第9話 僕のキモチ─2 (ローガンside)


何故か。ということは聞かなくても分かっていた。

僕の目の前で起きた出来事だったから。


その日は、両親が屋敷にいた。

いつもはこんなことないのに。凄く、珍しいことだった。

僕は嫌な予感がして、ずっと自室に籠っていた。


いつの間にか眠っていた僕は大きな物音に気付き、目が覚めた。

その後、女性の悲鳴が聞こえた。

僕には、それが母親のものか、侍女のものかは分からなかった。


恐る恐る下に下りると、血を流して倒れている父と母がいた。

たぶん、強盗が入ったのだろう。荒らされた屋敷を見て思った。

父の方はもう息をしていない。

母はうっすらと目を開けているが、そこまで持たないだろう。

少しだけ近づくと、母が何か喋っているのに気付いた。


「ど、どうしました、母上」


「……ごめ、んなさい…、ローガン…。わたし、は、ははおや、らしい、こと、できなかった…」


──何を今さら。


そう思ってしまった僕は薄情な奴なのかもしれない。

短い命がそこにあるのに動こうとしない僕は残虐な奴なのかもしれない。


そんなことを思っている間にも、彼女はか細い声で今までの思い出や胸の内を語った。

思い出は僕が赤ん坊の頃のものだった。



「母上…、もう喋らないでください」



──そうじゃないと、



「貴女を愛してしまう…」


嫌っていた貴女を。母親として。


「いみが、わからない、わ…」


「いいんです……」


彼女は薄く微笑んで、息を引き取った。

僕は放心状態のまま、偶然訪れた今の父親であるクリエラ公に見つけられた。

クリエラ公によく頑張ったな、と言われ、震えが止まらなくなってしまったのだ。









あの日のことから、母は本当に僕を嫌っていたのか分からなくなった。

彼女も、一人の母親だったのだと、妻だったのだと、思い知らされた。


そして、クリエラ公に連れられて、クリエラ公爵家に来た。

今の母さんは温かくて、よく笑顔が似合う。

クリエラ公─父さんは、セレスティーナだけじゃなく、僕にも愛をくれる。


セレスティーナは母さんに似て温かくて、僕が欲しい言葉をくれた。

勉強すれば偉いと褒めてくれるし、剣術の稽古をすれば格好いいと褒めてくれる。

本当は彼女の方が偉くて、格好いいのを僕は知っている。


王太子妃になる為のレッスンをよく頑張っていて、勉強やダンスの練習も夜遅くまでしている。馬小屋にいるネオという馬は彼女の愛馬で、彼女はネオに乗ってよく草原を走っている。馬術をする令嬢は多くはない。

何故なら、女性は横乗りで、男性の後ろに乗る姿が好ましく思われるからだ。


しかし、彼女はそんなこと気にしない。

自分のしたいことを許容範囲の中でして、人生を楽しもうとしている。

そんな生き様が格好良かった。


気づけば自然と目で追っていて。


気づけば好きになっていた。



王太子の婚約者を。


義理の姉を。


「あ、スコーン凄い食べてる…」


ジルリファがぼそりと呟いた。


それに反応し、目を向けると、セレスティーナが洗練された仕草で、スコーンを食べていた。周りにはあまり食べていないように見せているけど、ずっと見ていたらたくさん食べてるのバレてるよ、と言いたい。


「──本当、セレス姉さんは…」


僕は彼女のもとへ向かった。




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