ダンス大使として。ダンス大天使として異世界にダンスを布教します。

ホタルの海賊

第1話

流れる度にドーパミンが出るようなEDMの音に合わせる。

足の関節を勢いよく伸ばし、同時に手首と腕の筋肉と胸の筋肉を瞬時に力を入れて、全身がその場で弾かれているかのように見せる。


その度に歓声が上がるのが聞こえる。


気持ちが昂っていくのを感じながら、サビに突入すると、幾つかステップを踏み込み足を大きく広げて地面に片手をつく。


そして、遠心力を使ってその手を軸に足を大きく回す。半回転程したところで軸手を入れ替える。


先ほどよりも大きな歓声が上がるのが聞こえた。


そこから*ウィンドミルと言う、皆も知っているだろう地面でくるくる回るパワームーブ《技》を繰り出す。


そしてそのまま片手の肘をお腹にさして、地面を体を水平に、ぴょんぴょんと回りながら少し跳ねる。


頭で回ったり、前宙をしたり幾つかのパワームーブやアクロバットを続けると、最後は片手で体を支えて足を交差して終わりの音に合わせた。


怒涛の技に、どっと喝采拍手が起こる。


「ありがとう。」


頬に流れ落ちる汗を拭いながら、観客に軽く一礼をする。


歓声や拍手が鳴り止むと次々とステージ下から目が合う人に声がかけられる。


「急にがんがん鳴り初めて、モンスターの声かと思って外に出たら、なんか凄えことやってくれたじゃねーか!病みつきになっちまったよ!もう一度みせてくれ!」


「凄いな兄ちゃん!さっきの人形みたいな動きどうやってやったんだよ!関節もうにょうにょしてるし訳わかんねぇや!」


「全く未知だよ!あの音もあの動きも!でも、おばさん感動したよ!お礼にリンゴで良ければ置いてくね!」


聞き取れた一言一言に一礼し、うなずくと両手で抑えるようにして声を沈めた。


「今みせたものは、知らないと思うがーーーと言う。」



ーーーーーーーーー


「うむ、飽きた。」


駄目だ。

今回こそ頑張ろうと思ったが。

模試で点数を取れても本番が大事なのだ。


しかし、飽きた。


寝室に向かい、ベッドに寝転がると物思いにふける。


俺は昔から何をやっても、三日坊主だ。

いや、三日さえ続いていない。

今日の学習は2分で飽きた。集中力が無いわけではない。単純に飽きたのだ。


テレビゲーム、読書、スポーツ。あらゆるものにおいて俺は飽き性だ。


今まで、様々な競技をやっては数々の功績を残してきたが、すぐに飽きてやめた。


ただ例外は一つある。

小学4年生のころに、まだ生きていた母親が好きだったサッカーだけは2年間続いた。


反吐が出るほど弱いチームでサッカーも直ぐに飽きた競技だったが、病弱な母親が何かのスポーツで試合を観に来てくれることは無かったので続けた。


全て個人技でなんとかした。すぐにでも辞めたかったが、母親が頑張れというから頑張った。


知らぬ間にメキメキと実力を伸ばして最後の大会では、全国ベスト8まで進んでいた。


クソ雑魚チームは俺の教育で鍛え上げた。各々、見れる程度には上達したが1番変わった奴は、ヒョロガリの貧弱キャプテン。中々プレイがマシになった。


結果、ベスト4止まりだった。

そして、試合後監督から知らされた。


「お前の母さんが交通事故で病院に緊急搬送された。」


乗せられた車の中は何時間にも感じられた。


その後、一命を取り留めたものの、病弱体質だった母は数ヶ月で別の病で死んでしまった。


余りの怒りと、やるせなさと、悲しさと無力感でその日から更に感情が抜け落ちた。


父は既になくなっていて、祖父祖母共に他界しているので、死と言うものに慣れた。


サッカー部のキャプテン佐藤楓は、その日から俺に粘着するようになった。


楓は俺に同情したのかいつも泣いていたが、超余計なお世話だった。


俺は中学校に進み、サッカーを辞めた。

誰も止めなかった。


俺がサッカーを辞めたと噂が広まると、次々に勧誘が来た。気晴らしにやるがすぐに退部した。どれもすぐに飽きた。


俺は、何もやらなくなった。


俺は、母の為に色々な事をやっていたが自分で楽しさを感じて何かに取り組んだ事は一つもなかった。


俺でも長期的に取り組めることが見つかれば良いのだが。

 



半年後



「誰か欠席の人は居ますか?はい、居ませんね!皆さん元気で良いですね!じゃあ今日の部活動も頑張りましょう!ってちょっとおいいいい!!?出雲君!人の話聞いてる時にヘッドスピンしないでって!?周りもなんで止めないのよ!!」


「...はぁ、はぁ。じゅるり。先生はこの腹筋を見て何も思わないんですか?」


前髪が目元まで伸びきった少女が腕で口元を拭う。


名倉ねくらさん...よだれぼたぼた垂れてますよ!どの腹筋ですか...うほっ。oh my god.ってそうじゃなくて誰か回転を止めてください。」


「おい洋介、先生がうほっとか言ってお前の腹を見てたぞ。」


洋介は、両手で地面を押さえてブレーキをかけると今度は片手で倒立し、片方の手で足を掴みながら話す。


「うむ、楓。俺はしかと聞いた。英語ゴリラは生徒にさえ劣情を抱くのか。それにダンス部が踊って何が悪い。」


「ゴリラじゃないです!このパーフェクトな美貌を見てから言いなさい!!てか今度は何?!ヘッドスピンの後は*ジョーダンですか?!冗談はやめてください…ブフォッ。」


場の空気が静まり返る。


「...寒いな。」


「はっ?!もういいです!部活始めますよ。ほら部長、挨拶!」


部長と呼ばれる少女は、そっぽを向いて黒色のハーフパンツのポケットに手を突っ込むと小さく舌打ちをして気怠そうに言った。


「ちっ、きょつけれーい。」


「「「お願いします!」」」


「ねぇ!舌打ちしたよね?!部長まじ態度悪っ!はぁ。なんで元プロダンサーの高校教師のエリートの私がこんなとこで...。でもこの子達の才能は...。」


壁に語りかけるように、ぼやいていると頭上から響くような声が聞こえた。


「おい、何を一人でぶつくさ言っている。さっさと*ポップのフリを入れろ。」


「先生だよ!?ねぇ、私先生!もう何言っても無駄か...はい、じゃあ今日は何を教えようかな。って言ってもそろそろ私より上手いよね?てか前からもう何も教えることないよね?」


見上げながら大袈裟な手振りで話すと、顔をしかめる。


「はぁ、しょうがない、では別のジャンルで頼む。」


「何そのじと目!ちょーいらつくんですけど!まぁ、私の主ジャンルは*ジャズだしぃ。男の子にこれができるかなぁっ...?!!」


さながらライブ会場の中にいるように思わせる爆音がダンスホール内に反響して部員の耳を貫いた。

 

ー紅にそまったー!!!!

ーこのおれをーーー!!


「うおぉっ!?鴉間からすまさん!x Japaneseをスピーカーで大音量で流さないでください!!」


「す、すまない先生。ウチは少し機械に疎くてな。」


ポニーテールをシュシュで止めた凛とした彼女は苦笑しながら目をそらして人差し指で側頭部をかいた。


「機械に疎いどころじゃないでしょ?!それBluetoothで繋いで音源流すだけですよ!?」


ー邪魔する奴はー!

ーもうッ。


「うるさい、練習の邪魔だ。」


洋介は片耳を塞ぎながら勢い良くスピーカーの電源を落とすと、鴉間は頬をに染めた。何も言わずに去っていく彼の背中を名残惜しそうに見つめる。


(鴉間さん絶対洋介に惚れてるわね。性格があんなのでよくモテるわ...。)


「洋介さん!こんにちは!」


少しちゃらついた、がたいの良い

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ダンス大使として。ダンス大天使として異世界にダンスを布教します。 ホタルの海賊 @ziyuuno_daihugou

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