり、つまりシロ先輩の実家はお金持ち。


 でさっきの発言からわかるように、シリルさんはシロ先輩の実家でメイドの仕事をしている。


「シリルさんもお買い物ですか?」

「はい。夕飯の材料を買いに」


 普通お金持と聞くと高級レストランでディナーとか一流のシェフを雇って…なんてのを想像するだろうけど、北条家には当てはまらない。


 高級食材は決して使わず私たち一般人でも買えるようなものを。料理は専属料理人が作るものではなくシリルさんの手作りを。もっともシリルさんの調理技術はプロの域に達しているんだけどね。


 ついでにシリルさんについて話しておこう。


 シリルさんの身長は160センチくらいで年齢はシロ先輩と同じ。髪型は肩まで届くショートヘアーで髪の色はコバルトブルー。瞳の色も同じくコバルトブルーで、顔かたちは美しさとかわいらしさが同居している。


 日本人でないことは間違いないんだけど、どこの国の人かは言葉を濁されて教えてもらえなかった。


 能力についてはあらゆる雑事をハイレベルでこなせるスーパーメイドと言えばその高さがわかるだろう。


 この人といいシロ先輩といいむっちゃんといい、どうして私の周りには完璧超人しかいないのだろうか。


「ハァ…」

「おや、ため息をつかれてどうされたのですか?」

「いや、改めて私は人間環境に恵まれているなー、と」

「みすず様の人徳のなせる業ですね」


 そうだったら嬉しいんだけどね。でもただの偶然だと思う。


 それからしばらく雑談して私とシリルさんは別れた。


 それにしても…どうしてシリルさんは話している間ずっと私を抱きしめていたんだろう?


 私はそう疑問に思いつつ帰路についたのだった。


「あら、みすずちゃん。頼んでいたお買い物は?」

「あっ」

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