SS⑩:私の瞳に映る、おひとり様
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※『お前ら、おひとり様の俺のこと好きすぎだろ。』4巻を購入された方は、こっちのSSは後回しにしたほうが楽しめるかも?
今回の話は『特に』ネタバレ含むので要注意!
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文化祭終わり、場所は喫茶店WELL。
打ち上げ、さらにはコンテスト優勝とあって、クラスの子たちは全員と言っていいくらい笑顔が溢れている。もちろん、私も例外ではない。
クラスの皆に、笑顔と優勝を届けた立役者はどうだろう。
さも、「自分は赤の他人です」と言いたげ。カウンター席の隅っこにいる姫宮君は、独りまったりとコーヒーの香りや味を楽しんでいた。
この人は本当に独りの時間が好きだ。心から愛しているのが、横顔や背中だけで分かってしまう。
出会ったばかりの頃は、クラスに馴染めない、恥ずかしがり屋な男の子なんだと思った。
けど、それは間違いだった。
独りは寂しいと言ったら凄く怒られたのが記憶に新しい。怒られたとき、失礼な話だけど、「何この人!?」とビックリした。
同時に、今まで会ったことないタイプの人だったから、この人のことをもっと知りたいという衝動に駆られてしまう。
その日以降、姫宮君のことを自然と目で追うことが多くなった。一緒にいることが多くなった。
そして、姫宮君を知れば知るほど、一緒にいればいるほど、自分をしっかり持った人なんだと理解してしまう。
何より、優しい人だと知った。損得を抜きにして、困っている人には絶対と言っていいくらい手を差し伸べてくれる。
横の繋がりを大事にする同年代の私たちでも難しいことを、姫宮君はいとも簡単に解決してしまう。裏では苦労しているのかもしれないが、表には全く出さない。
本当に素敵な人だと思う。
ううん、素敵な人だ。
ちょっと視線を送りすぎたかな。
「ん? 何か用か?」
姫宮君が、私の視線に気付いてしまう。
『姫宮君バカ』に私はなっているのだろう。露骨に嫌そうな顔でさえカッコいいと思えてしまう。
「クラスの輪に入れと言うなら、難しい話だぞ」
「姫宮君の場合、難しいんじゃなくて、しないだけでしょ」
「水掛け論は苦手だ」とコーヒーカップを傾ける姫宮君は、またも独りの世界に入ろうとする。
いつもなら、そっとしといてあげるけど、今日はごめんなさい。
「……。何故、俺の隣に座る?」
「だって姫宮君と沢山お喋りしたいんだもん」
悪いのは姫宮君だ。迷走していた私を、あれだけカッコよく劇的に救ったのだから。
「普通の女の子なら、今日の姫宮君はそっとできません」
「何言ってんだか……」
呆れる姫宮君の顔も、姫宮君バカの私には、ご褒美でしかない。
「文化祭が大成功に終わったけど、姫宮君は今日1日どうだった?」
「疲れた」
「……。3文字以上の感想をお願いします」
「どこぞの博愛主義者のせいで無駄に走り回ったから、明日は筋肉痛間違いなしだろうな」
「…………。本当にごめんなさい……」
「ははっ」
「? 姫宮君?」
最初は気のせいだと思った。だって、あの姫宮君だもん。
けど、気のせいなんかじゃなかった。
視線を上げれば、涼しげな瞳を細め、堂々と笑う姫宮君の姿がしっかり私の瞳に映り込んでいる。
呆気に取られる猶予も与えてくれない。
「冗談だ。疲れたけど、それなりに忘れられない1日にはなったさ」
「っ!」
もう……。
本当にズルい。人が言えないような気持ちを、この人はすんなりと言えてしまう。
不意打ちにも程がある。一生の思い出を、今日だけで一体いくつ姫宮君は私に与えてくれるのだろう。
心臓の鼓動が忙しなく響いているのが分かる。内側からドクンドクンと力強くノック音さえ聞こえてくる。
少々の息苦しさはあるけど、不快感は全くに無い。
むしろ、今の私には、このくらいの激しさが凄く心地良い。
どうしようもないくらいの嬉しい気持ちが溢れてしまう。
「ん? 何でお前はそんなに嬉しそうなんだよ」
「貴方が好きだから」ってハッキリ言えたら、どれだけ楽になれるのだろう。
勿論、それだけは絶対にできない。私だけが楽になるだけで、姫宮君にとっては負担になっちゃうだけだもん。
想いを伝えるのは、私が姫宮君の支えになれたと実感できてから。
千里の道なのは分かっている。それでも、そのくらい頑張らないと、姫宮君に釣り合う人にはなれない。
告白はしばしのお預け。
とはいえ、今日くらいは多少目を瞑ってもらおう。
「ごめんね姫宮君」と胸の内で改めて謝罪しつつ、許可を得ずに姫宮君のコーヒーカップを持ち上げる。そして、そのままコーヒーを一口飲んでしまう。
「何でお前は人のコーヒーを飲むんだよ……」
「えへへ♪ 無性に飲んでみたかったから、かな?」
「何じゃそりゃ」
ちょっと嬉しいな。
溜め息づく姫宮君の表情には、少しだけ照れが混じっていたから。
初恋は甘酸っぱいレモンの味ってよく言うけど、私の味はとっても苦いコーヒーの味。
けど、ただただ苦いだけじゃない。苦さの中にも、深いコクや華やかさが口いっぱいに広がるし、ほんのりと甘さだって感じることができる。
なんだか、どこぞのおひとり様みたい。
そう思えてしまうのは、私がおひとり様の姫宮君のことを好きすぎるからなんだろうな。
これからも一歩ずつ歩み寄っていこう。
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【謝辞】
これにて、『お前ら、おひとり様の俺のこと好きすぎだろ。』のSSは一区切りとさせていただきます。
いかがだったでしょうか、華梨視点のSS。
今回のSSは、真のエンディングとまでは言いませんが、シリーズ全体のエンディングを想定として書かせていただきました。
華梨の気持ち、春一の笑顔って、本編でそこまで描写されていなかったので、なかなかレアな話になったと信じたいです。
ココまで足を運んでくれた読者さんへのボーナスになっていれば、僕は大満足です。
最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました!
また、4巻やシリーズ全体を通してのメッセージを今まで以上にいただけ、本当に感謝の気持ちでいっぱいです。
おひとり様万歳っ!!!
p.s.
周りに「おひとり様愛読者がいるよ」という方は、このページを紹介していただければと!
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