最終話 ずっと一緒に
あれから。
約一年の歳月が経った。
日高主演の【風の中の乙女たち】は、海外の映画祭で『作品賞』と『監督賞』を受賞した。
日高は、海外での初の主演女優賞は逃したけれど。
村沢監督は受賞の席で、こう挨拶した。
「僕の娘たち、日高、はる、冬、心、姫花、環、藍子に、感謝をささげたい」
この言葉で。
普段人前で泣かない日高が。
声を上げて泣いた。
そして、涙も涸れるころ。
ぽつりと言った。
「良かった。きっと環と藍子も喜んでる」
今度は、この言葉で。
はると冬が泣いた。
映画祭は、涙々で終わったけれど。
-奥プロ事務所-
「ただいまー」
はるが大学から戻って来た。
「……何か…若いコのニオイがする」
日高がはるを見た。
「あ、わかる? 今日から教育実習で高校行ってるのー」
はるの言葉に、
「………」
日高が、ふいっと横を向いて、
「ハァ……」
深いため息をついた。
はるは、日高の横に座って、
「あれっ、次のドラマ、もう決まったの?」
日高が手にしている台本を手に取った。
「うん。【植え田ガール】っていって、都会の女の子二人が、田舎でお米作る話なんだって」
太一が言った。
「過疎化が進んでいる田舎にIターンして、農業を通して村興ししていくプロジェクトも兼ねてるんだよ」
「……田舎? 地方ロケなの?」
「うん。今回はね、ほとんど向こうでロケ。相手はね、また内田レナちゃんだって」
「………」
はるが、日高の顔を覗き込んだ。
「ねえ、日高」
「ん?」
「今度浮気心おこしたら……」
「そんなの、大丈夫に決まってるじゃん。私にはもう、はるだけだよ」
そう言う日高の睫毛は。
羽ばたいていけるくらい、バサバサ音を立てて瞬いていた。
この時。
この場に居る全員が思った。
-こいつ、また絶対にする-
「社長ぉー! 日高が浮気するぅー」
「何それー! 私、まだ何もしてないじゃーん。はるこそ、女子校に一日入り浸ってんじゃーん」
「教育実習なんだからしょうがないじゃん! それに一応共学だもん!」
「あー、また始まった」
社長はため息をついて、デスクに戻って行った。
「仕事、仕事」
太一もデスクに戻って行き、関君だけが、
「はい、二人とも。コーヒー入りましたよ」
二人の前にコーヒーを置いた。
『関君、ありがとう』
つかの間の。
-コーヒーブレイク-
でも飲んでるうちに。
ケンカしている事も忘れて。
気づいたら。
今度はイチャイチャし始めた。
「帰ろっか」
二人は手を繋いで立ち上がった。
その二人へ。
「あ、言うの忘れてたけど、お前たちの部屋以外、全部入居者代わったから」
社長がデスクから目を上げた。
「え? そうなの?」
日高が言った。
「おお。祥子さんが全部買い取って、警備会社、兼、警備会社の寮にしたんだよ。んで、お前たちの部屋にブザーつけてくれるって。それ押したら、三秒で駆けつけるってさ」
社長が笑った。
「えー! 超スゴイじゃん」
「出たよ……」
「ま、安心、安全で良かったじゃん。全員警察OGらしいからさ」
「ちなみに、その会社の社長、祥子さんですよ。はるちゃんの事心配で仕方ないんだって」
太一が続けた。
「ハァ……」
もう一度。
日高は深いため息をついた。
「じゃ、はるさん、日高さん、行きましょう」
関君が立ち上がった。
「日高、行こ」
「うん」
二人は。
ゆっくり戸口へ歩み出した。
「今日、夕飯何?」
「カレー」
「はるのカレー、美味しいよねー」
「そう?」
「うん」
二人はドアの前で立ち止まると、
『お疲れさまでした』
ぺこりと頭を下げた。
『お疲れ様ー』
社長と太一も、いつも通りの挨拶をした。
頭を上げたはるが、ちょっと微笑って日高を見つめた。
(きっと)
明日も、今日と同じように私たちはまた明るくドアをくぐって来るに違いない。
平凡で。
きっと三日も経てば、三日前に何をしてたかなんて忘れちゃうような一日。
でも、その一日は。
とても大切で幸せな一日なんだ。
だって。
その一日は、あなたと過ごした一日だから。
あなたを思って過ごした一日だから。
いつかきっと、私は振り返るに違いない。
あなたと過ごした一日一日が。
かけがえのない毎日で。
宝石のような日々のくり返しだったということを。
完
セーラー服とエプロン3 a.kinoshita @kinoshita2020
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