第11話 最終章

約束を守れた安堵感がある


失われていた兎沙との記憶が

戻ったことで

本来の澤木厚一として

残りの人生を

沙奈江と送っていける

帰りの車中で 僕は心地よい疲労感と

充実感を感じていた


昼前には 自宅に戻れた


沙奈江が

「あら、おかえり お昼は?」


「そうそう きょうは お誕生日ね

とうとう厚一も節目の65歳!

夜は久しぶりに ルージェファンに予約したわよ」


それは、いいね

僕は答えて 沙奈江には 記憶が戻ったことを 話さずにいようと思った


夜には 夜景の綺麗な 僕たちのお気に入りのレストランで 美味しい食事とワインを飲み 心地よい時間を過ごしていた


「私は先に65歳になったけど 厚一はどう?感想は?」


「節目とは言うけれど 特に変わらないかな…いや、沙奈江に改めて感謝の気持ちが生まれたかもしれない」


「やだぁ〜 珍しいこと言うのね」

それは いつもの控えめな沙奈江の笑い方だった


レストランの窓からは

真夏の星座と半月が見えた

あと一週間もすれば

満月になる

兎は餅をついているだろうか……


*エピローグ*


食事から戻りリビングのソファーで本を読んでいた僕に

沙奈江が

「お風呂 あとはお願いね

明日早いから 先に寝るわよ」と

言いながら リビングのドアノブに手を掛ける


その時、まるで 言い忘れたことを思い出したように 立ち止まり

「厚一、ありがとう」と急に言った


「ん?」

僕は その後ろ姿に視線を移した


沙奈江は振り返ることなく

そのドアを出て行きながら

「モーニングコール」と言った

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月のウサギ 短編小説 EP1〜EP11完結 N.仁奈子 @n-ninako

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