第8話 親友とデート(白美視点)
私とみいちゃんは入学式の日に初めて出会った。
ベタな話で恐縮だが、廊下の曲がり角で私はみいちゃんとぶつかってしまったのだ。
私はみいちゃんを一目見た瞬間、そのあまりのかわいらしさに心を撃ち抜かれた。これまで感情の起伏がほとんどなく、「氷の女王」という不名誉なアダ名で呼ばれていたこの私が、だ。
その日以来、私の視界に色がついた。
何をやっても簡単すぎてつまらなかった。世界が灰色に見えた。でもみいちゃんとの出会いを機に私は光を取り戻した。
そんな私がみいちゃんにメロメロ(死語)になってしまったのは当然の帰結だろう。
つまるところ何が言いたいのかというと――
「今日1日みいちゃんに会えないなんて辛すぎる……」
みいちゃんは先日親友とやらにテスト勝負で負け、その結果ふたりで遊びに行くことになった(とみいちゃんから聞いている)。
それだけならよかったのだけど、なんとその親友とやらは私に今日1日会ってはならないという条件をみいちゃんに突きつけたらしい。
なんたる悪鬼の所業!
私は激怒した。必ずみいちゃんを親友とやらの魔の手から救わねばならぬと決意した。
冗談はさておき、親友とやらがふたりっきりでいるのをいいことにみいちゃんに手を出さないとも限らない。
「よってここにスニーキングミッションを開始する」
大丈夫。見守るだけなら会ったことにはならない。
私は帽子とサングラスとマスクをつけ、みいちゃんの跡をつけることにした。ああ、後ろ姿ですらこんなにかわいいなんて、やっぱりみいちゃんはすごい。
「ママー。変な人がいる」
「しっ見てはいけません」
さて、現在の時刻は午前8時半。みいちゃんの話だと確か待ち合わせ時刻は午前9時だったはずよね。ちょっと早すぎやしないかしら。もしかしてみいちゃん今日の遊び(断じてデートではない)楽しみにしてた……?
うー。なんか胸のあたりがモヤモヤする。
私が胸を押さえていると、中性的な声が聞こえてきた。
「よっみすずっちおはよー」
「…おはよ」
……驚いた。まさかみいちゃんの親友が丸井さんだったとは。
丸井さんの噂は私の耳にも入っている。
スポーツ万能成績優秀。1年ながらすでに我が校の陸上部のエース。かわいいというよりはかっこいいと評した方がしっくりする容姿で、ついたアダ名は【星蘭のプリンス】。噂ではすでに彼女のファンクラブが結成されているとか。まるで漫画の世界から飛び出してきたような人ね(特大ブーメラン)。
しかし困った。運動神経が抜群である丸井さんは五感にも優れているはず。ならばこれ以上近づくのは危険か……。ふたりの会話が途切れ途切れにしか聞こえてこないのがもどかしい。
……お、ようやく出発するようね。
それにしてもどうしてみいちゃんも丸井さんも顔を赤らめてるのかしら? ハッまさかふたりの間にフラグが立った!?
私が悶々としている間にもふたりの遊び(決してデートではない)は続いていく。
最初はデパートで買い物、次に映画(恋愛もの)を観て、それから喫茶店へ。
食事が終わるとふたりはカラオケ屋に入っていった。
「みいちゃん歌上手いのよね……ハッ!」
ここで私の脳裏にある方程式が浮かび上がる。
カラオケ=個室=ふたりきりで同じ部屋=くんずほぐれつ!?
「こうしちゃいられないわ。急いでふたりを止めないと!」
今思えばこのときの私の思考は間違いなく暴走していた。常識的に考えて監視カメラが設置されているカラオケ店でふしだらな行為に及べるはずがないのに。
私が慌ててみいちゃんたちがいる部屋に入ると、ふたりは普通に歌っていた。そりゃそうよね。想像力豊かな自分の頭が恨めしいわ。
「シロ先輩どうしてここに!?」
「あーその格好、もしかして北条先輩ボクたちを尾行してた?」
丸井さんが呆れた表情で私を見る。うぅ、穴があったら入りたい気分だわ。
「あちゃー。まさか北条先輩がここまで直情的だったとはね。【氷の女王】はどこに行ったのやら」
「むっちゃんどういうこと?」
「えーとね、ボクが今日1日みすずっちと北条先輩が会うのを禁止したでしょ? 大方それに我慢ができなくなってボクたちの跡をつけていたら、ボクとみすずっちがふたりきりで個室に入っていくのを見ちゃって、それで慌てて部屋に入ってきたと。いやー北条先輩、想像力豊かですねー(笑)」
「…私あなたのこと嫌いだわ」
「奇遇ですね。ボクも北条先輩のことが嫌いです。いい加減ボクのみすずっちを独り占めしないでください」
「いつからあなたのものになったの? みいちゃんは私のものよ」
「ふたりともケンカしないで~。あと私はどちらのものでもないから!」
こうして私は丸井睦月という恋のライバルを得たのだった。
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