最終話 時と運に委ねれば…

あれから10年経った…

弟とはお互いに近況報告し合える仲になれた。

母はもちろん喜んでくれた。


自分は大学を出て就職して、もう8年経つ。

社会に出ると、歳を取るのも時間が経つのも早くなるって本当だと、しみじみ思う。


ゴールデンウィークの最終日は、ゆっくり過ごす人が多い。家の中でゴロゴロして、翌日の通学や出勤のために休む人がいる中、僕は決まった場所に行く。


お爺ちゃんに会いに行く。けど、今はひんやりとした石の中に、サラサラになって静かに眠っている。


「爺ちゃん、こないだ仕事で大きな失敗してさー、課長に『このクズやろう‼️』って、みんなの前で怒鳴られちゃったわ」

クスクス笑いながら、僕は石に語りかける。何も返してくれないって知っていても、話すとスーッて気持ちが軽くなる。


石を綺麗にして、線香をあげて、手を合わせる。その後、僕は石の前でお爺ちゃんが好きだったタバコを吸って帰る。普段はお別れを言って帰るけど、これは僕なりの独特で特別なルーティンである。


「あの時、僕は泣けなかったよ。いきなり行っちゃうんだからさー。少しは人のことも考えてよー。」


なぜだろう。楽しく笑っていたのに、楽しさより強い感情が湧き上がってきた。


「ずるいよほんと。なんだよ最後の教えは…。『時と運に委ねれば…』って言った後…ゆっくりと目を閉じちゃってさ…。答えを…教えてよ…。」


目の上に水が溜まり、鼻水が止まらない…

タバコの煙は、線香の煙と混じりながら空に登って行く。


泣がないように我慢すればするほど、タバコを噛んでしまう。噛んだタバコを石の前に置いて、僕は何も言わずにその場で立ち上がり、石に向かってこう言った。


「爺ちゃん、お元気ですか?」


僕はもう三十路になった。

いつか、家族を持って幸せに暮らせるのだろうか?

それとも、人生の谷間を彷徨っているのだろうか?


最後の教えの答えは、今の僕にはまだわからない。



-完-

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お爺ちゃん、元気ですか? 渡村 尚太 @Watarimura_Shohta

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