第3話 「なんとなく」を卒業しなさい
もし、該当インタビューのタイトルが
「今の気分はどんな感じですか?」
って、ニコニコしながら聞かれ時
あなたならなんで言いますか?
今の僕なら
「人生でワースト3に入るくらいに気分が悪いです。」
って、睨みつけながら言える自信がある。
理由は弟の圭介が家にいるからだ。正直に話すと、僕と圭介は実の兄弟ではなく訳ありの兄弟である。
もっと分かりやすく言うと、僕は母の子供。圭介は父親の子である。だから、今でも気不味い空気が漂う。
僕が10歳で圭介が9歳の時に、僕たちは家族になった。圭介の父親は、今までに会った男の中で一番穏やかな人だった。うちの母と職場で仲良くなり、何年か付き合った後に結婚した。
もちろん、僕と圭介にしっかり説明してくれたから、良いお父さんと思えた。
けれど、その願いは叶わなかった。
ある日、圭介の父親は仕事帰りにバイクに轢かれて死んでしまった。すぐに病院に行けば助かったらしいが、加害者は怖くなって逃げたらしい。
葬式で母は一晩中泣いていた。まるで、赤ん坊のように。
その時くらいから圭介の性格は荒れ始めた。
唯一、血が繋がっていた家族がいなくなったからだと僕は思っている。
「なにボケっとして見てんだよ」
その声を聞いてはっとした。
重く鈍い声で圭介が僕を見ている。睨んでいるって言った方が正しいかもしれない。
「いや。別に。」
僕は悪いことをしていないが、一応謝った。
「朝から喧嘩しない。2人とも朝ごはんは食べて。」
「飯いらん。俺行くわ」
圭介はそう言って、家を出て行く。
正直、もうこんな空気は嫌だ。
場所は変わり、橋の手すりに手をかけているおじいちゃんにこの話をしてみた。
「それはなぁ、誰もが新たな一歩を踏まないからだ」
「新たな一歩って、どういうこと?」
僕は、おじいちゃんの言葉の意味をまだ理解できない。
「変化を求めることや。今に満足せずに、知らない世界へ行こうとすることだな」
「なら、僕はどうしたら良いの?」
おじいちゃんは、マッチを使ってタバコに火をつける。一呼吸おいて僕の目を見た。
「お前から圭介に歩み寄れ。いいか、歩くことを忘れた人間に近づくためには、動けるやつが歩み寄るんだ」
「どういう気持ちで歩み寄るべきかわからないよ」
なぜか、子供のように甘えていると我ながら思い始めた。
「簡単だ。中途半端な気持ちを捨てて、真剣に向き合うんだ。時間をかけてじっくりと。なんとなくは絶対だめだ。」
「分かった。やってみるよ。じゃ、大学行くね。」
いつもより重いペダルで走り出す。
「山があるからこそ谷がある。山と谷を楽しめよ!」
今日は前回と違って、タバコを吸わずに見送ってくれた。
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