第6話 浅川瞬
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約二百五十万円。
これが、中学生である私が一月に稼ぐお金だ。
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浅川瞬は、不幸体質であると思い込んでいる。
瞬が歩けば石につまずくとはよく言ったもので、彼女は自分が不幸であることを望み、不幸な私を見てと言わんばかりにアピールをしてくる。演技力が低いおかげで、彼女は自然な不幸体質に見える。
正直周りの人からすれば、かわいそうな人に見えるが、それこそ彼女の望んだ結果である。
だが、実は彼女は不幸体質なのではなく、彼女自身に判断能力がないだけなのだ。
例えば、明らかにやってはいけないことでも、とっさに判断することができないことがある。いつも何も考えずに、行き当たりばったりで生きてきた彼女には、到底培うことのできない能力だった。
その自分には何もできないということに甘えた結果、自分は不幸体質であると思い込んでしまった。
彼女は、自分が不幸であるなら少しの悪は許されると思っている。
そのため、宿題忘れや、授業中の居眠りといった軽いものから、買い物時のお金の払い忘れ、他人の財布を自分の財布と勘違いする等の、犯罪級のミスまで平気でしている。
それは自分がかわいいから。自分がドジであれば許されるし、自分がかわいそうなら許される。そう思って育ってきた。
そして、今では八坂景のターゲットとなっている自分がかわいそうであり、かわいいのである。
怖いから誰かに言わないのではなく、誰かにチクるのがかわいそうだから、言わないのである。
「私はこんなにかわいくて、恵まれているのに、お金を盗るだなんてことしか出来ない八坂君、とってもかわいそう」
自分かわいくて、それ以外はそれ以下の存在なのである。
そんな彼女が、お金を手に入れる方法なんてものは簡単で、優しすぎるおばあちゃんに無理を言って用意してもらっていたのだ。
「おばあちゃんさ、この指輪とかもういらないよね?」
「…ん?…ああ、それはじいさんとの婚約指輪だよ。あの頃はあたしも若くてねぇ、そりゃあじいさんだって」
「でも、おじいちゃん死んだし、もう使わないじゃん。宝石とか着いてるから高く売れるかもよ?」
「だぁめだよ、それはじいさんとの思い出なんだ。売るわけにはいかねぇよぉ」
「え〜?じゃあ、私にちょうだい?大切にするからさ」
「そんなこと言ってもなぁ」
ここまで食い下がって、我慢に耐えてきたが、瞬はもう我慢が限界だった。
イライラしながらおばあちゃんに続ける。
「あのさぁ、おじいちゃん死んだし、そんなのいつまでも持ってると呪われるよ?」
「そんなこと言うもんじゃねぇよ」
「だいたいさぁ、孫が金に困ってるんだから、老い先短い年寄りはさっさと金よこすのが普通じゃない?」
とうとう本音が出始める。
「同学年のやつにさ、金たかられてる私、かわいそうだって思わないの?無神経なの?」
「嫌なら嫌って言えばいい。怖くて言えないなら、ババが言って来てやろうか?」
「そういうんじゃなくてさ、いい?金さえ払えば落ち着くの。私の平穏が帰ってくるの。孫がこんなに不幸なのに、おばあちゃんはそれで幸せなの?」
ここから先は瞬の一方的なわがままだった。
だが、今回ばかりはおばあちゃんも折れてはくれない。
ヒートアップした瞬は、部屋にこもってしまい、部屋にあるものを適当に投げたり、ちぎったり、殴ったりして、かわいそうな瞬をアピールするのであった。
こんなになったのも、全部あいつのせいだ。
覚えていろ、八坂景。あと五日。それでお前は終わる!
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