第8話 僕のキモチ─1 (ローガンside)
「で、どうしたんだい?ローガン」
意地の悪い顔をするこの方はこの国の第一王子であり、僕の最愛の人の婚約者でもあるジルリファだ。僕の義理の姉であるセレスティーナを愛しており、婚約破棄は絶対にしないと言っている。
「別に何もありませんよ?ただ、世間話をしてみたくて。どうでしょう?」
「うん。いいね。段々本性が見えてきたじゃないか。セレスも始めは猫被ってたけど、剥がれたらもう、お馬鹿で可愛いんだもん。そんなところはさすが、姉弟だ」
目を細め、明らかに挑発的な態度をとるジルリファ。
大体、姉弟をあそこまで強調しなくてもいいじゃないか。
セレスティーナがいなくなると、周りをからかうのはやめてほしいね。
「セレス姉さん、猫被ってたんですね」
「そうだよ。婚約を破棄したくて僕に嫌われようとしてたみたい。僕が嫌いなタイプの女性を演じてね。そんなことされたら逆に気になっちゃうって気付かないのかな?なんて思ったけど、観察するのが楽しくて言わなかったよ」
恍惚とした表情で語る彼は、どことなく危ない。
さっきも、セレスティーナが婚約を破棄することを匂わせたとき、目が笑っていなかった。
セレスティーナと一緒だったら、嘘偽りのない笑顔をするというのに。
「へぇ。あまりいじめないでくださいよ?」
少し牽制できれば、と言う意味を込めていった言葉は、
「それは無理な要求だね」
と、バッサリ切り捨てられてしまった。
◇
あの日、セレスティーナが僕を連れ出してくれなかったら、と思うとこんな生活は送れていないだろう。それほどまでに、彼女は大切で、特別な存在なのだ。
僕は歴とした正妻の息子だった。けれど、僕の父は碌でもないやつで、そこかしこに女を作り、片手……いや、両手じゃ収まりきらない位だったと思う。
屋敷に連れ込むこともあって、その時は部屋に籠るようにしていた。
まだ、なにも知らない頃、偶然父の愛人に会ったことがある。香水がキツくて、甘ったるい声が耳障りだった。
母はそんなクズを愛していると言った。
『いつか、旦那様が振り向いてくれる。悪いのは何の役にも立たない私だ』と。
それが母の口癖だった。
母は、父に似ていない僕を嫌っていた。僕は母に似ていて父のミルクティー色の髪も、晴天を写したような水色の瞳も、持っていなかった。
この容姿で生まれてきた自分をどれほど憎んだことだろう。
それでも一応は、僕の親だ。
僕は近付いて、仲良くしようとは試みた。
しかし、母は父以外の誰にも興味はなく、息子の僕も例外ではなかった。
父の方はというと、僕と会えば、じろじろと舐め回すように見て、鼻で笑った。
そんな日々が、九年ほど続いた。
──ある日、父と母が死んだ。
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