第零話-幻肢痛


 もう何度も、失ったそれに痛みを感じている。


 それがもう二度と戻らないことを知っていても、痛みは少しも和らぐことはない。


 人も同じだ。


 誰かを失えば、いつまでも心に痛みは残り続ける。


 失った右手のその先に、あらゆる感覚が集約していく。


 そこにはないはずの痛みを生み出す、それが


 幻肢痛。


 まるですでにないはずのそれが、あるようにすら感じられる。


 いや、あると思えるからこそ痛みを感じるのだ。


 いつまでもそこにあるかのように、失ったその痛みを感じ続ける。


 痛みは増し続ける。


 失えば失うほど、もうないはずだというのに。


 しかし、その痛みに名前はない。


 まるで幻肢痛のようなそれは、いつまでも俺の心を蝕んでいく。 


 いつしか俺は、それが生者の定めだと知った。


                    題:幻肢痛   

                    著:ギルロック・ホームズ

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ギルド調査員のお仕事 木兎太郎 @mimizuku_tarou

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