SS⑤:おひとり様VS女子大生 ~モラルなき戦い~
休日の夜、映画館へと足を運び、映画を観る。勿論独りで。
ベタではあるが、至高でもある休日の過ごし方ではなかろうか。
自室のベッドで寝転がって観る映画も乙なモノだが、映画を観ることだけに特化した映画館で楽しむのも、それはそれで乙なモノである。
映画館あるある。エンディングの音楽、最後までしっかり聞きがち。
オンデマンドサービスで公開され次第、家でもう1度観ようと誓いつつ、映画館のある商業ビルから外に出る。
時刻は20時半ば。日も完全に落ちてしまっており、店の明かりやイルミネーション、点々と並ぶ街灯が、繁華街の街並みを明るく賑わせ続けている。
さて。本日のメインイベントも終わったし、電車に乗って地元に帰ろう。遠回りに散歩しながら、観終わった映画を振り返ろうではないか。
鑑賞後の清々しい気分を引っ提げ、駅目指して歩き始める。
それから間もなくのことだった。
事件が起こったのは。
「はっるいちくーん♪」
「……ぐぉっ」
聞き覚えのある声がしたと同時、その人物に背後から力強く抱きつかれてしまう。
「
「そうで~すっ!
本人もそう言っているのだから、恋野君歌さんご本人で間違いないのだろう。馴染みの喫茶店で働く看板娘に違いないのだろう。
しかし、俺の知っている恋野さんは、明るさとおっとりさを兼ね備えた常識あるお姉さん。今目の前にいる人は、ハイテンションさとウザさを兼ね備えた非常識なお姉さん。
「……もしかして、酔ってます?」
「そうで~すっ! 君歌お姉さん酔ってま~す♪」
「……」
【悲報】おひとり様、夜の繁華街で酔っ払い女子大生に絡まれる。
なんてこったい……。
よくよく恋野さんを観察してみれば、普段に比べ顔が赤い。大きく澄んでいた瞳も、当社比200%超えにトロロ~ンとしてしまっている。
恋野さんって酔っぱらうとこういう感じになるのか……。
「あ~~~! 今、私のこと面倒くさい女だと思ったでしょ~~~!」
「思ったんじゃなくて思ってるんです」
「その塩対応が食後のデザートにはピッタリ~♪」
今の恋野さんに、俺の攻撃が当たる気が全くしねぇ。
いつもなら、「それじゃ」と会釈して、その場を逃げ去っていた。
けれど、今の恋野さんをその場に置いていくのは危険すぎる。
未だに俺へと寄りかかったままで自分で立つ気ゼロ。酔いと同時に羞恥心のリミッターも外れているのか、「体がポカポカする~」とVネックセーターの胸元をパタつかせ、胸の谷間が見えたり見えなかったり。
「恋野さん。谷間見えますから、パタつかせるの止めましょうか」
「姫宮君も男の子だもんね~。意識しちゃうんだ~」
「俺もですが、通行人も――、「えっちっち~♪」」
謎の造語を繰り出しつつ、俺の頬を指でツンツンしたり、頬をすり寄せてきたり。
やべぇ。近くの交番に今すぐ駆けつけてぇ。
「それじゃあ、春一君も二次会行こっか」
「そんな話はしてなかったと思いますが」
「え~。春一君が覚えてないだけ――、「訂正します。そんな話は絶対してないです」」
「春一君、おもしろ~い!」とケラケラ笑う恋野さんは、すれ違うオッチャンの禿げ頭だけでも大爆笑する可能性大。
「で、何処行こっか? 居酒屋でもバーでもいいよー」
会話のキャッチボールって一体。
「そもそもの話、未成年はそういう店に入れませんから」
「あっ。そっかそっか」
「理解してくれたようで何よりです」
「じゃあ私の家で飲もー♪」
「……あ?」
「大丈夫大丈夫っ。お家の人には、遅くなるって私が伝えてあげるから」
俺の親に電話を掛けるシミュレーション? 恋野さんが自分のスマホに耳を押し当てつつ話し始める。
「ぐへへ~~~! お宅の可愛い坊ちゃんは私がいただいた~! 返してほしくても、私が責任持って養っていくので一生返しませ~~~ん♪」
何その、姫宮家に得しかない脅迫電話。
このままじゃ
とりあえず水を飲ますところから始めようと、周囲にコンビニがあるか見渡す。
信号前にコンビニを発見したタイミング。女子大生っぽい3人組が店から出てくる。
「あっ、いたいた。君歌ー、水買ってきたよー」
「てかあの子、男の子に絡んでない……?」
「何で梅酒2杯でそこまで楽しくなれるのかなぁ」
良かった……、恋野さんと飲んでいた友達のようだ。
恋野さんは近づいてくる3人にブンブン手を振り回す。
「皆~、春一君も二次会参加するって~~~♪」
もうツッコむのも疲れた。
「「「春一君?」」」と3人がキョトンとするのは当たり前。
と思っていた。
「あっ。君歌がよく話す男の子じゃない?」
俺のこと知っとんのかい。
1人思い出してしまえば
「……ども」
「「「きゃ~~~! ほんとに塩対応!」」」
「……」
今の瞬間程、明るく接しなかった自分を悔いることはない。
酔っ払い女子feat.ほろ酔い女子×3
「そうだよ~、この子が春一君でーす! 私の可愛い可愛い後輩君で~す♪」
「ふてくされた目が、確かに猫ソックリ! 飼いたくなる気持ち分かるっ!」
「年下の子と話すのって久々かも。今日はお姉さんたちと楽しくお喋りしようねー?」
「ねぇねぇ春一~! 私、彼氏と別れたばっかりだから慰めて~!」
くそだりぃ……。
「マンション戻って、私の部屋で飲み直そ~~~♪」
「「「さんせーい♪」」」
4人がガッツリ俺を拘束。この時点で俺ができることは腹を括ることくらい。
そこからはあっという間だった。ワゴンタクシーにぶち込まれ、恋野さんの住むマンションに直行。
終電ギリギリまで、酒のつまみに俺をつつき続ける。「学校で好きな女子はいるのか」とか、「この中で付き合うなら誰か」とか、「眠いから一緒に寝よう」とか。
映画後の清々しかった気持ちが、どんどん汚されていくというか、大人の階段を上らせれたというか。
俺の純情さようなら。
酒飲んだり、いかがわしいことはしてないけども。
翌日、素に戻った恋野さんにメチャメチャ平謝りされた。
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-お知らせ①-
次回のSSは、12月9日(月)の22時頃に更新予定です。
-お知らせ②-
『おひとり様』4巻の書影とあらすじが公開されるようになりました!
12/20(金)に発売予定です!!!
https://fantasiabunko.jp/product/201808ohitorisama/321812000011.html
また、近況ノートにて、今後のSSや公開予定の新作などの情報をまとめてみました。※新作は商業ではなく、あくまで趣味の範囲です。
お時間あるときにでも目を通していただければ幸いです(☝ ՞ਊ ՞)☝
【近況ノートへワープ↓↓↓】
https://kakuyomu.jp/users/nagikieco/news/1177354054892646079
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