第5話 橋本快
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約七百三十万円。
これが、中学生である俺が一月で稼ぐお金だ。
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橋本快は、学校には行っていない。自称不良だからだ。
彼はたまに学校まで来るが、授業は全く受ける気がない。来てすることは、校内をふらつくことくらいだ。
そして彼は今日も学校に行かない。
不良というのは、他の人とは違うことをしたがる。
他とは違う俺かっこいいとか思っている、中二的な考えをする痛いヤツらに近い。
だが、彼らがそんじょそこらの中二患者とちがうのは、手を出してくるところだ。
そして橋本快は、そのどちらにもなれなかった。
彼は小学生まで、どこにでもいるガキ大将的な存在だった。弱いものいじめはしても、強い人には逆らわない。
だが、彼がガキ大将でいられたのは小学生まで。
中学生になると、皆勉強などで忙しくなり、いつまでも子供のいじめにつきあってはやれない。
中学生でもガキ大将でいる気だった橋本快は、やがていじめ自体馬鹿らしくなり、周りに合わせた学校生活をしていった。
それでも、もともとガキ大将でいた彼は、そんな周りの雰囲気にとけ込めずに、不登校になった。
そして、社会に合わせようとせずに自分勝手に生きてきた彼は、不良となることを決意した。
形だけ不良にはなったが、タバコだって買うことが出来ないし、酒だって弱いのしか飲めない。万引きなんて、おどおどしながらやった一回だけ。周りの人に絡もうとするも、コミュ力以前に度胸のない彼には不可能だった。
臆病で、周りに溶け込もうとせず、勉強もしなかった彼は、正直社会では使い物にならないゴミだ。
そして今では、あの八坂景にカツアゲされている。
不良を名乗ってしまっているし、親や先生に相談も出来ない。
「…やりなおせるなら、俺は生まれるところからやりなおしたい」
自業自得で、自分の道を全て絶った中学生の、偽らざる本音だ。
そして、彼は今日は親の部屋からお金を盗むため、12時頃、誰もいない家に戻り、盗み始める。
そこにはいつも百万円がおいてある。
一万円抜こうが、百万円抜こうが、そこにはいつも百万円がおいてある。
ある日の寝る時、母がここにお金を置くのを見て、馬鹿な俺でも悟らざるを得なくなった。
母は、俺がお金を必要としていたことを見抜いていたのだ。
いくら息子でも、盗られたくないなら鍵をつけるし、うちならカメラを買ったって痛くないくらいには金持ちだが、それを何も言わずに用意してくれているのだから、親には感謝するしかない。
この問題が解決した時、俺は親に全てを話して、謝り、そこから真面目に生きることを宣言する。
その決意を込め、俺は今日も金を抜き取る。
あと六日、それまではごめん…母さん。
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