第10話 何を贈ろう


「はぁ…」


私は、頬杖をつきながら悩んでいた。

四日後はジルリファの誕生日なのだ。

といっても、誕生日当日にプレゼントを持っていっても彼はパーティがあるし、私もそれに同行しなければならないから渡す暇がない。

そうとなれば、明後日に恒例のお茶会があるためその日に渡そうと考えているのだけど…。


「ジルリファ様って何が好きなのかしら」


そう、問題はプレゼントの中身。

何でも手に入ってしまう彼に渡すものが思い付かないのだ。

前世ではシングルマザーの母と、私、妹という家族構成だったため、男の子へのプレゼントを買ったことがない。


万年筆なんて子供─精神年齢は大人だが─である彼にはまだ早いだろう。

ハンカチは、女の子の方が嬉しい。


……と、昨夜からうんうんと悩んでいたのだ。

いっそのこと、嫌なものを贈って、性格の不一致からの婚約破棄…にしてしまおうと思ったけど、それでは可哀想だという結論に至った。


「ねぇ、ローガン」


「うん?どうしたの、セレス姉さん」


何も思い付かなかったので、義弟にきいてみる。


「ジルリファ様のお誕生日がもう少しでしょう?プレゼントを贈りたいのだけど…」


「プレゼント…」


「えぇ。何がお好きなのか分かる?」


ローガンは腕を組み、考える仕草をした。

すると、ポンッと手を叩く。

うん、可愛い。


「セレス姉さんはアクセサリー作りが得意だから、何か作ったら?」


「な、なるほど…!」


我が弟ながら冴えてるわ!

となれば、明後日までに完成させなければ!


「ありがとう、ローガン。今度お菓子をあげるから!」


「え?あ、ありがとう」


お母様に怒られない程度に速く歩く。

これもギリギリなんだけどね。


「ふぅ…」


何とか部屋にたどり着き、椅子に腰かける。

お父様のオーダーメイド品。

座っているとお父様に守られているようで落ち着く。


ジルリファに似合うアクセサリーとは何だろう。

スチルでピアスとブレスレットをしているのを見たことがある。

とてもとても似合っていた。


「でも…」


──二つ贈るのもなぁ…。


愛が重すぎるよね。

セレスティーナ悪役令嬢じゃあるまいし…。


「……あっ…」


そうだ。これだ。

愛が重すぎるとさすがに面倒臭くなって婚約破棄してくれるでしょ。

早速お父様に頼もう。


────


「お父様、いらっしゃいますか?」


「セレスティーナ?」


「はい。入ってもよろしいでしょうか」


「いいよ」


ありがとうございます、と言って、書斎に入る。

お父様は優雅に椅子に腰かけていた。

目が合えば、柔らかく微笑んでくれた。


はぁ…格好いい。

やっぱり、お父様が一番のタイプだ。


「トルマリンクォーツとブラックオニキスはありませんか?」


「宝石かい?」


「はい。あの黒いものですわ。確か、クリエラ領でも採れましたよね」


「あぁ。待ってね。そこの棚に小さめのものが入れてあるんだ。売りものにはならないからね」


そう言って、お父様はシンプルな棚を指差す。

その棚を開けると、アクセサリーケースに小さな石が入っていた。


「ありがとうございます」


「いや。愛娘の願い事だからね。それに、あれジルリファ王子にあげるのだろう?」


「ジル……殿下をあれとお呼びするのはいけませんよ、お父様」


「セレスティーナ…」


何故なんだ、というように不満気に口を尖らせるお父様。

反省してないな。


「私は、お父様が不敬罪にならないようにと思っているんですからね!」


「ふふ。分かっているよ。アクセサリー作り、頑張ってね」


「はい!」


私はケースを抱えて自室に戻った。




「あれ?お父様何でアクセサリー作るって分かったんだろう?」


少しだけ、お父様が怖くなった。










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