SS⑪【特別編】春から夏へ

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※こちらのSSは、『お前ら、おひとり様の俺のこと好きすぎだろ。』と新作がコラボしたものです。春一視点です。

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 放課後の帰り道、飼い主と散歩中の犬を眺めつつ思う。

「首輪、大変ですね」と。


 野放しが危険だからこそ、紐やリール付きの首輪をしているのは重々承知。

 けれど、犬サイドからしたら、「わしゃ、囚人か」とか、「猫みたいにソロ散歩できるわい」とか思っているのではなかろうか。

 散歩は、自分のペースでゆったり歩くのが醍醐味。これ常識。


 何故、俺は犬の気持ちを考えているのだろうか。

 ああ……。そうでした、そうでした。

 両隣を歩く、博愛主義者とサブカル女子が飼い主に見えてしまったからでした。


「学校も終わったし、地元のカフェで読書を楽しもう」と思い立った帰路、当たり前に美咲と羽鳥が付いてきやがるのだ。俺を連行するという形で。

 何でも、妹のゆずと俺の家で遊ぶ約束をしているんだとか。

 俺は遊ぶ約束なんてしてないんだけどな。

 ルンルン気分な美咲が、死に顔の俺へと小首を傾げる。


「姫宮君、どうかした?」

「気にするな。世の中、上手く行かないことだらけだと痛感してるだけだ」


「諦めて私たちと遊ぼ?」と微笑みかけてくる羽鳥は、一体どんな神経をしているのだろうか。

 人生諦めも肝心とはよく言ったものだよなあ。

 そんな悟りを開いている最中、背後からドタドタと騒がしい足音が聞こえてくる。


「……?」


 理由は分からない。

 分からないが、見知らぬ他校生の男が、全速力で走っていた。

 ぐんぐん近付いてくる男は、俺でも若干引いてしまう。


 当たり前だ。息を乱しつつ、悲壮感やら憤りやらを顔面で表現しながら走っているのだから。一見すると人畜無害そうな顔面をしているだけに一層迫力がある。

 恐怖を感じてしまうのは、美咲と羽鳥も例外ではない。両サイドの2人が俺の片腕に大胆にも寄り添ってくる。


 刹那、ただただ前を見て走っていたはずの男が、バッ! と俺たちへと視線を合わせてくる。というより、俺を睨んでくる。涙目で。


 そして、


「チッッッ、、、、、、キッッッショョョォォォ―――~~~~ッ!!! 俺だってハーレムしたいし、乳繰り合ってみたい! うわぁぁぁ~~~~ん!!! イケメンのバ~~~~カ、バ~~~カ、バ~~~~~~~~カ!!!」 


「「「……」」」


 超特急、残念な男。俺らを瞬く間に通過。


「今の人、何か嫌なことでもあったのかな……」

「嫌なことがあったか知らんが、嫌がらせ言われる筋合いは無いけどな」

 絡んでこなかっただけマシとは思うが。


「すみません!」

「ん?」「「?」」


 次から次へと忙しい。

 さっきの人物を追いかけているのか。息を乱す少女が、俺らへと話しかけてくる。

 小柄な少女ではあるが、凛とした大きな瞳は力強く、正義感の強さが窺える。


「あの! ここら辺で私と同じ制服を着た人、見ませんでしたか?」

「ああ。同じ制服を着たヤバい奴なら、今さっき通り過ぎて行ったぞ」


 事態は一刻も争うと、頭を下げ終えた少女は走り始めようとする。

 のだが、


「ちょ、ちょっと待って!」

 美咲が少女を呼び止めてしまう。


「? えっと、どうしましたか?」

「さっきの人、凄く取り乱してたみたいだけど、貴方1人で行っても大丈夫なの?」

 心配なのは羽鳥も同感のようで、

「えっと……、ハーレムしたいし、ち、乳繰り合ってみたい! ……って叫んでた」


 羽鳥が意を決して口にした『乳繰り合う』のワードは威力絶大。羽鳥が赤面すれば、美咲や少女の顔までポッポと火照ってしまう。

 お前らが照れ照れするな。俺が1番反応に困るやろがい。


 とはいえ、美咲や羽鳥が心配する気持ちも分からなくはない。

 それくらい、男は残念に見えてしまったのだから。


「はぁ……」と、盛大に溜息だって漏れる。

 だって、俺が同行しなきゃいけないパターンなのが目に見えてるし。

 事は急を要するみたいだし。事件性とかあったら大変だもんなぁ。

 アレコレ考える時間もないか。


「分かったよ、俺が――、」

「私1人で大丈夫です」


 少女の発言に、思わず口をつぐんでしまう。

 心配そうに口を開こうとした美咲と羽鳥も、俺同様、口を閉じてしまう。

 それくらい少女の表情や態度には、真摯さが帯びていた。

 静聴するには十分すぎる声音だった。


「ナツ君は私の恩人だから。ちょっと取り乱してるみたいだけど、今度は私がナツ君の支えになってみせます。だから大丈夫です」


 独り身の長い俺でも、直ぐに理解できる。

 この子は、さっきの男に恋をしているのだと。


「……そうか」


 となれば気にすることは何もない。むしろ、俺たちが付いて行っても邪魔になるだけだ。

「わざわざ呼び止めて悪かったな」と詫びれば、少女は大きく透き通った瞳を、一気に細めて微笑む。それは、好きな男への誤解が解けたことを喜んでいるようにさえ見えた。


 変質者もとい、白馬の王子様に追いつこうと、少女は再び走り始める。

 さてさて。背中も見えなくなったし、一件落着。


「! …………。……おい」


 罰ゲーム? というより、ご褒美?

 離れていたはずの美咲と羽鳥が、またしても俺の両腕へと寄り添ってきているではないか。しかも、さっきより半歩ほど距離が近い。良い匂いが鼻孔をくすぐってくるし、何なら色んなところが大分当たってる。

 一番のインパクトは、美咲と羽鳥の笑顔が近いことだろう。


「やっぱり姫宮君は優しいね♪ あの子のこと、助けようとしてたもん」

「やっぱり姫宮は頼りになる。カ、カッコ良かった!」


 いくら感情に乏しい俺でも、至近距離で褒められればムズ痒くだってなる。

「……おだてても何も出ないぞ」とぶっきらぼうに返せば、2人はクスクスと笑みを絶やさない。


 そして、2人に寄り添われたまま、カフェではなく俺の家目指して歩き始めることに。


 お前ら、おひとり様の俺のこと好きすぎだろ。




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【お知らせ】

新作は、こちらのSSの続きからのストーリーとなってます。

サクッと読めるはずなので、是非是非!


新作はコチラから↓↓↓

https://kakuyomu.jp/works/1177354054893179985

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