第7話 湯神蒼太
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約九百五十万円。
これが、中学生である俺が一月に稼ぐ金額だ。
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湯神蒼太は自分をラッキー少年だと思い込んでいる。
昔からよく、彼は幸運に出会う。
雑誌の懸賞に応募すれば当たり前のように当たり、道を歩けばお金が落ちていることもある。
だが、これは決して彼がラッキー少年なのではない。
他の人が欲にまみれ、湯神蒼太が無欲なだけなのである。
幸運を見つけようと頑張るより、偶然手に入れた幸運の方が幸運の価値が高い。十枚のハガキで送った懸賞より、一枚で送ったハガキの方が価値があるということだ。
幸運なんてものは所詮、人の見落としであり、誰にでも同じく落ちているものである。
だが、先程説明した通り、湯神蒼太があまりに無欲ということもある。
いや、無知とでも言うべきか、それとも感情が欠落しているのか、彼はどんな経験であろうと幸運と思い込んでしまう。
例えば、お財布を落とした経験を幸運とし、先生に怒られた経験を幸運とし、不幸にあった経験を幸運とし、いじめにあった経験も、幸運としていた。
だから、彼は八坂景からのカツアゲを幸運ととらえている、無欲の変人なのだ。
月に九百五十万円を用意するために行う犯罪的な幸運。盗み、拾い、働き、カツアゲをする。
彼にとって、どれも経験したことのない、無欲の幸運だった。
だが、あらゆることに欲がない彼は、裏を返せば、あらゆることに興味がないのである。
一時的な好奇心に駆られるものの、一度やってしまえば、なんだこんなものかとすぐに興味をなくす。
だが、無限にあるお金を稼ぐ手段に興味を持った彼は、お金の稼ぎ方に欲望を見つけた。
彼はどうしたらお金を短期間でたくさん手に入るのかを考えた。宝くじ、盗み、暴力、賞金、保険…賠償金。
彼はお金をたくさん手に入れるため、六十キロ以上のスピードで走る車の前に笑顔で飛び出した。
その瞬間、少なくとも生きているうちでは聞くことの出来ない音を彼は聞いた。
周りの人達が集まる。何かを言っているが、何を言っているか分からない。
薄れゆく意識の中、彼は思う。
あと四日かぁ…また、退屈な世界に戻るんだね。
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