SS⑫:おひとり様と3人のマスク女子
放課後のプライベートルーム。
グラウンドから聞こえてくる部員たちの掛け声や伸びの良い打球音、室内を吹き抜ける爽やかな風、蛍光灯など不要なくらい室内を明るく照らす陽光。
読みかけの文庫本をテーブルに置き、キンキンに冷えた缶コーヒーを一口飲めば、思わず呟いてしまう。
「独り、最高かよ……」
独りだっていいじゃないか。ソロ充なんだもの
ぼちを
窓から見上げる青々とした空の前では、パクリ乙な詩も素晴らしく思えてしまうのだから恐ろしい。
さて読書読書と、文庫本を手に取ったときだった。
「掃除終わりましたー♪」
「…………。……おう」
もっと恐ろしい奴がきた。
一日も3分の2以上終わっているのに元気一杯。愛嬌あるクリッとした瞳には、「まだまだ頑張れまっせ」という活力が
コミュ力モンスター、美咲華梨現る。
美咲の愛嬌ある瞳がジト目に。
「姫宮君。また面倒な奴が来たとか思ってるでしょ?」
「面倒なんて思ってないぞ。24時間働けそうな奴だなって思ってるだけだぞ」
「どういう意味さ!?」
ドウイウ意味デショウネ。
やはり元気いっぱいな奴である。そんなに体力を持て余しているのなら、近所の公園にでも行って、小学生とキックベースでもすればいいのに。
公園ではしゃぐ気分ではないのか、はたまた、そういうお年頃ではないのか。美咲は向かい側の席へと腰掛ける。
「というかさ、姫宮君」
「ん?」
「私の変化に気付かないかな?」
「早く気付いて」と言わんばかり。
「マスクしてることか?」
「せいかーい♪」
園児でも分かる問題に正解しただけで、この笑顔である。
マスクしてるから笑顔半減だけども。
しかし、さすがは学園アイドル。口元を半分以上覆っているにも拘らず、綺麗な顔立ちはご
白地の不織布は、ウイルスなどの
少年ジャンプ系で多いよな。眼帯やマスクで
「お前、強キャラでいそうだよな」って言ったら、一撃で
これだけ学校生活を共に過ごしているのだ。美咲の目を見ただけで、『第2問。何故、私はマスクをしているのでしょう?』と問われているのが分かってしまう。
『答えないと、お前を一生見つめ続けぞ』と脅されているのも。
マスクを着けている理由なぁ。
「そうだな……。全校生徒や近隣住民と触れ合うのが面倒にな――、」
「面倒になってません」
「誰にでも笑顔で接するのが
「煩わしくなってません」
「表情作りすぎて、素の顔が分からなく――、」
「~~~っ、違います! 姫宮君目線で考えないでほしいよっ!」
何このクイズ、超ムズイ。
「姫宮、華梨のこと、からかいすぎ」
「ニャハハハハ! やっぱり姫宮は面白い!」
お助けキャラ登場? 羽鳥と倉敷がプライベートルームへと入ってくる。
仲良し3人組が集結してしまえば、俺だけの憩いの場だったプライベートルームの面影は完全消失。
3人の溜まり場として認知してしまっている自分が悲C。
「英玲奈~……。あのモラルのない人が私のこといじめてくるの」
立ち上がった美咲が、癒しを求めて羽鳥の胸へと飛び込めば、羽鳥も羽鳥でよしよしと美咲の頭を撫で続ける。素晴らしき友情、
倉敷には、俺のことが残念な奴に見えているのか。
「モラルが無いって言われて可哀想に。姫宮はわたしの胸で泣くか?」
「泣かないし気にしてないさ。正しいと思う倫理観や道徳なんて人それぞれだしな」
「にゃるほどにゃ~。我が道を突き進む姫宮には、華梨の涙は全くに響かないと」
「そういうことだ」
「どういうことさ!?」「少しは響こ……?」
偏り過ぎた倫理観は、自己中になるから要注意だよな。
さすがに、美咲をおちょくるのも飽きてきた。
「マスク着けてたのは、掃除してたからじゃないのか?」
「えっ」
「掃除好きなお前のことだ。
「! ……正解です」
やはり推理的中。
あっけなく答えられてしまったからか。美咲はマスクから溢れるくらい
「もう。分かってたなら、泳がせないで早く答えてよ」
「すまんな。俺はゲームをプレイするのも好きだけど、実況を見るのも好きなんだ」
「人の反応を楽しまないでほしいよ……!」
やるな美咲。今の言葉の真意に気付くとは。
俺が美咲のことを分かってきたように、美咲は美咲で俺のことはお見通しということか。
これからは、もっとひっそりと言葉に毒を含ませなければ。
そんなクソしょーもないことを考えていると、
「変身っ!」
「私はまだ変身を2回残してますよ」とでも言わんばかり。倉敷は『とあるモノ』を胸ポケットから取り出し、変身ステッキさながらに高々と掲げる。
その正体はマスク。
美咲同様、掃除の手伝いをしていたから持っているであろうマスクを、勢いそのままに自分の口元へと装着。そして、このドヤ顔である。
ドヤ顔半分見えんけども。
マスク女子へと変身を遂げた倉敷が、俺へと尋ねてくる。
「マスク着けてる女子って、可愛く見えるっていうけど実際どう? わたし可愛い?」
令和版、口裂け女かよ。
マスク女子が1匹いれば、10匹いると思ったほうがよい的な?
「姫宮君っ、姫宮君っ。私も可愛いかな?」
悪乗りに乗らない手はないと、マスク状態の美咲までもが参戦。倉敷の隣に並び、デュエットを結成してしまう。
勿論、デュエットで終わるわけもなく。
「わ、私はどう? ……可愛い?」
いつの間に? 気付けばマスク女子となっている羽鳥も参戦。2人の隣に並び、トリオを結成してしまう。
仲良し3人組、マスク女子バージョン爆誕。
悪ふざけとはいえ、聞いてくるだけのことはある。
口元にぴったりフィットするマスクは、3人の小さな顔立ちを一層に小さく、一層にシャープな印象を与えている。
愛嬌あるクリッとした瞳、ぱっちりネコ目、凛と澄んだ瞳、どの瞳もマスクとの相性はバッチリ。さすがは人気者の美少女と認めざる得ない。
認めざる得ないからこそ、気持ちを素直に告げてしまう。
「可愛いと思うぞ」
「「「ほ、ほんとにっ!?」」」
「おう。黙ってれば美人って感じが前面に出てて」
「「「……」」」
素直な気持ちなど告げんかったら良かった。
綺麗な瞳をしていたマスク女子たちは何処へやら。
「英玲奈、まだマスク余ってるかな?」
「うん余ってる。瑠璃は赤色のペン貸してもらっていい?」
「おっけ。極太マーカーで引いちゃうねー」
物騒な会話を聞くことしばらく。マスク女子というか、もはやマスクを着けた不審者たちに左右の腕を拘束されてしまう。
さらには、『制裁を食らえ』とマスクを強制装着まで。
手鏡を向けられれば、案の定、白地に大きなバツ印入りのマスクがコンニチワ。
喋るなと言わんばかりに。
外すことなど許されるわけがない。そんなことをすれば、俺の口が縦に引き裂かれてしまうのは目に見えている。
「ミッション達成しました♪」と3人はハイタッチしつつ、普段どおり楽しい雑談会を開催。
マスク外してんじゃねー。
沈黙は金なり、雄弁は銀なり。
俺の言葉はアルミニウムにもならんらしい。
自嘲気味にマスクの中で呼吸を漏らしつつ、俺は読書へと戻る。
めっちゃコーヒー飲みたい。
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【あとがき】
お
春一のマイペースっぷりは健在、華梨たち3人組の仲良しっぷりも相変わらず。
僕自身、おひとり様ワールドを懐かしみつつ、楽しみながら書くことができました!
未だに温かいメッセージをいただき、ありがたい限りです。
この場を借りて感謝を申し上げます。
少し前にも、手書きのファンレターを送ってくれた子がいました。読書感想文で提出できるくらいの文量で、おひとり様の小説と出会ったキッカケや、好きなシーンなども熱く語ってくれ、冗談抜きで「おひとり様を書いて良かったな」と改めて思うことができました。感無量!
以上、様々な読者さんへの感謝を込めて今回のSSは書いた所存です。
マスク女子萌えな作品を書きたかったのも理由の1つです(笑)
スペシャルサンクス!
【祝書籍化】
「おっぱい揉みてー」という気持ちから、完全な性癖――、趣味で書いていた作品、
”『おっぱい揉みたい』って叫んだら、妹の友達と付き合うことになりました。”
が、なななんと、書籍化予定ですʅ(◔౪◔ ) ʃ
レーベルはスニーカー文庫さんから!
今後の詳細は、近況ノートなんかで逐一報告していきますね。
【短編2作品公開】
短編2作品を、本日(2020/7/11)から投稿開始。
毎日投稿、1週間で完結する短編なので、是非是非読んでみてください(☝ ՞ਊ ՞)☝
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-作品①-
蒼井璃海は美少女。けど、マスク女子 ~マスク女子萌えたちに捧げるラブコメ~
-作品②-
構って新卒ちゃんが、飲みやホテルに毎回誘ってくる。~ねぇ先輩、先っぽだけでも駄目、……ですか?~
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作品①は、こんなご時世だからこそ、マスク女子に萌えようぜという話。
「お前、どんだけマスク女子好きなんだよ」とツッコまないで。
作品②は、『タイトル=あらすじ』と思ってくれてOK(笑)
「商業でも趣味でも学園ラブコメ以外、書いたことねーな」と思い、社畜ラブコメに挑戦してみました。全国の残業戦士、社畜候補生に届け。
作品リストはコチラから↓↓↓
https://kakuyomu.jp/users/nagikieco/works
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お前ら、おひとり様の俺のこと好きすぎだろ。 凪木エコ@かまてて&おぱもみ発売中 @nagikieco
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