第8話 上野凛子
▪️
約一千万円。
これが、中学生である私が一月に稼ぐお金だ。
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「……っ!」
上野凛子は今日も人と話さない。彼女は極端な人見知りで、親類以外とはほとんど話せない。
友達が欲しかったわけではないが、人とのコミュニケーションくらいはとれるようになりたかった。
彼女が生きてきた中で、コミュニケーションをとれた人など、数えるくらいしかいない。というか、たった一人しかいない。
そう、八坂景だ。
彼女は、彼とコミュニケーションをとるために、お金を用意しなければならない。お金がないと、彼が話しかけてくれないと思っているからだ。
お金があれば彼と話せる。お金があれば一人じゃない。お金があれば、コミュニケーションがとれる。お金があれば、お金があれば全て上手くいく。
「……っ、…!」
そこまで考えるが、もともと小心者の凛子には思うことが精一杯で、もう頭がいっぱいになっていた。
少し落ち着くために、凛子は近くのベンチに座り込む。
「私も誰かと話したいのに…」
そう呟いて、周りに誰もいないことを確認した。
ダメだ。いないことではなく、いることを確認しなきゃいけないのに!
もう一度周りを見るが、誰もいない。
「…今日は、なし」
ふと視界の隅にサラリーマンが見えた。
見つけた…今回のターゲットは、こいつ。
遠目から財布がポケットでは無いことを確認した。おそらくカバンの中にある。
凛子はポケットからよく切れるナイフを取りだし、相手に近づく。
そしてすれ違う瞬間、カバンの下の方をナイフで切り、素早く財布を抜き取る。
「…………」
気づかれていない。
その後すぐに中身を抜き取り、財布を川に捨てる。
できるだけ証拠を残さないのも犯罪者のやり方だった。
その後のターゲットはなく、今日は一人だけだったが、収穫は十五万円。おそらく何か目的が必要となるような金額だったが、相手の不幸より、自分の幸せを優先させるのが人間だ。相手の事情なんて知ったこっちゃなかった。
そしてそのまま家に帰ろうとすると、目の前に、八坂景がいた。
凛子は驚くが、喜びも感じている。
「……っ、の…」
だが、それが彼女の限界だった。自分をアピールし、話しかけたかった。だが、自分から言葉を発することは出来ない。また、彼に助けてもらうの?自分では出来ないことを言い訳にするの?駄目、駄目、駄目、駄目!
「……け、い…くん」
声を絞り出した。言えた。呼べた。はずだった。
しかし、彼は声が聞こえていないのか、そのまま通り過ぎていった。
「……え?」
それ以前に、私の存在に気づかなかった。
前までは私を見るなりお金を要求したのに、明らかに視界に入る位置にいた私を、すれ違った私に気が付かなかった?
「どう…して?」
振り返るも、彼は下を見ながら歩いているだけだった。
その後彼女は家に戻る途中も、人に気をつけることなく、寂しげな目をして帰っていった。
家に着くと、彼女は鍵をかけた引き出しを空け、約一億枚の一万円札を確認した。
「…は、はっ…あっ……ふ、っう、ふ…あっ…」
彼女はそのお札に顔を突っ込み、病的な呼吸を楽しんでいた。
「…くん、けい…くん!あ、はっ…あっ、ふぅ」
待っててね、あと三日後、あなたを救ってみせる。
最後から二番目の真実 ゆゆゆ @yuma1225
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