病的な物語

@rakure

幸せと生と死

――例えば、この先今以上の幸せを手に入れることが出来ないとわかってしまったら、人とはそこで止まってしまうのではないか。

「なんだそれ。人の幸せのゴールってか、メーターがマックスになることってあるのかよ」

 電話越しに俺の質問を友はそう笑った。

 もちろん、俺としては真剣に話してるつもりだった。けれど、こんな話はの人からしたら可笑しな話なんだろう。

 いつかのテレビでどっかの医者が言ってな、「人は今日百の幸せを手に入れたら明日は百を超える幸せを求める」とかって。

 けれど、俺はその百を手に入れて満足している……いや、満足をしているよりかはそれ以上がないと思えて仕方ない。

「……幸せってなんだろうな」

 正直、最近はそればかり考えている。

 今日もその答えは見つからない。多分、その答えが見つかる頃には死んでるんじゃないかなって思えたりもする。

 無駄なことを考えてロクに仕事は進まなく、嫌気がさしてあれやこれやを明日に回して帰ることにした。

 明日は明日でやることがあるけど、今日の仕事を今日中に片付けてくれなんて言われてもいない。やるかやらないのそれを決めるのは本人次第ってことだ。

「んー、仕事進まないから帰ります。お疲れ様です」

 仕事を放って早くに帰ったみたいに聞こえるけど、もちろん定時を過ぎて二時間近くは経っている。残業していたわけだ。残ってやるもやらないも本人次第。

 そして、仕事が終わらないのも幸せを見つけられないのも本人の問題なんだろう。

 今は、そんな変な答えで自分を納得させてみる。納得はするけど、答えとしては違うと思っている。多分、明日もその答えを探すんだろうな。

 ロクに仕事もしてないくせに電車の中で疲れて少し眠ってしまった。


 あれは中学生だったかな。

 最高に楽しかった。それはもちろん「幸せ」ってやつだった。

 あの頃から見れば、今は確かにどうしようもない程に苦痛の毎日だ。生きるのも馬鹿馬鹿しい。けれど、死ねないからこうやって生きてるのだと考えるとため息が出る。……さっさと死にたい。毎朝いつも思う「来る電車に飛び込めば死ねる」と。けれど、それは俺には出来ない。

 。俺は俺のやり方を探さないといけない。

 だから、高校のときにロープを買った。もちろん、結び方もネットで調べて完璧に結べるほどに。けれど、結果としては失敗。

 あの日、失敗したことでこんなに苦労することになっている。

「……っんー」

 降りるを駅を一駅行き過ぎてしまうほど疲れていたのだろう。面倒なので乗り換えて戻るなら一駅分歩く。

「久々に寝過ごした。まあ、ここが終点だからいいんだけど」

 帰り道にあるとんかつ屋で飯を食べて、家へと向かう。

 あれは、俺が本当に帰りたいと思っている家なのかは疑わしいけど。


――俺は生きてることに興味はない。生きてることとは死ぬことの過程に過ぎない。

 よく昔した話だ。死ぬことが怖いと思うのは、それをよくわからないからだ。と、これは俺と高校時代の教師、友人とした話だ。

 生きるとは人が自身の使命果たすための与えられた義務なんだよ。教師じいさんは俺に言った。その使命ってなんだ、俺は何をしないといけない。

「最初からそれを教えてくれって話だよ。じーさんよ、この先もグダグダこうやって生きるのは辛いぜ」

 生きることを正しいというのなら、死ぬことは正しくないと言うのか? それは違うのではないか。正義の反対は悪ではない。もちろん、生きることの反対は生きないこと。それが「生きないことイコール死ぬこと」ってことはお前もわかるよな?

 同じく高校時代に友人と夜遅くにファミレスで話し合ったこと。

 正しく生きることを正義とするなら、正しくなく生きないことが悪であるのだろう。では、正しく生きないとは何か。あの日出た答えは「ニート」ってことだった。強ち間違えではないのでは? と思えた。まあ、仮にそれを答えとするならば死ぬことは「正しく生きない」ことではないと証明される。

 正義も悪も、生きるも死ぬもただの裏表。それこそ正しく証明出来る方が正しくないわけなんだ。だってそうだろう? それが違うって判断するのはただの多数決なんだからさ。


 家につくる頃には、今まで何を考えてたかなんて頭からすり抜けた。

「おかえりー」

 家の奥から親戚の声がする。

「ただいま」

 今の俺は正しい生き方をしてるかなんてわかりもしない。ちゃんと使命を果たすために生きているのかもわからない。だから思うことは、それら全てを成し遂げて初めて『幸せ』なのでは、と。

 そんなのは、ただのこじつけで答えとして答えらしくない。結局曖昧なのは変わらないんだ。

 今日は、疲れた……シャワーを浴びてもう寝よう。二十二時過ぎ、明日の仕事のために今日やるべきこと為すのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

病的な物語 @rakure

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ