第3話泣いてはいけない

千隼が小さかった時、私の病気について千隼に説明すると、千隼は泣きわめいて私のもとから離れようとしなかった。千隼はずっと私についてきて、「お姉ちゃんに何かあっても俺がいるから大丈夫。」と言っていたが、わたしの服を握る千隼の手はとても震えていた。その時に私は心に決めた。『千隼の前では泣かないし、千隼の事は泣かせない。』そのことは今でも変わらない。未だに、実は泣き虫な千隼を泣かせるようなことはしたくない。だから私はこの今の状況のことを言わない。死ぬまで言うことはないだろう。

「姉ちゃん、俺だけど。入って良い?」

ノックもなしにそう言うのは落ち込んでいるとき。きっと何かあったんだろう。

「いいよ。何かあった?」

千隼はゆっくり病室に入ってきて、椅子に座った。

「俺さ、看護の専門に行きたいんだけどさ。」

「うん。いいじゃん。」

千隼は弱弱しい笑顔で「ありがとう」と言った。

「お母さんにだめって言われた、、、とか?」

「うん。その通り。」

やっぱり。きっと、お母さんは優しい千隼の性格を考えているんだろう。もし患者さんが亡くなってしまったら千隼が立ち直れることは難しいだろう。その時には多分私はいないから。慰めることはできない。

「わかった。わたしが1回お母さんに相談してみる。それで良い?」

「うん。サンキュ。」

千隼はすこし笑顔になったけどそのあとすぐに真顔に戻った。

「でも、俺、姉ちゃんが体調つらいんだったらいいから。できるだけ迷惑かけたくないからさ。」

何だ、そんなことか。

「大丈夫。私は千隼のお姉ちゃんだから。迷惑なんかじゃないし。」

「そっか」

千隼は安心したような顔に戻って、病室を出た。

私は千隼の笑顔しか見たくない。泣き顔なんて見たくない。だから。

          私は泣いてはいけない。

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涙を許してくれた人 上高地 日時 @ni10

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