火蜥蜴と楔

龍月

火蜥蜴と楔

炎は燃える、そして影を作る、時に明るく時に熱く時に美しく、炎は燃える、全てを焼き尽くすまで。


第1章

火龍と呼ばれた男


季節は卯月の中頃、山間という事も在り、まだまだ冷え込む毎日が続いた、この年は雪解けも例年より少し遅い気もした程の冷え込み様だった。

その里には昔ながらの風習が在り、雪解けも間近と云う辺りに里の男衆の成人の儀が行われるのが毎年の習わしであった、成人の儀と一言で言っても色々在ると思う、国によっては成人前に猛獣を狩って来る事でその意を得たり、又は女性との肉体関係を始めて持つ事をその意としたりもする、本当に色々な成人の証を立てる為の儀式が数多に存在する、取り分けこの里のそれはその中でも相当な奇儀と言えよう、さて、それは如何なる儀式なのか?

「おい、全員居るか?」と、その村の長老、源吾は如何にも幼馴染み同士と云った様子の未だ未成年の若者達に向けてガナリ立てている。

「長老!もうとっくに集まって居ますよ!」最初に声を出したのはそのひと塊のリーダーと云った気概をもった若者、小兵太だった、性格は真面目、気質は少し流され易い処も在るが皆を引っ張って行くぞと云う気が満々と体から滲み出て来る様なヤル気の塊の様な若者だった。

「オイ!伴内、居眠りしてんじゃない!ヤル気有るのか?どうしようも無い奴め!」今小兵太に怒鳴られているいる若者は名前は伴内と云うらしかった、成人の儀がこれから始まろうかと云う時に中々肝のから坐った若者と云う風に見受けられる。

「オイ!そろそろ始めても良いか?」

長老が皆に確認を取る、が、伴内だけは何故か未だ目を覚まさずいびきをかいて眠りこけていた。

小兵太は更に大きな声で言う「こら!伴内!貴様いい加減にせんか!」

「ん?何だ小兵太、どうした?もう朝餉の頃か?」などと寝惚けていて、まるで今の状況を分かって居ない様子で在る。

そんな二人の遣り取りを見かねて「小兵!伴内!両名ともいい加減にせんか!お頭に来てもらおうか?ん?どうじゃ?」長老がそう言うや否や「長老!それには及びませぬ、この伴内、既に準備は整って御座る!如何様にも始めなさいませぇ!」と、急に目が覚めた様子で言う、その様子を見た小兵太は呆れ返ったかの様に呟く

「お頭の名が出た途端コレか・・・まぁそれも当然か、まぁ良いわい、兎に角目が覚めて良かったの伴内」そう伴内の肩をポンと叩くと「何を言っている小兵!お主未だ寝惚けたままか?今日は何の日か知って居よう?シャキっとせんかシャキっと!」

伴内の身代わりの速さに再び何も言えない様子の小兵太で在った。

「良いか?皆のもの!今日はコレから成人の儀じゃ、得物の仕込みは抜かりが無かろうな?結界の際の社に行き付いた者はその隣山の結界近くの寺のお堂まで一目散に向かえ!」何とも普通な感じに聞こえたのか小兵太か長老に言った。

「長老様!?それだけに御座るか?」と言うと源吾は薄ら笑いを浮かべ「それだけじゃ、簡単じゃろ?」

その答えに聞いて損した位の和んだ空気がその場に流れた、が、何故か伴内のみはその様な雰囲気では無かった、その様子に気が付いた小兵太は「おい、伴内、何故ヌシはそんなに深刻な顔をしとるんだ?どう考えても単なる早駆けだけだろ、これで足腰の鍛錬の具合を見極めて御役目の際の参考にすると言う話だろ、ちょろいもんよ」そう気楽に構える小兵太そんな小兵太とは裏腹に何やら怪訝な表情をし始める伴内である、「おい、小兵、コレは多分血を見る事となる、抜かるなよ?」などと低く静かに呟く伴内、それに合わせるかの様に「何を理由にそう思うのだ?何か知って居るのか?」と返すと、「夕べのお頭の様子を思い出した、何やらコッソリ得物の仕込みをしているのをこちらもコッソリ伺っていたのだ、その時のお頭の顔がな」と言うや「まさか・・・ほくそ笑んで居たとか?」恐る恐る聞く小兵に「うむ・・・」と返す伴内、すると、どうだ?小兵の顔が見る見る青くなって伴内同様怪訝な表情になっていくではないか、何故か?

「そうか、なれば伴内、この事は内密にせねば我らの目的地への到達は無いな」と、小声で小兵が言うとその遣り取りを見ていた源吾が言う「おい、今更何かに気が付いたとて無駄じゃ、まぁ、成就を祈ろうぞ」などと薄ら笑いを浮かべる、伴内と小兵は源吾のそれで何かを確信した様子で「間違い無い、お頭が儂らを待ち構えて居る・・・コレは相当マズい、此処に居る全員で掛かっても勝てる気がせん」何と、この里の長が目的地に着くまでに仕掛けて来る、それもたった独りで、それでも此処に居る全員でも勝てないお頭と言う者は如何なる者か?

源吾の「では、明日の朝が期限じゃ、それまでに帰って来い、では、始めい!」号令と共に一斉に山に入る若者達、それぞれが素っ波と呼ばれる体術、剣術、そして忍術と呼ばれるモノを体得した者たち、そう、この里は素っ波と云う忍者の一族の里、この儀式は一人前の忍術遣いに成る為の試しでも在る。

そして、先程の二人、伴内と小兵太、その中でも飛び抜けた忍術の才を持つ二人の若き素っ波衆、小兵太は主に体術を得意とし、この里に伝わる古い体術の唯一の継承者でも在る、二つ名は堰抜き、一撃で川の堰を抜いてしまう程の破壊力を持った一撃を放つ【砕】という武術の遣い手だ、それに対し伴内は幻術と忍術に掛けては里随一の才を持つと言われる、主に火術を得意とし、目晦ましや攻撃の際に火や炎を使う事から火蜥蜴(ヒトカゲ)と呼ばれた、そしてこの里の長の息子でも在り、小兵太とは幼い頃からの幼馴染みでも在る、堰抜きと火蜥蜴、この里の次の世代の代表とも呼べるべき二人だった、その二人の恐れるお頭と云うのは、名前の通り、この里の長、伴内同様火術を得意とし、火龍と呼ばれる大素っ波、名を勘介、火龍の勘介

この男の術は歴代の頭の中でも群を抜く者が有り、相対すれば瞬きする間で数人の敵を黒焦げにしてしまう程の威力を持つ火術を遣う素っ波で在る、そんな者が自分達に襲いかかって来る、それはもう恐怖としか言い様の無いもので在った、冷酷無比なその技や術の数々、到底自分達では適うまいと半ば諦めかけている衒いも伴内と小兵には充分過ぎる程在った、因みに趣味は稽古で弟子で在りその前に自分の息子で在る伴内を稽古でジゴく事、らしいとも伴内自身は思い込んでいる、実際は定かでは無い、ともあれこの二人の素っ波の若衆の成人の儀、始まり始まり・・・・。


第二章


結界


そもそも此処で云う処の【結界】とは如何なるものか?元々の語源は中国の文化、八卦から来るものだと言われている、八方陣とも言い戦術自体の名前でも在る、が、此処で云う処の結界は里に侵入する者に対した防御壁の様なもので罠や鳴子を仕掛け早々侵入出来ない様な仕掛けを常々してあり、結界近くにはその為の備えをする小屋まで建てて在る。

週に一度見廻りの者が獣に壊された罠の仕掛けを直したり侵入者の形跡が無いか見回って居る。

今日その小屋の一つに独り潜む者が居た、それは伴内の父親で在りこの里の長、火龍の勘介で在った、小屋の中から何やら伺っている、其処へもう独り現れた、何やら勘介、とは親し気な様子で年の頃合いも同じ位だった。

「勘介よ、お前も大概趣味の良くないものよ、嬉しそうな顔をしおって、何時までも若衆気取りじゃな、どうかと思うぞ?」後から現れた者が云う、すると「今日を如何に楽しみにして居った事か、放って置け、鉄蔵」その男は鉄蔵と云う、伴内と小兵の様にこの里で幼馴染みとして育った、見るからに只者とは思えない風貌だった、それに加えて恐らくはかなりの手練と思われた。

「なぁ、鉄よ、伴内はどうだ?上手く仕込めたか?刷り込みは上手く行ったで在ろうかの」そう言いニヤニヤと笑みを浮かべる勘介に「この親ばかが、まぁ伴内はウチの娘同様生まれつきの気質を持っている、未だ未熟では在るが中々凄い術よ、確か術の名は何と云ったかの、忘れたが、兎に角、火龍と言えど油断は禁物だな」と自分の事のように得意気に鉄蔵は言う。

「この結界はよ、特別なんだよ、伴内らを迎え打つ為に特別に設えた罠の数々、たまらんぉ、何人引っかかるかのぉ、楽しみじゃの!」

そうウキウキした様子で、再び外に目を配る勘介、それを横目に呆れた表情の鉄蔵は「お前、前から思うて居ったが頭が少し具合を悪くしとるのじゃないか?そんな事でコレからこの里を担う若衆を死なせてしまったらコレから先の里はどうなる?」と、言えば「頭がどうかしとるのはヌシの方じゃ鉄蔵、こんな事でくたばる位の腕前や器量じゃ元々この里の行く末などどの道知れたものよ」などと嘯く、更に重ねて「良いか鉄蔵、これはけして儂の楽しみの為のみにやって居る訳じゃないぞ?良いか?おっ?幾つかの気配が迫って来て居る!よっしゃ!ちとひと捻りして来ようかの、では、後ほどじゃ!」などと良い、慌てて出ていった、その背中には悦び勇んだ勘介の顔が写り込んで居るかの様でも在った、そんな後ろ姿を呆れ顔で見送る鉄蔵「まことしやかな事を言い居って、どの口が言うのかの、全く呆れた奴、それはそうと、あやつ相手に何人辿り付けるかのぉ」などと、鉄蔵自身もそれは少し気になる処でも在った。


第三章


最後の罠


暫くして、森の中から幾つかの悲鳴の様なものか聞こえて来た、その声を聞きながらも脇目も振らず全力で森中を駆ける伴内と小兵太の姿が在った、まるで何か大型の獣に追われて居るかの様な悲愴感漂う形相を二人とも見せて居た。

最初に泣き言を口にしたのは小兵太であった。

「のぉ伴内」細々と言うと「泣き言言う暇が有ったら走れ、兎に角走れ!」と、ピシャっと釘を打つように言う伴内、実はこの遣り取りは既に三度目であった、何度も泣きを入れる小兵太を少し疎ましくさえ思い始める伴内の横手で悲鳴が一つ聞こえると「おい!もう直ぐそこに来とるぞ、もう身代わりの奴らは一人も居らん、恐らくは我ら二人のみじゃ、どうする!」ようやくと言っていいほどのタイミングで伴内が小兵太に泣き言を吐いた。

「ど・・どうするって言ってもじゃな、どうするつもりじゃ!」などとお互いに動転した己を隠せない伴内と小兵太、遂に肝が坐ったのか二人とも足を止めた。

「小兵」と伴内が低く呟くと「うむ、分かって居る」と返し、お互いにお互いの背を付けて構えを取った、どうやら二人で勘介を迎え打つと云った事にしたらしい。

「小兵、前に小布施の城にてお前がしくじり、二人とも囲まれたのを覚えておるか?」と伴内が訊くと「何を言うか、あの時しくじったのはヌシではないか、城の女中の寝姿に目を曇らせ居って、お陰で約束の時刻に遅れた為に追手に囲まれたのを忘れたか?」などとピシャと返す小兵太

「まぁ、そこは細かい事を言うな、その時の戦法で行こう」

「何が細かいじゃこの!でもまぁ、それで行くしかあるまい」どうやら覚悟を決めたかの様な二人に勘介の笑い声が木霊の様に聞こえる「矢張り主らが残ったか、やるのぉ、我が息子ながら中々天晴じゃ、だが、二人とも此処までじゃの」

恐ろしげに森の木々に響く勘介の声に「それはどうかのぉ親父殿」低く伴内が応えると同時に勘介に小兵太が襲い掛かる、が、難なくいなされる

「ほう、儂を見付けたか」そう勘介が言うなり苦無が二本勘介を襲う

それもアッサリかわす勘介

「矢張り親父にはオトリは効かんか、なれば」と言い今度は伴内が勘介に襲い掛かる、手には搦手用の鋼線を持って居た、それを蜘蛛の糸の様に木々に張って回る、その間に小兵は勘介をその囲いの中に何とか誘い込む、良い位置に来ると伴内も小兵と共に勘介を襲うも、二人がかりでも難なく攻撃をかわされてしまう、が、暫くすると小兵為にの拳が勘介を捉え始めても居た。

「むっ、コレは・・・」勘介、何かに気が付いた、が、その時、虚を突いたかの様に煙幕を伴内が張り、勘助の眼を晦ます。

「小兵!今じゃ!行くぞ!」と叫ぶと「おう!」と言い小兵太も煙幕に乗じてその場から姿を消すも何故か、二人の叫び声が煙幕の中から聞こえた

勘介は何故かその場から動かずジッとしていた、其処へ鉄蔵がやって来た。

「おぉ!コレはなかなかの眺めじゃ」などと木の太枝の上に立ち、鋼線の結界に巻きつかれた勘介を見ている。

「良いから早うコレを切れ」などと少し不機嫌そうに鉄蔵に言う勘介で在った。

「この仕業は伴内のやつか、ウッカリ動いたら体がバラバラになってしまう処だったの」などと良い、鋼線を一本一本切る鉄蔵

「あやつめ、此処で生まれ付きの業を遣うとはの、まんまと一杯食ったわ」そう憎し気に言うも少し薄ら笑いを浮かべている様にも見受けられた。

「そうか、流石の火龍も生まれ付きには勝てんか、まぁ、それだけ大した若衆に育ったと言う事じゃな」などと伴内達を褒める鉄蔵に、

「抜かせ、生まれ付きの業をこんな処で遣う事自体が未熟、まだまだじゃ」などと嘯く勘介。

「まぁな、が、おヌシ程の大素っ波に幻術を掛ける者などそうは居るまい、何はともあれ立派に育ったもんよ」などと言えば「まぁ師が師だからな、少しはモノになる様に育てたので在ろうよ、この鋼線を遣った結界陣も元々はおヌシの得意技では無いか蜘蛛の鉄蔵よ」蜘蛛の鉄蔵、一体如何なる者か?どうやら伴内達はこの男の弟子らしいが・・・。

兎にも角にも伴内と小兵太は無言で一目散に目的地の社に向かって走った、兎に角無言、それしか形容のしようがない様子で在った。

堰を切ったのは矢張り小兵太で在った。

「待て!伴内!もう良いであろう?気配は消えてしまった、お頭は多分近くに居まい、未だ時も在る、少しユックリ休んでから参ろう」などと言い出した。

「愚か者!アレは偶々運が儂らに味方しただけの事、直ぐに追いつかれようぞ!走れ!」などと言い返す、すると「流石にアレはそうそう動けまいよ、ほれ、社はすぐそこじゃもう見えているじゃろ?どう見ても儂らの勝ちじゃ!」などとただを捏ねる小兵太

すると今度は伴内が「待て!止まれ小兵」などと言って足を止め何かに耳を傾け聞いている、何かが聴こえている、何だ?人間の声、それも女、の様に聴こえる、そしてその声は悲痛にもそして愉悦にも摂られる様な艶めかしい声、男女の同衾の図の様子が伴内と小兵太の脳裏に浮かぶ、そしてそれがこの二人が今どの様な状況に置かれて居るのか?を忘れさせようとしている、何しろ血気盛んな成人男性、女の肌が嫌いな訳も無く、寧ろそっちの方が優先、と云ったような年頃だ、それは無理も無い事で自然に抜き足差し足で社に近付き始める、そしてお堂の張り障子の障子紙に人差し指を舐め、その指で覗き穴を開け、中を覗くと、中では想像通りの事が行われて居た、それも女の方は男に跨り相当な燃え上がり様で在った、この頃には伴内と小兵太の二人は今の自分の使命をすっかり忘れ、その男女の様に只見入って居た、使命は社の中の経棚の小さな不動明王の像を定刻までに里に持ち帰る事、正にその不動明王像の前で事が起こって居るが今の二人には全く眼に入っていない、悦ぶ女の背にはそれは見事な昇竜の青刺が彫って在った、女が跨っている相手の男の顔は見えない、寧ろそれはどうでも良かった。

「伴内、ありゃ誰じゃ!堪らんカラダをしとるのぉ」などと小兵太は熱を込めて言えば「背中に昇竜とは又堪らぬの、アノ男を殺って俺らで愉しむか?」などと相談している間に折り返して里に帰る時間をとうに過ぎている事すら忘れて居る二人の背中を勘介と鉄蔵が見ていた。

「流石におヌシの倅じゃの、まるでかつての自分を見ている様だろ?」などと鉄蔵が言う。

すると「抜かせコノ、が、アレもこの儀式の最後の罠だと知らずに興じて居るのを見ると、まだまだ修行が足りぬ、と思わざるを得ぬな、いやはや・・・」

暫くして、女が急に腰まで下げていた着物を着て、サッと帯をしてしまい伴内と小兵太の方に向き合った、そして舌を出し「この助平共が、もうとっくに刻限は過ぎて居るぞ?」と告げる、伴内達は少し惚けた顔の後にはっと我に返った。

「ぬっ!遺憾!急ぐぞ小兵!そしてお前、よく見たら師匠の娘のちさとでは無いか!相手は誰だ?」と云った後にそのちさとと云う女の相手を見ると何とそれは男では無く服を掛けられた丸太で在った、この女は演技でアレ程の痴態を演じて居たのだ、正に化生とも云うべき女、それが伴内と小兵太の忍術の師、鉄蔵の娘ちさとで在った、後にこのちさとは女衆のお頭となる女に成長して行く事となる、それは又後の話、最後の罠はこのちさとの術に嵌り、時を忘れる、と云った事だ、或る意味この里の成人の儀に相応しい罠でも在る。

それに気が付いた時には既に遅し、像を急いで懐に仕舞い一目散に里に向かって走る伴内と小兵太、それから一刻近くして何とか里に戻ってきた伴内と小兵太、既に脱落した他の者は戻って居た、あちこち手傷を負うも命には別段障りが無い程度の怪我だった、それを見た伴内は「コレだけの人数の素っ波衆をたった独りで襲い、尚かつ手加減とは、我が父親ながら恐ろしい御仁だの、儂には未だこの器量は無い」と呟く。

「今回成人の儀で使命を果たした者はたったの二人、それも刻限を切ってだがな、あの黒龍眼を相手に善戦したのだけは賞賛に値するとは思うが最後のツメが甘い!まだまだ修行が足りん!愚か者共!更に修行に励め!良いか?」と鉄蔵の激に、力無い声での返事が多かった。

鉄蔵は伴内と小兵太に告げる

「娘のちさとはどうだったか?すっかり騙されて居た様だが、まぁ良い眼の保養だったろ?あいつも成人の儀で背中の昇竜を彫った、アレは彫るのに地獄を見たと思うぞ?お前たちは未だマシな方よ、それとな、ちさとに手を出したら儂がお前らを殺す、分かったな?」などと脅しを掛けてその場を去って行く。

「なぁ、小兵太、師匠の言う通りだ、儂達はまだまだ精進が足りぬ、しかしながら」そう言うと「しかしながら、何だ?」と小兵太が返すと「あのハナタレ娘のちさとがのぉ、堪らぬ身体付きに育ち居って」などと呟くが「儂は降りるよ、未だ死にとうは無い、師に勝てる程の度量を持ってからの方がいいぞ?」などと言えば伴内も「そ・そうじゃな、精進あるのみだな」凡そ動機が不純な事だが、それでも忍術の修行に精進する決意を固める伴内では在った。


第四章


才蔵


その日の夕刻、素っ波頭の舘、何時も夕餉は当主である勘介、倅の伴内、そして伴内の母親のさく、の三人で食べて居るのだが、その日ばかりは違った。

勘介が飯を食いながら話始めた。

「才蔵、我が家の飯の味はどうだ?悪く無かろう?」などと何時も憮然と飯を食う勘介を普段から見ている伴内にとっては饒舌な父親など初めて見た位いの違和感を感じて居た。

「はい、流石は素っ波頭の家の夕餉です、我が家は母子二人の家ゆえこの様に豪華な夕餉とは無縁に御座る」などと言うこの若者、伴内は初めて見る顔で在った、一見は精悍で優男の様に見えはするが中々鍛え上げて居るのは衣服の上からでも分かる程のもので無骨で強面の伴内とは正に正反対な容姿を持つ若者で在った、ソレだけでも伴内はこの者が此処に居る事に違和感を持ち、加えて何時もは明るい伴内の母親が来客だと云うのに一度もこの席に顔を出さない、正に険悪な雰囲気の中、勘介のこの饒舌振りが余計違和感、いや、不審感を掻き立てていた、その雰囲気に耐えられず伴内もつい、「見ない顔だが、結構鍛え上げとるな、お主の師は誰だ?」などと軽口で訊ねてもみると「ん?私の師か?私の師は、お主の目の前の御仁よ」などと才蔵は言う、流石の伴内もコレには驚いた。

「今何と言ったか?師は我が父親と聞こえたが」と更に訊く、すると「お主耳が遠いのかの、我が師は此処に居る黒龍眼と言ったのだ」才蔵は悪びれもせずそう言う、その言葉に思わず「親父殿、それは真か?!」と勘助に噛み付く伴内、伴内にそう詰められ、今まで嘘の様に饒舌だった勘介が貝の様に口を閉ざした。

沈黙は是也とも言う事も在り、伴内は箸を置き、その場を黙って立ち去った。

何故そんな態度を伴内が取ったのか?それには理由が在った。

暫くして、伴内は師で在る鉄蔵の家を訪ねて居た、二人は一献交わして居た、黙って呑む伴内に何時もの彼らしさを感じ得なかった鉄蔵は徐に尋ねた。

「のぉ、伴内、今宵は少し悪酔いしそうな呑み方をしとるが何か有ったか?」などと気を遣う様な素振りで伴内に訊く。

「何もかにも有ったもんでは御座らん、師は御存知なのですか?」などと酒の勢いで憮然に鉄蔵に問い掛ける。

「儂が何を知って居ると云うのだ?」などと言えば、伴内は目の座った様子で言う「親父殿が倅の儂にでは無く何処ぞの馬の骨に稽古を付けていた事に御座る!」それを聞くや鉄蔵の顔色が見る見る変わって行くのが分かった、更に伴内は畳み掛ける様に「矢張り、師は御存知でしたか!一体どう云う事に御座るか!親父は儂にだけ黒龍眼の跡目として稽古を付けて居る為、他の者の稽古は付けぬ、としていたのをお忘れか?、儂以外の者に稽古を付ける、それは次の頭候補が二人居ると言う事に御座る!」更に荒ぶる伴内に鉄蔵は言う「そ・それではお主は嫉妬で怒って居ると?」恐る恐る訊くと「いいや!そうでは御座らんか儂が気に食わなんだは何故それを今の今まで隠して居ったのか?と云う事に御座る!」鉄蔵は思った、無骨で偶に同仕様も無く頑固で普段自分の気持ちなど他人に打ち明けぬ性格の伴内のここまでの気持ち、師として軽くは見れぬと思い、致し方なく伴内に事情を話した、すると、

伴内は急に立ち上がり「今日はご馳走になり申した、これから又飲み直す事になりそうなので今夜はコレにて!」などと言い、その場をそそくさと立ち去って行ってしまった、残された鉄蔵は致し方なさそうに、又独りで呑み始めた。

それから伴内は急いで自宅に戻り、再度夕餉の部屋に戻り勘介に言った「親父殿!もう夕餉は済みましたかの、済んだのなら同じ年頃同士の才蔵と一献酌み交わしたいのだが良いかの?」と、いきなりの伴内の申し出に勘介は何かを感じ取った様子で言う「好きにせい」と一言、半ば無理やり才蔵を誘い小兵太の家に雪崩混んだ、迷惑とは思いつつも何時もの様子と違う伴内を見て小兵太も付き合うしか無いと考え、三人で呑む事になった。

「儂は小兵太、伴内とは幼馴染みでな、宜しく頼むぞ、主は名を何と言うのだ?」などと訊くと「才蔵」と一言、愛想の無い雰囲気に最初はぎくしゃくした三人では在ったが酔が回るにつれ案外と打ち解けた様子も見せて居た、そんな様子を勘介と鉄蔵は見ていた。

「なぁ勘介、お主も罪な事をするものじゃ、だが、それに付けても伴内は中々の漢に成ったの」などと言えば「余計な事をしおって、まぁ、これも運命よ」などと当人達にしか分からない様な遣り取りをする二人で在った、この夜は本当に良い月夜で在ったと三人は後にも思って居たとか居なかったとか・・・。


第五章


ちさと


この里には昔から女人専門の岩風呂が存在した、専門と云うからには当然男子禁制で在る、里の真ん中位に位置し、里の女が衆が毎夜入れ代わり立ち代わりに湯浴みをしに訪れる、在る晩の事、その岩風呂には二人の女人が湯浴みをしていた、一人は里で評判の美人で在ったさゆりと更に美人と評判のちさとの二人で在った、二人はこの里の若衆の憧れの的でも在り、高嶺の花でも在った、特にさゆりには伴内の幼馴染みであり親友でも在る小兵太が入れ上げて居た、その入れ上げ振りは既に異常とも云うべきもので在り、さゆりに言い寄る若衆を難癖を付けては片っ端から痛めつける始末、何しろこの里きっての体術の遣い手で在る小兵太に勝てる若衆はそういる訳も無く、良い年頃でも在ったさゆりの両親は何故さゆりに縁談が来ないのか?を心配する程でも在った、それもその筈、皆小兵太の仕業で在る、そんな小兵太を見兼ねて伴内も遂に口を出す羽目になった、そして仕方無しと云う感じでさゆりは小兵太と祝言をと言い交わす仲となった、そんな事の数日後のちさととの湯浴みで在った、この二人は幼き頃よりの幼馴染みでも在った、岩の縁に腰掛けるさゆりの尻を見てちさとは言う「アンタその傷、かなり酷く残ったもんだね、もう何年前の傷だっけ?」尻の傷?確かにさゆりの右の尻の頬に何やら酷い噛み跡の様な傷が在った、これは一体・・・。

「あぁコレね、もう大分立つね五つの時だもの、尻が大きくなる度に目立って来たよ、本当に嫌になるよ」などと思い出した様に云うと更に「犬だっけ?まぁこればかりは事故だから仕方が無いけどさ、それじゃ嫁の貰い手も無い訳だ」などと口差も無い言い方でちさとが言えば「お生憎様」と得意気な顔で返すさゆりに「何さ、まさか嫁に行く話でもあるのかい?」と、少し意外そうな様子でちさとが尋ねる。

「そのまさかだよ、近々嫁ぐ事になったんだえ」ちさとは衝撃を受けていた、この里きっての二枚看板と言われた二人では在ったが二人とももう年は十八に成っていてとうに行き遅れの部類に入っていた、自分より先に嫁に行く幼馴染みに何か劣等感みたいなモノを感じたちさとであった。

「へぇ、奇特な若衆も居たもんだね、よくアンタを嫁に貰おうなんてのが居たもんだね、一体誰だい?その変わり者はさ」などと負け惜しみじみた事を口にした。

「言っておくれだね、本当に口が悪いっら無いね、聞いて驚け、この里一の体術の遣い手、小兵太殿の元に嫁ぐ」などと嘯くと「何だ小兵太ですって?あの伴内の幼馴染みの?そりゃ変わり者も良いところだね」などと言う。

「随分じゃないかえちさと、なにが変わり者かね!」と返すさゆり。

「伴内と小兵太はこの里きっての好きモノとの噂だよ、彼方此方の後家の家に二人して夜這いを掛けているって噂だよ、知らないのかい?」などと得意気に返すちさとに「どうせそれは噂よ、根も葉も無いよ、羨ましいからって言い掛かりを付けるのは良くないよちさと」かなりキツイ言いぶりのさゆりに「何が言い掛かりなもんかえ!何なら証拠を突き付けてやろうじゃ、ないかえ!」などと意地になるちさと、そんなこんなで夜も更け、次の日、朝から何やらちさとと話している女達が居た。

「いいかい?お前達の中で、小兵太に夜這いを掛けられた者が居たら申し出な、隠すと為にならないよ?」朝から集められ、何事かと思えば夜這いを掛けられたかどうかを申し出ろとは、寝耳に水な話である、当然な事だが誰も申し出る者は居なかった、更に加えて「何も仕置きしようって話じゃないだえ、亭主に先立たれて人肌恋しいのも分かるしね」亭主に先立たれて?つまり此処に集まっているのは里の後家ばかりと云う事で在る、実はこの里では後家はそんなに珍しいものでも無かった、仕事柄、若くして連れ合いを亡くす事も度々在る、既に男を知る肌は人恋しくなり、夜這いを断る事も少ないのだ、寧ろ望んで閨に引き入れる事もしばしば、家の戸口に今夜は大丈夫みたいな印まで付けて夜這いを待つ後家も少なく無い、若衆はそれを目安にその晩に夜這いを掛ける家を見繕って居るのだ、此処でちさとに告げ口すればあそこの後家は口が軽いと噂になり、若衆の夜這いが減るのが嫌なのだ、そんな事情も在り、後家達は口を閉ざし何も言わなかった、連れ合いを御役目で亡くし、寂しい女の身の上も分からずも無いちさとでも在ったのでそれ以上は追求もせなんだが、さゆりの手前引っ込みも付かず、ちさとは一計を案じた、その策とは・・・。

その晩の小兵太は少し何時もの晩とは違った、一体何が?で在ろうか?

「伴内よ、ちと良いかの?」と、何時もの口調とは少し違う事に伴内は違和感を感じて居た。

「何じゃ?気味の悪い声を出しおって」などといなす伴内に

「あのな、近々儂は嫁を貰う事になっとる、故にじゃ、夜這いの付き合いは今宵限りと云う事で良いかのぉ」いきなりの小兵太の告白に流石の伴内も驚いた。

「何と!何時決まったのだ?!と云うか相手は何処のおなごじゃ?有り体に申せこの色男!」伴内らしい反応でも在った、伴内の相当な歓び様なのが小兵太にも感じ取れた。

「もうお母ぁにも承諾して貰った、来月祝言を挙げる、お前も知っているだろ?師の所に下働きに来ているさゆり度のだ」と照れながら言う小兵太に「あの、こな里ではきっての美形のか?この色男、どうやって口説いた?恋敵も多かったろう?」からかう様に伴内が云うと「あぁ、まぁな、でも話を付けたからそうでも無かった」などと惚けた言いぶりの小兵太を見て伴内は全てを悟った、力ずくでだろ、と心で呟く。

其処はそれとして伴内は歓んで居た、小兵太の父親はこの里きっての格闘術【砕】の名手で在ったが、在る役目で命を失い、後家となった小兵の母と二人して生きて来た、そんな小兵太に新しい家族が増える、幼馴染みとは言え兄弟の様に切磋琢磨しあい育って来た間柄の伴内にとっては正に家族同然の様に接して来た伴内で在った、故に、当然と言えば当然な反応では在ったが、今宵が最後かと思うと少し寂しくも在った、印の付いた後家の家に数人の後家を集め、二人して夜這いを掛けて遊び耽った日々も伴内にとっては又一日の楽しみでも在ったものだった、が、嫁を貰うと在ってはそうも行かぬとも思った。

「では、今宵は儂独りで行く、小兵太はもう帰れ」などと少し寂しげに言うと「いや、今宵が最後じゃ、今宵のみは付き合うてやろう」などと上から目線の小兵太に若干苛立ちも覚えもしたが、それは此処では言うまいとも思った伴内で在った。

「そうか、では、参ろうか」などと言い夜這いを掛ける後家の家に二人して向かった。

その家の裏木戸の横柱に印は在った、この土地でよく見られる黒アザミの花を釘で刺し止めて在るのが目印で在った、伴内と小兵太はその印を確認して、そそくさと裏木戸を開け、中に忍び寄る、流石に素っ波の修行を受けた二人、忍び込むのはお手の物と云った様子だ、最初はコレも修行の一つと思い行って来た事だが、今となっては楽しみ以外の何物でも無かった、何せ精力溢れる年頃の若者達で在る、一度知ったおなごの肌を忘れられる筈も無く、只夜這いに野合にと耽る毎日で在った、そんな二人が今宵夜這う家は最近連れ合いを亡くした組の女房達で在ると分かっては居た、気合いすら感じる様相を伴内と小兵太は見せて居た、木戸を開け、三和土を通り、閨の前に辿り着き、縁側で着物を脱ぎ、閨の襖をそっと開けると、布団が二部屋に一組づつ敷いて在り、二部屋にそれぞれ女が一人、寝ていた、此処まで来ればもう伴内と小兵太に理性など存在しなかった、よく見ると襖に小さい張り紙がしてあり、紙には墨で小と在り、隣の襖には伴と在った、コレは正しく自分達の名前と思い込むしか無かった、何故この二人が夜這いを掛ける事を知ったのかは謎だが、これこそ正に据え膳などと男の都合の良い解釈の元、そんな事は既に疑うに値しない事と思う他無かった伴内と小兵太で在った。

程なくして二人はお互いの部屋と思い込んだ部屋にそそくさと褌一丁で忍んで入り女の寝ている布団に潜り込んですかさず女体にしゃぶり付いた、女達は二人に応えた、その烈しさと来たら今まで相手にしたどの後家よりも烈しく、そして声も大きかった、普段ならば後家が夜に喘ぎ声を立てる程励めば世間体も良くなく、声を押し殺して喘ぐのが所作でも在ったが、この二人の女はそんな事など知った事か位の勢いで声を上げて喘いで居た、そんな烈しさに感化され、伴内と小兵太も更に勢いを増し、励む様も相当なもので、余りの事に近隣の家の者達まで何事かと集まって来る始末、その内に伴内は異変に気が付く、何に気が付いたかと言えば、部屋の柱がキシキシと音を立て出した、それも自分の腰の動きに合わせて鳴っている、これは何故だ?とも思ったが余りの具合いの良さに余り気にもしなかったがその内に鼻と耳から少し出血している事に気が付いた時には部屋の柱は既にキシキシとでは無く、ギシギシと今にもこの建物が崩れる位の勢いの音を立てだした、隣の部屋から惚けた大声で小兵が「伴内!烈しいのも程々にしとかぬか!」などと呑気な事を言う、そんな小兵太とは裏腹に腰は止めずも異常な異変に我に還りつつ在る伴内に追討ちを掛ける自体が起こった、部屋の土塀が何やら薄くなって行く様が女の尻を後手から突いている伴内には分かった、まるで土塀の土が粉になって少しづつ崩れて行く様であった、そして、それは女の中が急に締まり込みその具合いの良さに思わず精を放つ伴内と共に女の声が高く細くなった瞬間、物凄い轟音と共に土塀そのものが吹き飛び去ってしまった、その音の凄まじさと来たら、正に天変地異と云った感じの音で在った、流石に隣で致していた小兵太もコレには驚いた「何が在ったのだ!」などと言うも女に絆され布団に戻り続きを始めた。

驚いたのは伴内だった、開けた着物の裏から何処かで見た様な昇龍の青刺が朱に染まる白肌に泳いで居た、後家では無かった、今まで伴内と同衾して居た女は師の娘で在るちさとで在るとその時やっと悟った伴内で在った、すかさず「こ・小兵!」と大声で呼ぶ、すると隣の部屋から小兵太が「何じゃ伴内!情けない声を出しおって・・・」この後は言葉が出なかった。

「するとお前が相手にしていたのは誰じゃ?」などと恐る恐る訊く伴内に小兵太は更に恐る恐る自分の相手の布団を剥ぐと、其処には尻に大きな噛み傷の在るさゆりの裸体が横たわって居た、すっかり気を遣った様子で既にすやすやと寝息を立て始めて居た。

「さゆり殿じゃな、お主全く気が付かなかったのか?」と小兵太に訊くと「全く以て・・・それはそうと大変なのは主の方じゃ、それにこれは何事かの、壁が無くなる程の烈しさとは・・・」などと言うと伴内はハッと気が付いた様に「コレは儂がついな、余りの具合いの良さに気を遣った瞬間こうなっていたわ!全く気が付かなんだ!はははは・・・」などと苦し紛れの嘘をついた、何だか訳が分からず、小兵太は我に返り、夜這いを掛けていた事がさゆりにバレてしまった事の気まずさもありでその場を静かに立ち去った、残された伴内に正気を取り戻したちさとは「あ〜あ又やっちまったえ、コレじゃ嫁めの貰い手は無いね」などと少し寂しそうに言う、着物を着直しお互いに気恥ずかしくも酒を呑み始める伴内とちさと「さゆりがどうしても事実を知りたいって言うからさ、付き合ったまでの事だえ、今夜の事は忘れとくれ、アンタだって知れたら困るだろ?」などと嘯くちさとに「いや、あれだけの大事じゃ、とっくに知られとる、今更じゃ、困りはせん、寧ろ嬉しかったよ」と返すと「嬉しかった?何故だい?私は普通じゃないだろ?何が嬉しかったんだい?」と言うとちさとはハッとした、話し掛けて居る方に伴内は居らず、いつの間にか後ろ手に回られ肩を抱き締められて居た。

「まさかアンタも?そうなのかい?」

と驚いた様にちさとが訊くと、伴内は静か頷く

「そうかい、そうだったのかい、私独りじゃ無かったんだね、生まれ付きと忌み嫌われて今まで独りだと思い込んでいた、何だ、こんな近くにもう一人居たんじゃないか、早く言っておくれだよ」などと少し涙目になって行くちさとに伴内は優しく言う「この事は未だ内密にしておくよ、お前が嫁に行くまではな、何なら儂が貰ろうてやっても良いのだがな、お主とまぐわう度に家がこんな様になってもな、いたす時には外で致さねばな」などと的外れた口説き方もこの男らしかった、そんな言葉に再びそっと伴内に体を預けるちさとで在った、そして「今度は壁じゃだけじゃ済まないえ?覚悟しなや?」などと女剥き出しで伴内に跨がるちさとであった、その家が跡形もなく倒壊したのは言うまでもなく、次の朝、鉄蔵の稽古場に呼び出されキツく灸を据えられる伴内と顔中に何やら引掻き傷をたくさん付けられた小兵太の姿が在った。

その様を見たちさとは伴内を更に熱い眼差しで見詰めて居た。


第六章


商売敵


囲炉裏の火はユラユラと揺れながら燃えてその小屋の中を照らしていた、いや、其処に座っている者をか、その者は男、それも立てば六尺は在りそうな大男で在る、顔は薄暗くてよくは分からないが、眼だけはハッキリと分かる、細く切れ長の眼では在るが、その眼光と来たら、囲炉裏に揺らめく炎より明るくギラついた光を発しているかの様な眼だった、一体何者で在ろうか?ジッと囲炉裏の炎をその眼で見詰めている、と、其処へ一人の人間が現れた、どうやら男の様だが・・・。

「お頭只今戻りました」などと、座っている男に言った。

「うむ、首尾はどうだったのだ?」

座っている男は現れた男に何かの使命を与えて居たようだ、それにお頭とは?

程なくして伴内の父親、勘介の元に知らせが来た、その当時この里を雇って居たのは武田信玄晴信の家臣でも在った真田の家の者からの繋ぎで在った、仕事の繋ぎと在れば行かねばならぬのが当然の事で、頭領で在る勘介、そして小頭である鉄蔵に手の者三人の計五人でその日の晩の内に里を出た、それが五日前の事であった。

そして、里の結界近くに麻袋に入った勘介達の護衛の若衆の骸が発見された、これは一体如何なる事か?

伴内の屋敷に留守番頭の源吾、そして伴内やちさと、小兵太、才蔵などが集められた。

「骸はこれだけか?」と源吾が見付けて来た見張りの者に訊ねる。

「はい、この三つだけ、並べて置いてありました」と答える。

「のう、伴内どう見る?」

「この者共はこの袋の中で息絶えたと見受けられる、手足を縛られ、袋詰めされて吊るされ、袋の上から何か硬い物で殴られ続け、仕舞には息絶えたのだ、見よ、袋の内側のおびただしい血反吐の跡を、酷たらしい殺し方をしおって、さぞかし辛かったで在ろうよ・・・」などと嘆く伴内に「伴内、この遣り方は侍の仕業じゃないね、どうすんだえ?まさかこのまま泣き寝入りって事じゃ無いよね?」と、伴内に詰め寄るちさとを横目に「この仇は必ず討ってやる、殴り殺される者の痛みをタップリ味あわせてな・・・」などと呟き闘志を燃やす小兵太の姿も在った。

「落ち着かぬか!未だ何も分かって居らぬ内からイキりたってどうする?、勘介や鉄蔵の安否もしれぬのにだ、先ずは調べが先じゃ、伴内、小兵太、お前達それぞれの組を連れて少し探って来い!良いか?探ったら何に付けても先ずは里に帰れよ?けして揉め事は起こすな?しかと言いつけたぞ?!」などとキツく言い渡す源吾で在ったが・・・果たしてこの二人にそれが守れるかどうか、その頃の伴内と小兵太はそれぞれが小さな組を預かる組頭の役に就いて居た、小兵太の組は主に戦の前支度と言って戦前夜に敵陣に忍び込み、井戸や水場に毒を仕込み、門のかんぬきを内側から引き抜いて置く役目を担っていた、格闘術に長けた小兵太の組は矢張り組打ち専門と云った様相を見せる組だった、そして伴内の組はと言えば特に決まった役目は無く、何でも勘介に言われるままの事をやって来た、特に精鋭と云った風でもなく、里の者達からよく小兵太の組との比較対象として挙げられる程度のもので在った。

里きっての精鋭組と里最低の破落戸組での共同の務めとなった、仕度部屋では既にお互いの組の小競り合いも多少は在ったが組頭同士の仲の良さも知ってはいたので何とか収まり、具足やら得物を互いに助け合って身に着け、何とか出発と言う運びになった、勘介らが招かれたのは真田の庄に程近い砦の一つ高梨砦と云う鳥でで在った、この砦の主は真田の家の家臣高梨次郎右衛門幸継と云った、真田の家臣と言っても元々は武田方の家臣である、武田信玄の古参の家来で在った幸継では在ったが、真田の目付役として、国衆筆頭迄務めて居た、その高梨から繋ぎが来て勘介らは出向いたと云う話だった、元々真田と勘介の治める里は昵懇の間柄で、よく戦仕事を請け負って居た、一度も裏切られた事も無かった故に尚更合点のゆかぬ伴内達で在った。

砦の近くの森から様子を伺う伴内に小兵太は訊ねる。

「のう、伴内、まさか本当に調べのみで里に戻るつもりでは無いよな?」

と囁くと「長老はそう言ったろ?それが全てじゃ、お主はどうするつもりで此処に居るのだ?役目に背くつもりなら今すぐ組を引き連れて里に帰れ」とピシャっと言う。

「何だと?!お主は憎く無いのか?里の者にあんな仕打ちをした者共を、砦に忍び込み、あの砦の者全て撫で切りにしてくれようぞ!」撫で切りとは全ての者を丁寧に皆殺しにすると云う意味である。

イキリ立つ小兵太に冷静に「未だ親父殿と師匠の安否も知れぬ、先ずは其処だろ?違うか?」すると小兵は「もうとうに生きては居るまい、見たろ?あの骸を、きっとお頭も師匠も同じ目に遭っているに決まっている」などと吐き捨てる、それでも調べのみと固く云う伴内に絆され兎も角それだけと納得し砦に忍んで行った。

先ずは牢屋から探した、が、勘介らの姿は無く、次に座敷牢や他の部屋も見て回ったが勘介らの姿は結局見付からなかった、調べを済ませ待ち合わせた場所に一旦集まった伴内組と小兵太組であった。

「居なかったな、どう見る?」と小兵太が伴内に訊くと「うむ、そうじゃゃなこれ程探して居ないとなるとこの砦に二人は居らん、と云う事だな」と冷静に返す。

「何処か別の場所に幽閉されているのやもな、もう少し様子を見よう」という事でそれぞれが調べの為に高梨砦に潜り込む事になったある者は出入りの百姓に、ある者は足軽にと色々な変装で潜り込んだ、そうした内にそろそろ半月が過ぎようとして居た、その頃里では、何の知らせも来ない二組に対し苛立ちを隠せないちさとが源吾に当たり散らして居た。

「長老!あの盆暗共から未だ何にも知らせが来ないってのはどうなっているんだえ?!」源吾は荒ぶるちさとをなだめる様に「まぁ、落ち着けちさと、少しは気を鎮めぬか、あ奴らの事だ、きっと何か訳があるのじゃ、知らせはきっと来る、故に落ち着け」などと兎に角下手に出る始末、そんな源吾に更に腹を立てるちさと「自分の父とイロが二人とも帰って来ないんだよ?!落ち着けって方が無理だえ!」今ちさとは自分のイロと言った、イロとは隠語で情夫の事を指す、父親は鉄蔵、そして情夫とは恐らくは伴内の事であろう

二人はあの後家の夜這いの夜からそう言う仲となって居たようだった。

家族と愛する男の身の上に何が起こって居るやも知れず、只知らせを待つ毎日にどうにか成りそうなちさとで在った。

その頃、件の勘介と鉄蔵は何処かの森の奥深い所に在る洞窟を利用した牢屋に二人して幽閉されていた、手傷こそ負っては居ないが季節はもうそろそろ秋も終わりと云った処故に中々の冷え具合とろくに食事も与えて居らぬのか少しやつれた様相を二人とも見せて居た。

「のう、鉄蔵」と少し低い声だがしっかりと気力を保った感じて勘介が鉄蔵に話し掛ける。

「何じゃ?喋る元気が未だ残って居ったのか?流石は里きっての偉丈夫よの」などと軽口を言う鉄蔵に加えて勘介が言う「ちと妙だと思わぬか?何故儂らを生かして置く必要が在る?他の者同様とっとと殴り殺すのが普通で在ろうよ、お主はどう見る?」そう訊ねると「そもそも儂らを捕らえたあの輩は何者かの、どうやら儂らと同じ様な仕事を生業としている輩と見たが、この辺りでは見かけぬ素っ波じゃの」

素っ波と呼ばれる一族は何も勘介達の一族ばかりとは限らなかった、当時この辺りの領主達は国衆と呼ばれ

、それぞれが勘介達の様な者たちと仕事の契約を結んで居た、勘介達の一族は黒龍と呼ばれる一族で里を黒龍の里と呼ばれた、その里の頭領は代々黒龍の眼と呼ばれ、契約を交わす大名達の間では黒龍眼と呼ばれた

それぞれが別の国衆との契約の為横の繋がりは特に無く、商売敵として争う事は在っても慣れ合う事はけして無かった、それでも近所の素っ波同士は大体把握もしている、技の源流もほぼ同じ故にお互いの手の内もまぁまぁ知れていると言っても過言では無かった、それ故に見掛けぬ輩と言えば余所者?と言う事に成るのも当然の事と言えば当然の事であった、何故での様な事態になっているのかも正直二人にも分からなかった、故に何時でも此処から逐電出来る様に体力を温存し、余り喋らずに好機を伺っている所にで在ったが、埒もあかないので何か一計を案じようと鉄蔵に相談し始めた次第で在った。

「これは儂の勘だが、儂らは何かの囮に使われて居るのでは無いかの」などと勘介が言うと「囮だと?狙いは何じゃ?何者をおびき寄せる為に我らを使うと言うのじゃ?わしの考えは違う、これは何かの濡れ衣を儂らに着せる為の捕縛、事が済んだら儂らをころし、骸を置いて儂らのせいにしてその流れで里に攻め入る、こんな処じゃろ」恐ろしい程の勘働きがこの鉄蔵の得意でも在った、故に仕事の段取りは大抵鉄蔵が立てて居た、黒龍眼の懐刀と謳われた鉄蔵の真骨頂は正に此処で在った。

そんな遣り取りをする内に誰かが牢屋に訪ねて来た、あの囲炉裏の前に座っていた大男だった。

「こりゃ大きいのぉ、身の丈は六尺程か、年頃は儂の倅位なものか」などと言うとその大男は静かに言った。「初めてお目にかかる、そなた達は噂に聞く黒龍の里の頭領とその懐刀で相違御座らんか?」

すると鉄蔵が言った。

「如何にも、儂がその頭領でこやつが懐刀よ、こちらが名乗ったのだ、そちらも名乗るのが作法で在ろうよ、一体主等は何者だ?」そう返すと、その大男は鉄蔵に脇目も振らず勘介の方に向かい「お初にお目にかかる黒龍眼殿、儂は風魔一族の長、名を小太郎と申す」案外と礼儀ひ知ったもので在る事がその物言いから分かる様な男でも在った、それに名を小太郎、風魔の小太郎とは如何なる者か?

「風魔とな?聞いた事が有る、確か箱根の山々を根城にしている儂らの里と似たような暮らしぶりという話を昔聞いた事が在る、その里の頭領の名が確か、小太郎じゃったかな、それにしても何故儂が黒龍眼だと知れた?そっちの懐刀が最初黒龍眼だと認めたにも拘らず儂の方に名乗り居った、中々の眼を持って居るものじゃ、ウチの倅とは大違いだの、お主のてて御が少し羨ましいのぉ」などと言えば「恐れ入りまする黒龍眼殿、此度こう云う運びと成ったのは純然に仕事の為で御座る、そちらには何の私怨も御座らん、それを伝えるべく、罷り越した次第に御座る」

重ねて丁寧な者だなと案外と好印象を持った初老の二人では在った。

「儂らを何に使うつもりで生かして居るのだ?冥土の土産に聞かせてくれても良かろう?この様な堅牢では流石に逐電する事も叶うまい、どうじゃ?」などと鉄蔵が小太郎に問い掛ける。

「御二方には濡れ衣を着て頂く事に成ります」案外とすんなり教えたのは二人の命もそろそろ尽きる事に成ると察しての事であろうか?

「濡れ衣?如何様な濡れ衣じゃ?話に依っては観念して着てやらん事も無いかの」などと勘介が返す、全く以てこの男らしい言い振りで在る。

そんな勘介に小太郎は言葉を改めて云う「我らが雇い主は拠無い理由でお味方の粛清を拠無い位のお方から言い渡されて居るのだ、その粛清を果たした後に御二人にはみまかって頂き、その場に骸を晒し、濡れ衣を着て頂くその様な運びとなって居りまする、この上はどうか御観念頂きたく存じます」

そう、丁寧に頭まで下げる小太郎に勘介は「要はこうだろ?お主たちが今しようとしているのは謀殺に乗っかった商売敵潰し、と云う事じゃな?」

そう勘介が云うと冷静に見えた小太郎の表情にほんの少し変化が見えた。

「流石は世に聞こえた黒龍眼、正に流石としか言いようも御座らん、真田との約束事、そっくりこの風魔が引き継ぎまする故に御心配無きよう」などと嘯く小太郎に鉄蔵は言う「商売敵か、なる程な、良い策じゃな、今度我が里でもそれで商売敵を潰すか」などと軽口を言うと、小太郎は何も言わずにその場を立ち去った。

自分たちを拉致した目論見を知り、お互いの顔を見合い、眼で何かを合図し合う勘介と鉄蔵、一体如何にしようと図っているのか?


第七章


ちさととさゆり


その頃里では、ちさとが具足を身に着け里を出ようとしていた、場所は結界に程近い見張り小屋で在った、仕度を終え干し飯を噛みながら何やら逡巡している様子で在った、其処へ見た顔が現れた。

「ちさと様、その様な出で立ちで一体何処に行くおつもりかえ?」現れたのはちさとの幼馴染みで小兵太の許嫁のさゆりで在った、旅の千鳥と云った出で立ちでちさととは対照的な出で立ちで在った。

「そんな格好で一体何をしに来たんだえ?」と訊くと

「イロが心配なのは何もちさと様ばかりではないだえ?あたしのイロも出たきりなんだから、夜毎この体が疼きましての、いても立っても居られず、出て来てしもうた、御一緒させて貰いますでな」などとしたり顔で言うさゆりに「体が疼くだと?こんな折に何を言ってんだい、この色狂いが、いい加減におし、とっとと帰りな」と突っぱねるちさと

「いいえ、此処は我を徹させて頂きまする」とピシャリと言うさゆり

「本当に頑固な女だえ、昔からちっとも変わらん、くたばったって知らんよ?」などと言えば少し目の座った様子で「お忘れですか?私の二つ名を、ちさと様の世話にはならないと思います、己の身は己で護ります故にお心遣いは無用です」と静かに言う、その時の異様な威圧感みたいなモノはちさとのそれを凌駕する程のモノでも在った。

「二つ名ね、確かに忘れて居たよ、お前もウチの親父の弟子の一人だものな、まぁ良いよ、今回は本当に不味い事に成っていると思うよ、覚悟おしよ?」珍しく真面目なちさとの様子に「勿論、では、参りましょうぞ」などと、まるでこれから戦に向かう偉丈夫と云った感じの様子の二人で在った。

ちさととさゆりが高梨の砦辺りに着いたのは里を出てから二日後の事で在った、ちさとは具足を脱ぎ、女の着物に着替えて居た。

「さて、何に化ける?」着いて直ぐに砦に入る算段をしている処がこの二人らしい処でも在る。

「まぁ、女の身で化けるモノなどは決まって居ます、それにはちさと様のそのお顔、化粧が少々薄すぎます、もっと濃い目にしないと入れませんよ?」さゆりは既に化粧も変え、着物もそれらしく開け、どこから見ても商売女にしか見えない容姿に化けて居た、その変貌振りはちさとですら驚く程で在った。

「アンタの二つ名、七化けとは良くも言ったもんだね、しかし、本職顔負けだねアンタの形はさ」などと少し呆れ顔のちさとでは在ったが、さゆりに習い、自分もその様相に化けた、流石に里きっての二枚看板、そんな形だがその艶かしさと云ったら普通の男なら見ただけで股間を押さえそうな程の艶気だった、二人はその夜に早々と門番をその色艶で誑かし、難なく砦に入り込む事に成功した、そして砦の中で足軽に化けた伴内を見つけ出した、驚いたのは伴内の方で、何故此処にちさとが居るのか?を考えるのに少し時を要した程で在った、伴内を蔵の中に引き込み、先ずは抱きつくちさとで在った。

「何故お前が此処に居るのだ?!」叱る様に言う伴内に「心配で居ても立っても居られなかったんだよ、許しておくれよ」などと塩らしく言うちさとに絆され、口調も少し緩やかになる伴内で在った。

「兎に角、親父殿や師匠の囚われとる場所を探らないと遺憾、それまで森の中で控えておれ」と諭すと

「もしかしてそれを探るのに半月掛かったのかい?」と呆れた口調で言うちさとに「致し方在るまい・・・」などと少々歯切れの悪い言い訳をする伴内、程なくしてさゆりが現れた。

「さゆり殿まで!小兵太は知って居るのか?!」更に驚く伴内にさゆりは言った。

「伴内殿!小兵太殿は無事なのですか?」などと噛み付くさゆり

「うむ、無事だ、もう直ぐやつとの繋の刻限だ」などと少し下手に言う伴内

「それとちさと様、お頭と鉄蔵様の居所が割れました、森の奥の洞窟牢に幽閉されているそうです、飯当番の足軽から聞いたので間違いはありません」

伴内は驚いた、伴内と小兵太の組の二組で探って早半月、全く手掛かりを得られずしたものをこのさゆりという女はこの、砦に入ってからほんの僅かな時でそれを探り出したと言うのか?

「ど・・どうやって探ったのだ?」

少し吃ってしまった伴内に

「殿方は本当に頼りに成りませぬな、こんな簡単なお役目にあんな大人数で半月、信じられませぬ」

云われても何も返せない伴内を少し憐れみちさとは「まぁ、女には女の、遣り方があるし、そう落ち込む事もないだえ」全く慰めにもならない言葉の後に小兵太が現れた。

さゆりとちさとの姿を見た小兵太も全く伴内と同じ反応で在った。

そして程なく手勢を全て集め、勘介と鉄蔵が幽閉されている洞窟牢に向かった。

素っ波の若衆二組と女衆二人での救出作戦の開始で在る。

先ずは小兵太が段取りを立て始めた、が、その間にさゆりが牢番に絡みつき誑かして居た、それに呼応するかの様に素早くちさとは門番を後から刺し、難なく鍵を手に入れた、男衆は地面に木の枝で何やら段取りらしきモノを書き始めた辺りで在った。

「お頭!おっとぉ!無事かい?!」ちさとが言うと「おう、ちさとではないか!さゆりも!二人で助けに来てくれたのか?」男衆も来ていないのにお前たち二人で来てくれるとは!伴内の奴らと来たら全く情けない限りじゃ!帰ったら鍛え直してくれる!」伴内達はとても出て行ける状況では無かった。

暫くして勘介と鉄蔵は牢から抜け出て、茂みに隠れて居た伴内達と合流した。

「お前たちは一体何をやって居ったのか!情けない、それでも黒龍の素っ波衆か?!全く、ちさととさゆりの爪の垢でも煎じて飲め!愚か者共!」と叱る勘介に「まぁ、何だ、今はそれどころでは在るまい?のぉ勘介、少し落ち着け」などと宥める鉄蔵。

そんな鉄蔵に絆されて気を鎮める勘介「それはそうと、相手はどうやら風魔の小太郎の様じゃ、儂らを消して後釜に座る企てだったようじゃ」一体どう云う段取りだったのか?と言えば、推察すればこうだ、高梨幸継は真田の殿様の命を狙って居て、その濡れ衣を素っ波衆に着せて罪を逃れ、風魔の小太郎はそれに乗じて武田の家に儂らを消す事で真田の殿様殺しの下手人を討ったと売り込むつもり、と、云った処で在ろうか?

勘介の考えも全く同じで在った。

「ちさと、さゆりを連れて里に帰れ、そして里の者達を儂らの代わりに護るのだ、良いな?」伴内が言った。

「分かったよ、これから先は男衆の仕事さね、あたし達は里に引き上げる、さゆり、帰るよ」珍しく素直に言う事を聞くちさとに対し、異を唱えるさゆり「私は小兵太殿と参ります!帰りません!」などと駄々を捏ねる始末、困り果てた小兵太はさゆりのうなじを手刀で軽くトンッと打ち気絶させてちさとに任せた、かくして生業の為に風魔と事を構える策に出る事にした勘介以下、黒龍素っ波衆で在った。


第八章


名張者


勘介以下、黒龍衆は先ずは伴内と小兵太の師、鉄蔵、そして伴内と小兵太、小兵太組の顔ぶれは小兵太の補佐である捨吉、よう太、まつ太郎そして、や太の四名、伴内の組は陣太、せん吉、金太、勝造の四名である、この計十二名で風魔に挑む事に成る。

勘介が他の者に段取りを説明している同じ頃、勘介と鉄蔵を幽閉していた牢屋の牢番が幸継の前で詮議を受けていた。

褌一丁の姿で後ろ手に縄で縛られ、跪いている、その傍らには風魔の小太郎が立っていた、手には千本と呼ばれる長い針状の暗器を手にしていた。

「お前の仕事は何じゃ?」徐に牢番に幸継が訊ねると、牢番は恐怖に身を震わせか細い声で「は・・はい、私の役目は牢番です」牢番に仕事は何か?それ自体がおかしい質問だった、つまり答える必要さえ無かった、牢番はそう答えた後に直ぐ悲鳴を放つ、小太郎が牢番の太腿辺りに千本を深く突き刺して居た、見るからに相当な痛みを感じているのは誰の目にも明らかだ、重ねて幸継は牢番に問う、「何故牢番のそなたはその役目を全う出来ず、捉えておった者達に牢の外に逃げられたのだ?」

牢番は苦痛に何とか耐えながら「私めが油断したばかりに逃げられました、お許し下さい!」そう言い終わるやいなや再び牢番の放つ絶叫が夜闇に響き渡った。

更に千本をもう片方の太腿に深々と刺し貫いた、その容赦の無さと言ったら、この者は本当に人の子なのであろうか?とおも思える程の残忍さに見える。

結局その遣り取りはその牢番が絶命するまで続いた。

「のう、小太郎、どうしたものかの

」そう小太郎に訊ねる

「はい、このままでは事を為すのはちと難しいかと存じます、さて、如何致すか・・・」などと逡巡している間に伴内等は城内に潜り込み風魔との決戦に挑もうと虎視眈々と機会を伺って居る処で在った。

組の若衆が火の見櫓の足軽を音も無く沈黙させると、伴内と小兵太は二人一組で風魔一族の者を探し始めた、程なく仕度部屋を見付けた、其処には十名を超す程の風魔一族の者が飯を食っている最中だった、食事中とも在って歓談に勤しむ者も在り、よもや其処に自分等を狙う者が潜んで居るとも思えなかったのであろう、伴内らには全く気が付く様子も無かった。

「どう料理してくれようかの」伴内が低く怨みを込めた声で言うと同じ様に小兵太も「そうじゃな、先ずは殴る、幾人かは殴り殺してくれよう、麻袋に詰められ殴り殺す程の所業がどれ程のものか、儂が奴らにたっぷりと思い知らせてくれる」二人の言葉自体、それは既に闘気とも言えるべき凄まじいもので在った、一族の仲間をなぶり殺された怨みは相当なモノなので在ろう、この食事中の風魔の者たちの命は既に風前の灯火と言っても過言では無かった。

最初に仕掛けたのは伴内で在った、食事の席のど真ん中に火が点いた千鳥玉をポンと投げ込む、いきなりの爆発音に風魔の者は混乱し、只慌てふためくのみだった、そんな中に小兵太は飛び込み、先ずは一人目の頭部に格闘術【砕】独特の錐揉み状に打ち込まれる拳打が、打ち込まれると鈍い音がする、明らかに頭蓋骨の割れる音だった、本来なれば一撃で人間の頭蓋骨など中々割れるモノでも無く、それをいとも簡単にやってしまう砕の拳の威力は誠に凄まじい、いや、既にそれは小兵太の力量の成せる技なのやもしれない。

「先ずは一人・・・」続けて振り向き様に軽く跳び胴回しの膝蹴りを二人目の肋の辺りに叩き込んだ、更に大きな骨の砕ける音がした、相手は大量に喀血し呆気なく絶命した、まるで鬼神の如き所業で在る、打ち込まれた物は全て粉砕される威力を持つ格闘術、それが黒龍の里の格闘術【砕】で在った。

「相変わらず凄まじい威力だの、敵じゃ無くて本当に良かったわ、さて、儂も怨みを晴らさせて貰おうか!」そう言うと右手で懐から油筒を取り出し、素早く左手の親指に付けた猪豚の脂を唇に塗り油を含み一気に霧の様に吹き出す、その油に素早く火を点ければ、あっという間に風魔の者は火達磨に、体に火がまとわりつき、肌を焼き尽くす、余りの熱さに堪らず部屋中を七転八倒し更に炎を拡げた、こうなるともう此処は煉獄としか形容が出来ない様に成っていた。

砦の中から火の手が上がり、こうなると流石に騒ぎが大きく成っていた、それを合図にするかの様に勘介と鉄蔵は小太郎を探し始める、すると何処からか低く笑う声がする、この声は何処かで聞いた声だと気が付く勘介と鉄蔵であったが、声はのみで姿が見えぬ、一体何処からかこえがするのか?

「どうやら先に見付かってしもうた様じゃ、矢張り年かの?」などと勘介が軽口を言えば「お前だけがな、儂はそれ程耄碌はしとらん」などと鉄蔵は言いながら声の主の居場所を探って居た。

流石は風魔の小太郎と云った処か?中々気配を掴ませない、が、其処は年の功と云った処か、勘介が居場所を突き止め、鉄蔵に目配せで知らせる、棒手裏剣をその場所にすかさず打ち込む、確かに手応えが在った、が其処には誰も居ない、又姿を眩ませた、それより気になるのは幸継の方で在った、あ奴に逃げられては此方の都合も良くない、この騒ぎに乗じて消すしかないと決めていた勘介だった。

「鉄蔵、小太郎は儂に任せろ、お主は高梨を殺れ」と、ハッキリと鉄蔵に命じた、鉄蔵は返事もせず、その場を離れて幸継を探した。

時を同じくして伴内と小兵太は飯場の風魔達を片付け、組の若衆と合流すべく集合の約束をしている本丸近くの井戸の辺りにやって来た、が、其処には驚くべき光景が目の前に在った、伴内と小兵太の組の若衆達の骸が無残にも横たわって居た、一体何が在ったのか?

そこに二つの影が見えた、黒装束のその者はユラユラと何かのせいで揺れて見える様な錯覚を起こす程の様子を見せて居た、しかし、風魔の者とは少し違って見えた、一体何者で在ろうか?

その影が喋った。

「己らは黒龍の里の者か?」掠れた声で影が言う。

「主らこそ何者だ?その風体からすると風魔では在るまい?」と伴内が返すと「中々賢いのが黒龍にも居るではないか」もう一人の影がようやく話始めた。

「お主ら名張り者か?」伴内がそう訊くと影たちは再び口を閉ざした。

名張者とは如何なる者たちかと言えばその名の通り、当時の名張と言う土地の辺りは今の三重県の辺りの事を言う、この辺りは元々は織田の領地だが藤堂と云う家が代々治めている土地で伊賀者もこの辺りの出で在る、この辺りの忍者を名張者と呼ぶ事が多かった、恐らくは織田の間者としてこの土地に入り込んで居たので在ろう、端から見ても只者でないのが分かる風体で在った。

「儂らの組の者が総出で掛かってもこの様かね、相当な手練だえ・・」小兵太は拳をギュッと握り締めた、相当な怒りが籠もった様子が伺える。

「そんな事はどうでも良い、こ奴らは儂らの組の者を皆殺しにしたんじゃ、どの道生かして置いてなるものかよ!」そう良い終わるやいなや伴内は素早く名張者に挟撃を掛ける、小兵太もそれに続き襲い掛かる、四名入り乱れての乱闘となった、力量はと言えば名張者の方が多少上かとも思ったが部下を殺された恨みの怒りからか伴内らも普段より数段力量が上がっている様子で在った、その攻撃の凄まじさは大変なものか在り、徐々に名張者を圧してもいた。

「小兵!一対一に分かれるぞ、アレを遣うから儂から離れてろ!」アレとは何か?名張者もそれを聞き、一体何を遣うのか?と警戒し始める、中々仲間と離れない様に塊を崩さない戦法に出ている、更に激しく玉になって打ち合う四人?いや、いつの間にか三人に成っている、小兵太のみが二人を相手に砕で応戦している、伴内は一体何処に?

すると名張者の一人が急に動きを止めた、それに気が付いた瞬間、気が付いたもう一人の得物を持った手が手首から先がゴロっと地面に落ちた、何が起こったのか?名張者は慌てて仲間を見るとそやつの首だけが地面に落ちた、首の無くなった辺りから圧力で血飛沫が上がる、こうなるともう何が何だか分からず、只慌てる様子の名張者であったが、又奇妙な事に気が付いた、血飛沫が、筋となり自分達の周りにまるで蜘蛛の巣の模様の様に拡がっていた、これは一体何事かとよく見ると、それは髪の毛程の鋼線に血飛沫が掛かり、そう見せているのだと気が付くのにそう時も掛からなかった、無闇に動けばこの鋼線に身体を切断されてしまう仕組みだ、伴内は成人の儀の折に勘介から逃れる為に遣ったあの術で在った、一体いつの間にこれ程の鋼線を張り巡らす事が出来たのか?そんな暇があったで在ろうか?と、端からみても疑問を持つ位に名張者が身動き出来ない程に張り巡らされて居た、一体どうやって?

そう思ったのは名張者も同じで在った、その頃には小兵太は攻撃を止め、伴内の張った結界陣の外に逃れて居た。

「いつの間に?と思うたろ?コレをやる為に小兵太にアレを遣う、とわざと大声で言うたのだ、まんまと掛かりおって、あの時点でお主らはこうなる定めだったのだ、ほれ、それにあれが見えるか?」伴内はすぐ側の木を、指差す、其処には大きなスズメバチの巣がぶら下がって居た、スズメバチは視覚的に黒いモノを攻撃する習性が在る、そして名張者の装束は黒装束、これ程の大きさの巣にはどれ程のスズメバチが居るのか検討も付かない、一度に襲われれば先ず命は無いし楽にも死ねないのも想像は容易につく、伴内は礫を幾つか手に取り、スズメバチの巣の方をちらりと見た、名張者はわざわざ此処に誘い込まれた事を悟った。

「のう、伴内、相変わらずの冴えじゃな、お主の刻斬りはよ」小兵太は言う、刻斬りとは?如何なる術か?

それはさておき、伴内は容赦も無くスズメバチの巣に礫を打ち込み巣を破壊した、こうなるともうどうしようも無い、巣を壊されたスズメバチは怒りに猛り、何百と言う蜂がその辺りの者達を襲い始める、特に名張者は黒装束、動けば体が切断、じっとしていればスズメバチの大群に襲われ毒で絶命、何方にしろ生きる道は無かった、伴内と小兵太ははその場から素早く去る、後から名張者の絶叫とも言える叫び声が辺りに響き渡った。


第九章


小太郎


小太郎は手傷を負って居た、先程勘介が放った手裏剣が左腕を掠って居た、大した手傷ではないが、暫くして傷が疼き始めて居た、手裏剣には恐らく毒が塗って在ったと思われる、その証拠に傷が見る見る化膿していくのがわかった、一体どんな毒を塗ったのか?

「何か臭うな勘介、お前さっき廁に入っていたな、どこぞに糞でも付けたか?」鉄蔵がクンクンと匂いを嗅ぎながら言うと「あぁ、ちと棒手裏剣を肥溜めに突っ込んだからの」手裏剣に塗って在ったのはどうやら人糞らしい、人糞を鏃や手裏剣に塗って遣うのは当時は常套手段位の勢いで遣っていた、人糞の中には言わずと知れた大腸菌を始め傷口から入れば壊死をお越し、その毒が直ぐに体内を巡り死に至る、位の病原菌がウヨウヨ住み着いて居るのだ、この当時からその事を知っていたのはこの国では忍術遣い位のモノだと思われる、先程小太郎に放った手裏剣にも塗って在った、故に小太郎は今少し今で云う処の感染症を起こし掛けた状態なので、あった。

「この臭いは、得物に糞でも塗って居たか・・このままでは何れ毒が回る、仕方ないな」小太郎は腰の刃物を抜き、何の躊躇もせず手傷を負った壊死を起こし掛けた腕をスパッと切り落としてしまった、傷口を縛り、血止めをしてその場を離れた。

勘介がその切り落とされた腕を見付けたのはそれから少し経ってからで在った。

「毒が回る前に腕を切り落としたか、大した奴、流石は風魔の小太郎、恐ろしい奴だの、しかし、逃さん、必ずや償わせてくれる」そう言い再び小太郎を追う。

その頃鉄蔵は砦の城主高梨雪継を追っていた、家臣を数名連れて厩に向かうのを鉄蔵は見つけ出した。

「早く馬を用意せぃ、儂は此処で死ぬ訳には遺憾のだ、この事を早く尾張に知らせねばならぬのだ!」などと家臣を叱りつける幸継、尾張に知らせと確かに言ったのを鉄蔵は聞き逃さなかった、尾張と言えば今武田と揉めている新参新興の大大名織田上総介信長の居城、清須城の在る土地だ、では、幸継は織田に調略されて居たと云う事か?

「呆れたサムライ大将だな、織田に寝返っておったか、それで真田の殿様を亡きものにして儂らに罪を着せて武田に我らを討たせ、あわよくば儂らが武田の殿様を恨みから討つ、と言った絵図を描いたか・・・それで小太郎を儂らの後釜を餌に焚き付けたか」そう独り言を呟く鉄蔵、この時点では未だ推測に過ぎなかった訳だが大まかその推論は当たっていた。

「この企みは未だ根が深そうだな、印を残し、泳がすか・・・」そう言い、鉄蔵は幸継らを追った。

その頃勘介は小太郎を見失った様で在った、致し方ないので伴内達と合流した。

「他の者はどうした?」と最初にそれを心配するのは流石に頭領と云った器量で在った、が、伴内から事情を聞くとその様子も凄まじい怒りの形相に変わった。

「今名張りと言うたか?」怒りに震える声で伴内に聞き返した、伴内がそうだと言うと「おのれ、又性懲りも無く、伊賀者め・・・」憎々し気に呟く勘介、以前名張者と何かひと悶着在ったかの様な言い振りで在る。

砦は伴内達が付けた火が見る見る内に拡がり砦全体に火が回り始めた、こうなると此処に居ても仕方あるまいと鉄蔵の安否は気になったがとりあえず砦を三人で後にした、その折に鉄蔵の残した目印を見付けた、小石で矢印を作って在りその方角に向かったと云う目印だ、自分の血で小石に一つだけだが色を付けておくのが鉄蔵の特徴であった、程なく伴内達も鉄蔵の後を追った。

その頃小太郎はと言えば、矢張り自分の手の者と一緒に幸継の後を追っていた、片腕を失うもその様な事など差ほど気にもせず、先頭を走って居た、流石に風魔の頭領、流石としか言いようも無い体力と力量で在る。

「皆のもの、一度止まれ」と静かに号令を掛ける小太郎、何故其処で止まったのか?

「五人程残って土蜘蛛を仕掛けろ、黒龍素っ波共は我らを追っているはず、其処を土蜘蛛で迎え討つ、良いな?」そう言い、その場に五名残し、後の者は引き連れ、その場から立ち去った。

さて、土蜘蛛?如何なる術なので在ろうか?

残された風魔の手の者5名はしころと云う道具を取り出し、地面を掘り出した、その掘る速度の早い事と云ったら尋常なものではなく、一刻も経たない内に人一人が隠れられる程の小穴を掘ってしまった、五名の内四名は穴に入り、最後の一人が隠れた後の地ならしをする、こうして追手を待ち伏せる準備を整えた。

半時もせぬ内に勘介と伴内と小兵太が現れた、が、何かを感じ勘介が足を止めた。

「お頭、のんびりしている暇はございませんぞ、急がねば」などと勘介を急かすが勘介は動かない

「伴内、此処はどうだ?仕掛け易くないか?」伴内に徐に訊ねる勘介、最初何を言っているのか?みたいな表情をしていたが目配せで分かった、そこは流石に親子で在る。

名張者が待ち伏せて居る事に勘介は気が付いたのだ、目配せと、手の振りでそれを伴内と小兵太に伝えた、

勘介は忍法土蜘蛛を知っている様子で在った、しきりに指ですぐ先の地面を指してそこに土蜘蛛共が潜んで居る、と知らせた。

「そうですな、ここなら見通しも良いし、何より、一気に片付けらそうですな」などとわざわざ聞こえる様な声で言う、その間に小兵太は土蜘蛛達の場所を特定し始めて居た。

伴内と小兵太は勘介の邪魔に成らない様に木の上に移動した、一体何が始まるのか?勘介は腰に巻いていた帯を解く、横に拡げると人がスッポリ被れる位の広さに拡がった、これは一体何か?それもそうだが何で出来て居るのか?も気になる、その風呂敷みたいな物を地面に落とし、それから懐から拳程の大きさの包を出した、油紙に包まれているのは黒色火薬の様だった、の包に刃物で幾つか刺し、穴を開けた、それを紐で結び尻尾を付ける、勘介はそれを持ち、そして風呂敷を拾い、そおっと土蜘蛛の住処の真ん中程で止まり、その包を振り回し始めた、ブンブンと音が立つ、流石に土蜘蛛達も気が付き始めたが何が起こって居るがよく分からない様子だった、そっと蓋を地面から浮かし、見てみると勘介が何やら振り回して居た。

「土蜘蛛共!今度はお前たちが狩られる番だ、とくと味わうが良い!ホレ!」勘介は掛け声と共に包みを真上に投げた、包の中の火薬は既に辺りに撒き散らされて居た、その辺りの空気にも混じって漂って居た、相当な粒子の細かさで在った、徐に土蜘蛛達は姿を一斉に現し、勘介を襲おうべく立ち上がる、その時既に遅し、勘介は風呂敷を、被り手には火種が握られて居た、勘介は火種を空中に投げた、投げた火は空気中に漂う黒色火薬に一気に引火し、辺りに炎が走る様に回り、その辺りのモノ全てを焼き尽くす、正に火炎の海と云った様子、土蜘蛛共はそれぞれが炎の衣を纏ったかの様に真っ赤に燃えだした、辺りには人間の皮膚の焼ける臭いが漂った、が、その炎の海に何やら黒い塊の様なものが在った、それは勘介が石綿で出来た風呂敷を被った姿で在った。

勘介と小兵太は余りの恐ろしい様子に息を呑んだ、五人の人間が一度に燃える様、正に地獄の絵図を間近に見た様なもので在った。

何事も無かったかの様にその場に立つ勘介

「二度も掛かるものかね、貴様ら風魔は儂らが根絶やしにしてくれる」と、伴内はかつて話には聞けど見たことの無い父親の持つ奥義と怒りの形相にこれは只事では無い因縁が在る事とこの時更に確信した様子だった。

こその頃小太郎はそろそろ幸継一行に追い付く程の距離に居た、残して来た土蜘蛛達を少し心配するかの様に手下の者が小次郎に言った。

「お頭、土蜘蛛共が追い付いて来ませんが、少し待った方が良くは御座らんか?」小太郎の右腕らしい者の言に「たわけ、土蜘蛛共はもう追い付いては来れまい、が、少し時は稼いでくれた様だ、無駄にするまいぞ!」などとその者を一喝し、更に速度を上げた、小太郎は最初から時間稼ぎとして土蜘蛛を仕掛け、待ち伏せさせたのだった、何しろ追手らは黒龍の素っ波衆、それも頭である黒龍眼の勘介で在る、あの程度で仕留められる訳も無くと云うのは最初から分かって居た様子だった、それにしても手下を時間稼ぎに遣うとは、無情也、風魔小太郎、が、当然と言えば当然な対処でも在る、先ずは頭である自分が相当な手傷を負っている、そして追っ手は名うての忍術遣い、他に手は無かったで在ろう、そして最優先は先ず幸継の護衛で在ろう、それには一刻も、早く幸継一行に追い付く必要が在ったのも言うまでもない事であった。


第十章


龍巻


その頃、鉄蔵はと云うと、幸継らを監視はしつつも大した備えも持って居らず、監視するだけの歯痒さに少々嫌気すら感じて居た、そんな矢先に、うっかり音を立ててしまい幸継の護衛の侍に自分の存在を知られ、逆に追っ手を掛けられていた、何しろ得物と言っても腰に差した短い刃物一本のみ、手裏剣や苦無は砦で使い果たしてしまった、追っ手はは手練の侍が二人、此方はろくに仕込みも持たない初老の忍術遣い、まともに死合えば結果は見えて居た、何とか追っ手をかわそうとはするも中々上手く行かず崖際まで追い詰められた、鉄蔵、正に絶対絶命の危機で在った。

「追い詰めたぞ!覚悟せい!」追手が更にジリジリと鉄蔵に迫る、前には手練のサムライ、後ろ手には切り立った崖、これは流石にここまでか?などと覚悟を決めかけたその時、侍の一人が急に悲鳴をあげた、一体何が在ったのか?と鉄蔵の事も忘れて仲間を見ると、既に何者かに刃物で刺され、絶命していた、ハッと気が付いた瞬間、鉄蔵に後ろ手に回られ、腕を捻りあげられたまま脇差の小太刀を抜かれ一気に腹に突き刺されていた「ようも追い詰めてくれたの、どうじゃ?秘術、龍巻きの味は、せめてもの情けじゃ、切腹に見せ掛けて置いてやる、それなら向こうに旅立っても恥にはなるまい」そう言い、後から相手の両の膝を折り、正座したたような格好をさせると同時に腹に刺した小太刀を横に引く、自ら腹を切った格好に端からは見える、これは黒龍の素っ波の御家芸とも云うべき技で、侍を暗殺する際に自刃に見せかける技、相手を芯にまるで竜巻が巻く程の速さで絡め取る様子をその技名としたのがこれだ、鉄蔵はこの技を遣う手甲闘体術という小兵太の遣う格闘術【砕】を更に進化させた体術の創始者でも在った、その技は後に伴内が遣う術に大きな影響を与える技でも在った、それはそうと最初に刺殺された侍は一体誰に殺されたのか?姿を見せずの者では在るが、どうやら敵ではないらしいと悟り、その場を去り、再び幸継を追う鉄蔵の背中を見ていた者が居た、その者はかつて何処かで見た様な顔で在った、一体何処で?

「流石にあの技は知らなんだ、お頭からは習って居ないな、流石は手甲闘体術の創始者か、まぁ何れ教わるとしよう、先ずは後を追うか」その者は黒龍の里の才蔵で在った、何故此処に才蔵が?とも思うたが、どうやら鉄蔵を人知れず助ける様な役目を負っているのはどことなく分かった。

程なくして、小太郎は幸継一行に無事に追い付いていた。

「その形はどうした?小太郎よ、黒龍衆にくれてやったか、あ奴らはそれ程のものどもで在ったか、なれば後釜にお主たちが収まるのは難しいやも知れぬな」などと冷たく吐き捨てる様に幸継は小太郎に言った。

小太郎は黙って居る、いや、そうする他には無かった、しかし「相申し訳無い事で御座る、が、黒龍の達よりもっと気になる者が、この地を彷徨いて居りまする、そちらの方が気になります、私の推察する処その者たちは名張の方から入って来た者かと」名張と聞いて青くなったのは幸継本人で在った、名張と言えば自分が通じている敵方の大将、織田信長の居城で在る清須城の在る場所で在る、信長が忍びの者を放った理由はたった二つと思われる、一つは調略した幸継の監視、二つ目は真田の頭領の暗殺を成し得なければ証拠隠滅の為に幸継を消す役目で在ろう、恐らくその二つを命じられてこの地に来ているので在ろうと幸継にも容易に想像が出来た。

「織田の若殿はほんに心配症な事よ、が、確かにそれは気にはなる、引き続き調べよ、けして儂に近付けるな?見付けたら証拠も残さず消すのだ」そう、小太郎に命じた。

そして、里でも一つ問題が発生していた、結界付近に何やら不穏な者達の影が彷徨いて居た、物見の者がいち早く見つけ、里の長老の源吾に知らせて居た、その頃はちさともさゆりも里に戻って来ていた、そして源吾からその知らせを聞いて居た。

勘介の留守中に里に侵入されたら厄介で在る、しかして、物見を増やし先ずはその不審な者共を調べる手に出た、何せ此処は黒龍の里、結界付近なら地の利は源吾達の方に在った、先ず一人生け捕りにし、拷問に掛けるも責め抜いても一行に情報を漏らさず、結局何も分からずに絶命してしまった、が、黒龍衆の拷問に耐え抜き、命乞いや死なせろとも言わずに耐え抜くこの者の忠誠心を考えれば、相当な忍術の修練を受けて来たのが分かる、凡そ只者では無い、一体何者か?だが分かった事はこの者の支度の具合からしてこの里には諜報が目的では無く、攻め入る事が目的と知れる、それ程の装備を身に着けて居た、手裏剣や苦無いの数は元より半弓や毒鏃に忍び具足、それに手鉤等、忍びが相手と想定した戦支度、これは正しく掃討作戦の戦備えに他ならなかった、それを知り、源吾とちさとらは覚悟を決めて迎え討つ支度をし始めた、里に残った若い衆を源吾が纏め、小頭にちさとを立てた、女の身の上とは言えちさとは伴内や小兵太を除けばこの里きっての素っ波衆の一人でも在った。

早速結界付近に布陣を始める源吾達黒龍衆

「良いか?忍術法竜巻きを仕掛ける、この術は一歩間違えば此方にも死人が出るやも知れん大業よ、皆のもの心して掛かれ、良いなちさと、この術の要はお前じゃ、この術の一番大切な段取りは何じゃ?」と意味有りげに源吾がちさとに訊ねた。

「この術は好機が全て、その機を逃せば術は成らず」と静かに答える。

「うむ、分かっているな?好機だぞ?」などと念を押す源吾に、ちさとは少々戸惑った、何故で在ろうかはその時は分からなかった。

さて、そろそろ結界付近に動きが在った様だった、若衆と侵入者の小競り合いが始まった様子だった、ちさとは一番後で指示を出していた。

「良いかい?無理するんじゃ無いよ?!反り立ち岩の前迄は退いて良いからね?!」などと言いながら人差し指を舐め風に晒し何やら風向きを見ている様な感じだった、これも術に入る前の段取りの一つで在ろうか?

流石にこの里に掃討を試みる者達、相当な手練揃いで在った、結界付近から相当に中に入られて第二の結界の在る岩場付近まで退くちさと組の若衆、ちさとがその一人に何やら耳打ちした、その者はちさとの顔をキッと見るも、直ぐに薄ら笑いを浮かべて何かを決意する表情に変わった、ちさとはその者の唇に自分の唇を重ねた、いや、隙きを見て、自分の組の者全てに、一体何の合図なのか?敵方から見てもそれはとても不可解な行動に見えた、まるで今生の別れを惜しむ男女の接吻の様にも見える、するとどうだ、圧されていた黒龍衆の素っ波が急に鬼神の如き働きを仕出した、ちさとの接吻に何か特別な意味でも込められていたのか?

その時、風が強く巻く様にそこにいる者全てを巻き込む様に吹き始めた、よく見ると、黒龍衆の後ろには深く横に抉れた様な形の巨岩が聳え立って居た、風がその抉れた部分を通るとその辺りには巻くような風が吹くようになっているみたいだ、若衆と侵入者達は其処で戦を激化させていた、暫くして皆に何か異変が現れた、音が聴こえている、最初は高く、そして次第に細くなって行った、その音が聴き取れなくなる頃、其処にいる者達は全員何故か動きが鈍くなって傍から見ると何かゆっくり動く様に見えた、自分達の異変に気が付く頃、殆どの者が、五感が鈍った様な様子を見せた、岩の上にはちさとが寂しそうな面差しで立っていた。

「皆、勘弁だえ」そう良い何か懐から包を出し、風の巻いた岩の前に流した、何かの粉で在ろうか?

ちさとはその粉を吸い込まぬ様に口元を布で覆っていた。

程なくして岩の前に居た者全てが苦しみ悶えるのが見えた、ある者は肺が腐り、喀血しある者は、眼や耳、鼻までも血を吹き出した、ちさとの撒いたものは明らかに毒で在った、それも少しでも吸込めば速攻で内蔵が腐り始め悶え苦しみながら絶命すると云う秘伝の猛毒で在った、勿論下に居たのは敵ばかりでは無く、自分の組の若衆も同じ目に遭って絶命している、彼らが流した血が風に舞い、まるで龍が空に舞い上がる様な様に見えた、これぞ忍術法竜巻き

味方を囮にその辺りの風を読み、敵の体の自由を何かしらの手段で奪い、風下に向けてその毒を放つ、敵味方全てを巻き込み兼ねない術は、敵の強さによってそれも、変わる、囮だと、気が付かれたら成せない術でも在るが、相手が弱ければ引き込むのみで術は成るが、引き込む役が疑われればその場所に引込めない、ちさとは最初から味方を巻き込む腹だったのだ、若衆も源吾から竜巻きを仕掛けると聞いた時から何となく承知していた、故に最後の手向けにちさとは皆と唇を重ねたのだ、同じ死ぬにも只肺臓が腐って死ぬのとその前に美女からの口づけが有ってから死ぬのとでは同じ死ぬにしても雲泥の差が有る、ちさとはそんな事がちゃんと分かっている女でも在った、術に掛かった者達の体の自由を奪ったのはちさとが放つ声が原因だった、生まれつきちさとには声を音波に、変える異能が備わって居た、これぞ生まれ付きの所以でも在った、攻め込んで来た敵を全て一掃する事がこの里の者達を守る手立てでも在った、年寄り女子供は予め源吾が里の隠れ処に隠して在った、味方の骸を弔い、敵の骸を調べた、持ち物や体に彫られた青刺を見る限り、ちさとにはサッパリと言っていい程分からない様子だったが、源吾はどうやら少し違う反応を見せて居た。

「こ奴らは、風魔では無い、伊賀者だ、この独特な得物を見よ、儂らの手裏剣とは全く違う形をしとる、これは十字と言って伊賀者の遣う特徴的な手裏剣だ」伊賀者、つまり名張者という意味だった、風魔でなく何故に名張者が里を襲うのか。そもそもどうやってこの里の場所を知ったのか?も謎で在った、隠して忍術法竜巻きは成ったのであった。


第十一章


真田と黒龍


源吾はこの出来事を報告すべく真田昌幸治める真田の荘今の長野県上田の辺りに、足を運んだ。

「源吾か、久しいのぉ、未だ生きて居ったか」などと源吾に言うこの人物、どうやらこの人物こそ真田の頭領、真田昌幸で在った、そもそも勘介達黒龍衆にとって真田の家は大の上得意先でも在った、故に源吾も昌幸とは若い頃から面識も有った。

「御館様には益々ご健勝な事で」などと皮肉を込めた言いぶりの源吾に

「相変わらずな奴だな、して、今日は何じゃ?勘介と何か在ったか?」などとからかう様に言う昌幸に「今名張者と思われる者共がご領内を暗躍して居りまする、そして、高梨幸継は織田に調略されて居りまする」その言葉を聞いて昌幸の顔色が変わった。

「それは確かか?源吾、後で間違いでは済まぬ事だぞ?御館様に申し上げても大丈夫なので在ろうな?」と念を押して訊くと昌幸、それは無理もない事、高梨家は武田家の古参の一家でも在る、それを織田方に調略と在っては他の家にも影響を出しかねない、昌幸は源吾が偽りを言っている様にも思えず、正直悩んだ。

「相分かった、此方でも少し探りを入れる、オイ!誰か在る!」そう言うと源吾の横に人影が一つ現れた、一体誰で在ろうか?すると源吾が一言

「久しいの猿飛、倅は元気か?」どうやら知り合いの様に見える。

「お久しぶりに御座る源吾殿、そちらのお頭も元気そうで何よりに御座る、偶に此方の里にも噂が来ます」

この男、源吾は猿飛と呼んだ、そして音もなく源吾の横に現れた、この者もどうやら素っ波らしい。

「大介、お前達も源吾の所に合力して、今聞いた事実をハッキリとさせろ、御館様に申し上げるのはそれからだ、それとな、儂は命を狙われとるらしい、手の者を遣い城の警護を固めよ」と、大介なる素っ波に的確な指示を出す。

「有り難き事に御座います」源吾は昌幸にそう言い頭を下げる。

「時に源吾、お前の所の頭の倅、ありゃ何と言ったかの」昌幸は伴内を知っている様子だった。

「昌幸様、伴内の事はもう・・・」

何やら思う所の在る返事をする源吾

「まぁ、良い、伴内、そうか、そうであったな」などと少し罰の悪そうな返事をする昌幸で在った。

それから暫くして、源吾は猿飛の家に招かれて居た、その晩はそこに世話になる事になり、大介と源吾は囲炉裏の前で一献酌み交わして居た。

「いや、懐かしい、黒龍衆とうちは流れが同じ素っ波ですからな、親戚みたいなものに御座る」大介はそう言い源吾の盃に酒を注ぐ、その酒をくいっと飲み干し返杯する源吾

「まぁな、そっちは主君に仕え、儂らは相変わらずじゃ、気楽と言えば気楽だが、今回みたいに何処の誰とも知らん馬の骨共に襲われたりもする、難儀な事よ」などと愚痴を言い出す源吾に大介はしたり顔で言う「わしの姉をこっ酷く袖にした罰に御座るよ、源吾殿は元々は此方に来る筈の素っ波に御座ったのに、今のお頭の元を去りたく無いが為に婿入りの話を断ったと姉から聞いて居りまする」何と、源吾はこの猿飛の里に婿入りする筈の素っ波だったとは、初耳で在った。

「言うな、そなたの姉御にはほんに悪い事をしたと、今更では在るが後悔して居る・・・」溢す様に言う源吾、本当に寂しそうな目をしている。

「姉が身罷ってそろそろ十五年程になりますな」などと大介も同じ様な様子で呑み始めた。

「先程仏壇に焼香させて頂いた、ほんに済まん事をしたと頭を下げて謝ったよ」

などと空を仰ぎ何かを思い出している様子で在る、そこにいきなり何か小さな動物が部屋に迷い込んで来たかの様に見えた、アレはなんであるか?猿の様なそうで無いような・・・。

「源吾殿!お久しぶりに御座る!」それが何か喋り始めた。

「これ!佐助!なんて挨拶をするのだ、ちゃんとせい!」とその者に言う、どうやら倅の佐助で在った。

「よいよい、佐助か、随分と大きくなったの、もう一端の素っ波じゃの」などと佐助を褒める。

佐助は褒められて上機嫌、もう五つ位の年頃で在ろうか?

「佐助はこの里の頭領の跡目として育ててござる、どうですかな?一度源吾殿に稽古を見て貰えると良いと思うて居りまする」などと大介が言うと「そうだな、もう直ぐわしの役目も黒龍の里では無くなるやもな、そうすれば余生はこっちで過ごそうかね」などと年寄りが縁側で呟く様に言った。

「それはそうと、今回の事、私は少し合点が行きませぬ、風魔も元々は我らと同じ山猿に御座る、黒龍衆とも遠い縁戚関係にもあるものを、今更何故か?などとは思います」

大介は少々不可解といった様子で源吾に酒を注ぐ。

「それはよ、お前の先代からの因縁が在る、それには若き日の昌幸様の事が絡んで居てな」

「昌幸様の?一体どう云う経緯ですかね」などと詰め寄る大介に「まぁアレは昌幸様が未だずっとお若い頃、真田の三男坊の頃じゃな、その時に彼方此方の素っ波衆から人を雇って真田に入れて居たのだ、風魔と黒龍、そして猿飛からも出て居った、その中の二人、風魔からは園と言う女の素っ波と黒龍からはかやと言う女の素っ波が昌幸様の護衛として身の回りの世話をしていた」その話を聞いて何となく話の概要を理解しだした大介で在った。


第十二章


昌幸


話は25年前に遡る、その頃の真田の里と言えば今の長野県上田の辺りに砦を構え、大名としてではなく、その辺りを治める一領主でしか無かった、上州と信州に跨がる小さ領地を治める領主なれど他の領主のまとめ役でも在り、戦には素っ波なる忍術遣いをふんだんに遣い、生き残って来た武将でも在った。

「園とかやが身籠っただと?」昌幸が驚いた声で昌幸の乳母に言う、昌幸は身の回りの世話をした風魔の園と黒龍のかや、同時期に手籠めにし、孕ませたので在った、その時には昌幸は既に正室を迎え、嫡男の信幸が産まれたばかりの事で在った。

コレは不味いと思ったのは昌幸は三男坊と云う気楽さからか、放蕩三昧、お付きの素っ波にもこうして手を出す始末、兄達には未だ男児は産まれずに居る処に部屋住の昌幸がコレでは立場も良くない、しかして生れた子はそれぞれの里に里子ととして出された、困ったのは里の者達、部屋住とは言え、真田の血を受け継ぐ赤子をどう扱うか?頭の痛い処では在るが、それぞれの長となる若者が引き取った、その時の赤子が風魔の小太郎、そして、黒龍眼の倅の伴内、小太郎と伴内は紛れもなく腹違いの兄弟と云う事に成る、それを知るのは里の者でもかなり限られた者にしか知らされては居らず、風魔は兎も角、黒龍に至っては頭の勘介、その女房、それと当時の小頭の一人、鉄蔵に源吾、この位で在ろうか?

半分は真田の血を引き、半分はこの里の女の血を引く者、それが伴内で在った、猿飛の大介もその事実は知っていた。

ある日の事、各里に猿飛の里の早がけの知らせが来た、昌幸が家督を継ぎ、真田の頭領と成ったとの事で在った、何故こんな急にそう成ったのか?と云うのも合点の行かぬ話で、裏を取るのに自分達の雇い主を手の者を遣い調べさせた。

時は天正3年、兄の信綱と昌輝が織田方との戦で討たれ、生き残った昌幸が家督を継ぐ事になったとの事で在った、信綱の息子は家督は継げず、後に娘が昌幸の嫡男の信幸の妻に成るが、後に信幸が徳川に仕える際に本田忠勝の娘を正室にする為にその妻を正室から側室にしている。

話は反れたが何しろこの昌幸の血は多産の血でも在り、彼方此方に隠し子が居ても誰も不思議に思わなかった、が、しかし、それでもそれが自分達の里に関わる事となると話は別で在る、先ず心配したのが世継ぎ問題だった、現時点では跡目は信幸と成るが何せ妻の山手殿の嫉妬深さは異常とも思われる程で、側室も許さず何処かで隠し子などと云う話を聞けば間違いなく嫉妬に狂い、伴内を亡きものにすべく手を打つ筈、故に知られては成らなかった、が、この様な事は案外と簡単に知れるもので風魔と黒龍に二人、昌幸の隠し子が居ると山手殿に知れた、当然怒りに我を忘れた山手殿は風魔と黒龍に赤子を引渡せと猿飛を遣って知らさせたのだ、知らせにはこう在る、何方か一方のみ命は助ける、お互いの里の赤子を狙い合え、と在る、コレには流石に縁戚関係に在った猿飛も同情した様で在った、何とかこのお達しから逃れる手は無いものか?と、色々な尽力をしてくれたのも、事実でそんな折に黒龍と猿飛は色々交流も在った次第で在る、が、最初に動いたのは風魔の先代の小太郎で在った、里子とは言え我が子可愛さに黒龍の里を襲う段取りを付けていた、風魔と黒龍の因縁はこの山手殿の無茶なお達しから始まる。

それを知っても尚昌幸は正室の手前、何も言えず、助ける訳でも無く静観して居た、風魔と黒龍はお互いに相当な忍び同士の戦で犠牲を払い、それでも決着が付かず、両里とも子供はその末に命を落とした故に鉾を収めると山手殿には報告した。

本当は小太郎と伴内は生き延び、後に又因縁の出会いを果たす事と成るが昌幸と云う人物の策略家としての一面もこういう処で見え隠れした、あわよくば自分の失態をなき事に出来るし、何方かが生き残っても何れ何かで遣う価値もある、何より正室の山手殿の機嫌が直る事が何よりで在った。


第十三章


死絡み


小太郎は知っていた、何もかも、先代に聞かされて居た、伴内と自分が腹違いの兄弟だと言うことも、兄弟だからと云って何だと言うのだ?

一緒に育った訳でも無く、つるんで何かをした訳でも無く、父親が同じと云うだけだ、位にしか思って居ない様子であった。

「なぁ左門よ」小太郎は自分の補佐として働いている左門に言った。

「はい、何でしょうかお頭、もしかして黒龍眼の倅の事を気にして居るのですか?」と、小太郎の心を見透かしているかのような返答をした。

「そうよ、初めて顔を見た、あれが腹違いの兄弟かとな、どうだ?少しは似ていたか?」などと軽口を言う小太郎では在るが・・・。

「忘れましたか?我らはもう後戻りは出来ませぬ、黒龍衆を潰し、先ずは高梨に合力し、行く行くは武田に仕える猿飛をも潰し、武田信玄を討つ、そうなれば伊賀者共と同じ様に織田方に侍として召抱えて貰える、そういう手筈ですので」

風魔は武田信玄の暗殺まで画策して居たのだった。

幸継が調略されている時点でそれは半分成ったも同然では在ったか何せ邪魔なのが真田昌幸とその次男信繁、信繁は後に豊臣秀吉の家臣として夏の陣を戦う真田幸村で在った、信繁は長男の信幸と違い策略に長け武将としての才は兄をも凌ぐ程のものが備わって居た、事実上信繁も小太郎や伴内とは血が繋がった仲と云う事に成る、正に骨肉の争いと化した今回の事件、どうやら里同士の小競り合いでは済まない程のものになって来た、しがらみとはこの者達にとって正に死絡みと言った事で在る。

「左門、血の繋がりが逆に憎しみを生む良い見本が我らだとも思うのだ、そもそも儂が幸継にの策略に加担したのも元々は復讐の為よ、儂らを蔑ろにした真田へのな、何れ一族郎党根絶やしにしてくれる」

矢張り小太郎は真田を恨んで居たのだ、本来の目的が真田への復讐、そしてそのついでに黒龍と武田を潰すつもりなのだった。

その頃伴内も勘介から真田と自分の関わりを告げられて居た。

「まぁ、何だ、お前の本当の母親は儂の妹だった、風魔との小競り合いの際にお前の命を護ろうと庇い、その時に命を落とした、故に儂が引き取って我が子として育てた」

衝撃的な告白で在った。

「そうか、まぁ何となくそんな気もしていた、今更気にもせん」

心にも無い事を言う伴内、しかしながら・・・。

「そんな事はどうでもいい、お前は儂の倅だ、それはこれからも変わらん、そう思え」案外と父親らしい事を言う勘介で在った。

「親父殿、俺に兄弟を殺す度量が在ると思うか?」伴内が呟く。

「良いか?風魔はお前が赤子の時にお前の母親とお前を拐って逃げようとした、俺達は当然追っ手を掛けた、その時に奴らの土蜘蛛に待ち伏せを食い、仲間と我が妹を失った、何とかお前だけは取り戻しはした、が、矢張り仲間を殺された怨みは忘れられぬ、先代の小太郎は真田の影に怯え儂らを裏切り、黒龍の里に攻め入った、今となってはそれも当然だとは思う、儂らも逆にそう画策して居たからな、お互い様でも在る、が、矢張り割り切れぬ、故に今度でカッチリとこの因縁の死絡みを断つ!」

勘介にはその覚悟が充分感じられた。

死絡みとは正にこの者達の為に存在するかの様な言葉やもしれない。


第十四章


決戦前


準備は着々と進んで居た。

其々の思惑は其々には全く無関係にも思えるが結局一つの目的の為にそれを目指している、それは生き残る事、之に他ならなかった。

勘介と伴内、小兵太は小太郎を追って来たが結局は幸継を追う羽目にもなっている、風魔小太郎は幸継の逃げ込んだ、それは風魔の里に程近い駿府に在る居城で在った、其処には当時の駿府城の主、徳川家康の城でも在る、幸継は元々徳川家康に調略され、真田昌幸の謀殺を目論んだほだった。

そしてこの城には在る大物の忍術遣いが潜んでいた、その名も服部半蔵正成、言わずと知れた伊賀者の頭領で在る。

名張者を指揮していたのはこの男で在った。

片腕を失った小太郎をジッと見詰める半蔵に「何をジロジロと見る?その目を抉ってやろうか?」などと完全に敵視している小太郎で在った。

そんな小太郎に半蔵は何も言わず何処かに姿を消してしまった。

それから間もなく半蔵は家康の部屋に現れた、部屋では家康が薬研を遣い生薬をゴリゴリとすり潰して居た、一体何の薬を調薬しているのかは不明だ。

「半蔵か?高梨の盆暗はもう入場したか?」家康が嘲る様に半蔵に訊ねると「はい、先程、それと余分なオマケが後をくっついて入城致しました」余分なオマケとは風魔の小太郎の言葉で在る。

「あぁ、あの真田昌幸の隠し子か、幸継の奴、又面倒なのを引き込み居って」この家康という大名、既に其処まで知っていたのは本当に驚くべき事で在る、敵方の大名がここまで事情に詳しい事こそ、恐ろしく思うべきなので在ろうと誰しもが感じるで在ろう、この時代で既に情報収集を重視して子飼いの伊賀者で在る、服部半蔵に諸国を回らせ諸国の情報を探らせている、コレだけでも後にこの大名が天下を摂った理由が分かろうと言うもので在る。

「どうしますか?片付けますか?」そう静かに呟く半蔵に家康は言う

「片付けるのはお前ではなく、もう一人のあやつの兄弟よ、無理に御前が関わる必要も無い、放っておけ、良いな?」などとあっさりと小太郎達風魔の入城を家康は認めた。

その頃勘介始め伴内と小兵太はと言えば、猿飛の里に居る源吾に繋ぎを付け、猿飛の里からの応援を駿府城から二山程離れた辺りに潜んで待っていた、野火を炊き、何やら魚を串に刺して焼いている小兵太に伴内は言った。

「のう小兵太、今度の事の始末が付いたらよ、一度真田の殿様に会って来ようかと思う・・・」そう言う伴内に小兵太は焼き魚の焼け具合を見ながら「そうだのぉ、して、会ってどうする?親子の名乗りでも上げるのか?あちち、もう良い感じだな、ホレ、食え」と焼き魚が刺さった串を伴内に差し出して言う。

「いや、そう云った事では無く、只訊ねたい事が在るだけじゃ、それを聞いたら気が済む」何を訊きたいか?は特に言わずとも伊達に長く付き合いの在る仲の小兵太にはそれが分かって居た。

其処へ勘介が現れた。

「おっ?美味そうだな、儂の分は有るか?」などと言いその中に交じる、そしてポツリと呟く。

「良いか?情けは無用だが家康には手を出すな?今回の目的は幸継までだ、そういう御達しだ」どうやら猿飛の里から応援が来たらしい、真田の殿様からの御達しを勘介に告げたらしい。

「では名張者はどうする?このままでは儂らは腹の虫が収まらんのだが」と伴内が言うと横から「半蔵迄は手を出して良い、何れ遣り合う相手だ、早いか遅いかだけの事だ」と大介が言うと「分かり申した、風魔の小太郎と服部半蔵、相手にとって不足無し」と小兵太嘯く。

それから四半時が過ぎ、伴内達は名張者達の張った結界付近に潜んで決戦の時を待って居た。

「さぁ、とっとと片付けて黒龍の里に帰ろうぞ」と勘介が言うと「親父殿、これが終わったら真田の殿様に一度会わせてくれぬかの?」滅多に勘介に願い事などしない伴内で在った、が、この期にそれを願う伴内の言を無碍にも出来ぬと思った勘介は「相分かった、なれば生きて帰らねばな」などと少し子を思う親の様子を見せながら言った、確して黒龍衆、風魔衆、伊賀衆及び猿飛衆、名だたる忍術遣いが四つ巴に一同に会し決戦に挑む、けして歴史の表に出ない忍術遣い同士の裏の決戦の火蓋が切られようとしていた、果たしてその結末や如何に。


第十五章


事の顛末


猿飛の里の源吾の屋敷の縁側で源吾は茶を飲んでいる、其処にそろそろ一端の若衆と成った佐助が現れて源吾の傍らに座る。

「おう、佐助か、今日はほんに良い天気じゃな、今日は何じゃ?信繁様のお付きで何処かに行くのか?」などと言うと「いや、今日は黒龍の里のお頭に用事があって行くよ、それで源吾爺が何か伝える事が在ればついでにと思って寄ったんだ」

「おぉ、伴内の奴に会いに行くのか?そうか、今は奴があの里の頭で在ったな、して、何か在ったのか?」と訊くと少し気不味そうな様子で「徳川が又動き出したらしい、そして黒龍の里に又仇を為す事になるやもと報せに行くのと裏切り者が居るやもしれんとも報せなきゃならん」源吾は少し驚いた様子で「家康め、あれから十年も経とうというのに又も性懲りもなく、あの時息の根を止めて置くべきだったな」などと未だその眼光衰えずと云った様子を見せた。

そんな源吾に佐助は訊ねた。

「十年前、結局どの様な様子だったのかね、子供の頃だったからよくら覚えて居ないのだけど親父も里の若衆も酷い有様でやっと帰って来たのを覚えて居ますけどね」

「ん?そうで在ろうな、しかしあの酷い決戦の中、よく帰って来たものよ、黒龍の里の勘介や伴内、小兵太も里に帰った時は酷い有様だったな、勘介など左足の膝から下を失って帰って来た、鉄蔵が先に早がけで結界近くまで報せに来てくれなければ名張者に追っ手に殺られて居たな、でもまぁ高梨の幸継は勘介が切腹に見せ掛けて始末し、風魔の小太郎は伴内との殺り合いの末に事切れたと聞いている、自分の兄弟をその手に掛ける業を背負ってな、不憫な者よ」事の顛末はこうだ、十年前のあの日の朝方、四つ巴の忍術使いの戦が火蓋を切った、黒龍と猿飛の衆は結界を破り、駿府城の手前に在る砦に侵入、待ち構えて居た風魔衆と服部半蔵以下の名張者が勘介達を迎え討とうと待ち構えて居た。

それぞれが、名うての忍術遣い同士、その戦い振りたるや凄まじいものであった、勘介は幸継を仕留めるも伊賀者の反撃を食い深手を負い、伴内や小太郎も持てる術の全てを遣い相当な数の名張者の命を奪った、そんな中、伴内は小太郎相手に熾烈な死闘を繰り広げた上に決着を付けた、半蔵はと言えば前線には出ずとも事を成し遂げ里に帰る黒龍達の追手に加わり伴内達を手こずらせた、何とか黒龍の里の結界近くまで逃げ仰せては来たが半蔵達に追い詰められる羽目になった処に待ち伏せて居たちさとの組に囲い込まれての苦戦の末に何とか逃げ帰って行った、その時の屈辱からか半蔵は今尚黒龍の里を狙って何かを画策していると云う噂も聞く、しかして、その後に伴内は勘介から頭の跡目を継ぐ為に、黒龍眼見習と成った、猿飛との交流は未だに続いている、月に一度の繋ぎを今は次の猿飛の里の頭候補の佐助が役目として遣っている、それと始末が付いた後約束通り勘介は真田昌幸に伴内を会わせた、その時の伴内の言いようと来たら・・・

「拙者、黒龍衆の頭の倅、伴内と申します、聞くところによりますと拙者は殿の隠し子と云う噂も御座います様では在りますが、殿に置かれましてはどうお考えで在りましょうか?拙者の思う処ではありますが、拙者には真田の血などは毛ほども流れて居ないと自分では思うて居りますが殿はその事については如何にお思いか?!」などと不躾に聞いた、その言いぶりに流石の昌幸も目を剥いた、何しろ昌幸の傍らには正室の山手殿も座っていたのだ、そんな状況で伴内が自分の子供だとは言える訳も無く、大仰にその事を否定して見せた、伴内は初めからそうして欲しくて昌幸に会いに行ったのだ、そうしなければ又同じ様な事が起こってはいけないと思う伴内のケジメの付け方でも在った。

「そうかぁ、大したお頭だな黒龍眼殿は、なら尚更気を付けなくてはならない心配事が在ります」

事の顛末を聞いた佐助が源吾に言う。

「どんな心配じゃ?話してみぃ」と訊くと。

「黒龍の里に才蔵と云う者は居りましたかの」才蔵?何故此処でその名が出る?

「何故その名を佐助が知って居るのだ?」と訊く。

「今服部半蔵と行動を共にしている忍びの者の名にその名を聞きました、調べでは元は黒龍衆で何らかの理由で里を出たと云う事までは調べが付いて居ります」

源吾は驚愕した、服部半蔵と勘介の隠し子の才蔵が何故一緒に居るのか?

全く想像も付かなかった、何か嫌な予感を感じ、佐助に伴内宛の書状を持たせ、その旨を報せた。

その頃

黒龍の里から程遠くも無い在る砦に才蔵は居た、何やら自分の手下に指示をしている。

「良いか?黒龍衆との繋の折に先ずは向こうの者達を皆殺しにせよ、それが罠の始まりとなる、いいな?皆殺しだぞ?では行け!」そう云うと手下達は音も無くその場を去り何処かへと向かった。

「伴内、今度は生きては居れんぞ?、さぁどう出るかの、楽しみじゃ」

そう不気味な笑みを見せた。

若き日の伴内、小兵太、才蔵、お互いに色々思う処も在るも元は仲良く酒を酌み交わし、悪さもした仲、何故こう成ったは此処では定かでは無い、この後の顛末は又次のお話に続くと云う事で・・・。



終わり














































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火蜥蜴と楔 龍月 @ryugetu

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