Red spiral

幾瀬紗奈

Red spiral

「起きて下さい」


 優しい声が、陽光とともに降り注ぐ。


「起きて下さい」


 ピクリ、と瞼を痙攣させた男は、ゆっくりと目を開けた。カーテンから漏れる光の中に、細い輪郭が見える。何度か瞬きすると、起きた彼を見て顔を綻ばせる彼女の姿が認識できた。


「……おはよう、亜梨紗」


 掠れた声音の挨拶に、彼女は「おはようございます、真人さん」と微笑みを返す。

 緩慢な動作で上半身を起こした彼は、欠伸を噛み殺しながら頭を掻いた。元々無造作ヘアの黒髪が、寝癖でピンピンと跳ねている。

 ベッド脇にしゃがんでいる亜梨紗は、紺のトレンチコートに身を包んでいた。雪のように白いマフラーが、ふわりと首元に巻かれている。

 肩に掛けられた大きめの鞄に目をやった真人は、立ち上がった彼女を見上げた。


「授業に行ってきますね。朝食は作っているので、食べておいて下さい」


 頷く彼を確認した彼女は、「行ってきます」と玄関へと向かう。ベッドの上で「ああ」と素っ気ない返事をした彼は、大きな欠伸を一つしてから、伸びをした。

 マンションを出て、大学へ行こうとする亜梨紗は、ふと自分の名前を呼ばれた気がして、足を止める。振り返って、マンションの壁から突き出している三階のベランダを仰ぎ見ると、真人が欄干に腕を乗せて、手を振っていた。


「いってらっしゃい」


 スウェット姿の彼に、亜梨紗は小さく手を振り返す。

 どんよりとした冬空が、二人を見下ろしていた。


◇◆◇


 肌を刺すような冷たい空気に満たされた外の世界から、一歩教室内に入ると、生暖かい熱気が迎えてくれる。

 暖房のきいた教室で、友人の姿を見つけた亜梨紗は、席の間を縫って窓際を目指した。


「おはよう、沙耶」


 背後から声をかけると、彼女は首だけで亜梨紗を振り向く。沙耶は、「おはよ!」と弾けるような笑顔を見せた。

 しかし、亜梨紗が隣に腰を下ろすと、彼女は眉根を寄せて難しそうな表情になる。「ねぇ、亜梨紗、知ってる……?」と声を潜める彼女に、亜梨紗は首を傾げた。


「またハナミズキ公園で、犬が死んでたんだって」


 目を瞠る彼女に、沙耶は「やっぱり何かに食い殺されてたらしいよ。熊か狼じゃないか、って言ってる子もいるし……怖いよね」と続ける。

 ここ数ヶ月、頻繁に動物の死体が発見されていた。発見場所は全て、大学近くの公園付近である。何らかの肉食動物に食い殺された形跡があるらしいが、警察は詳細を公表していなかった。

 市街地に位置する大学付近に、凶暴な野生動物が潜んでいる可能性は低い。そして、何かを捕食する動物の姿を目撃した者もいないため、この件は既に都市伝説のようになっていた。人が襲われていないことも、理由の一つかもしれない。


「人間には被害が出てないから、大丈夫だよ」

「でもさぁ、確かに殺された人はいないけど、行方不明者が大量に出た事件あったじゃん……」

「それはもう半年も前のことでしょう?」


 「えー、でも、あの行方不明者も、あのとき一気に捜索がされただけで、何年か前から慢性的にあったっていうし……」と、沙耶は不安そうに俯く。

 確かに、数年前から、ハナミズキ公園近くで行方不明になった者がいる、というのは言われていた。丁度亜梨紗たちが大学に入学した頃の話だ。警察や地域の人々が見回りを行い、住民にも警戒を呼びかけていたにも関わらず、行方不明者は増え続けた。半年前に、大捜索が行われたが、結局行方不明になった人々は戻ってきていない。そして、ここ数ヶ月、行方不明事件は収まっていた。その代わりに、動物の死体が見られるようになったのだ。

 動物殺害事件と行方不明事件を関連付けようとする沙耶に、亜梨紗は、時期が違う、と言い聞かせる。


「動物の事件は、私たちには関係ないよ」

「でも、事件が起こるのはいつも公園の近くでしょ? 警察も、その付近を重点的に見回ってるんだよ? それなのに、事件は続いて、目撃者もいないっておかしくない?」

「大丈夫だよ」


 吐露する沙耶は、ぎゅっと机上に置いている手を握り締めた。その拳を包み込むように手を添えた亜梨紗は、「大丈夫」と繰り返す。

 ここ最近の事件に動揺を見せているのは、沙耶だけではなかった。教室を見渡しても、あちらこちらから不安とそれを宥める声が聞こえてくる。

 よくわからない事件が身近で起こっているのだ。恐怖を感じない人間などいないだろう。

 暫くの間、沙耶はうじうじと不安要素を羅列していたが、落ち着いたのか、「そういえばさぁ」と話題を変えた。


「よくわかんないと言えば、亜梨紗まだあの人と付き合ってるの?」

「えっ……うん」


 頷く亜梨紗に、彼女は「ふーん」とジト目を向ける。別れた方がいいって言ってるのに、と唇を尖らせた彼女は、溜息をついてから、亜梨紗に言った。


「二十七歳でニートとか、絶対やめた方がいいって」

「二十八歳だよ……」

「どっちでもいいの! ニートで、しかも家もなくて亜梨紗の家に転がり込んでるんでしょ? ロクな奴じゃないって」


 バイトしてる大学生の収入に頼る社会人とかクズだよ、と言い切る沙耶に、彼女は苦笑する。

 ニートでクズ、と散々な言われようの人物は、半年ほど前から付き合っている亜梨紗の恋人だった。黒髪の癖っ毛で、細身な優男の真人は、いつも穏やかな雰囲気を纏っている。

 奇特な出会いがきっかけで、交際を始めた亜梨紗と得体の知れない真人の関係を、彼女の友人たちは許していなかった。


「優しい人だよ、あの人は……」


 柔らかな笑みを刻んで述べる亜梨紗に、沙耶は不満気な顔をする。教授が入室してきたことで、その会話は終わりを告げた。


◇◆◇


 約半年前の深夜、ハナミズキ公園の北側にある裏通りで、亜梨紗は、ある男に振り回されたナイフによる傷を負っていた。手の甲から滴り落ちる血を無造作に拭って、帰路を急ぐ。公園を突っ切った方が家に近かったため、彼女は、少ない街灯に照らされて薄暗いハナミズキ公園に入った。滑り台の脇を通り、ピエロの姿を模したブランコに見向きもせず、早足で進む。

 街灯の側にあるベンチに腰掛けていた人影を見つけて、彼女は歩を緩めた。右手で、左手の甲を庇いながら、不自然に見えぬよう前を通る。

 横目で人影を確認すると、そこにいたのは、最近昼でも夜でもベンチに居座っている若い男だった。ハナミズキ公園で、彼は一日中眼に見えないものを見つめるように、辺りを見渡している。不審者として通報されなかったのは、行方不明事件のせいで、元々公園に人が寄り付かなかったおかげだろう。買い物帰りなどに、たまに公園を突っ切る亜梨紗は、いつも怪しい彼と目を合わせないように通っていた。

 その夜も、彼はベンチに深く腰掛けて、ぼうっと宙を見つめていた。死んでいるのではないか、と思う程身動きをしない彼は、目の前を亜梨紗が横切った瞬間、鼻をひくつかせる。


「血」

「え?」


 発せられた声が意外で、足を止めてしまった彼女は、思わず彼を振り返った。白いYシャツを着ていた彼は、腰を上げて、亜梨紗に近づいてくる。彼女の左手首を掴んだ彼は、一見眠たげに見える目で傷を見て、「消毒した方がいい」と呟くように言った。そして、傷口に滲んでいる血を、ぺろりと舐めとる。

 息を呑んだ亜梨紗は手を引こうとしたが、男は離さなかった。ざらざらとした舌が彼女の肌をなぞり、血の跡を綺麗に拭い去る。立ち竦んだ彼女は、傷を凝視していた。

 月のない夜、街灯に照らされた赤い舌が、亜梨紗の傷口に入り込む。チリっとした痛みに、声にならない声をあげた彼女の反応を見て、彼は「……すまない。空腹だったから」と言い訳しながら、手を離した。


「お腹……空いてるんですか?」


 こくり、と頷いた彼を見上げた亜梨紗は、目を見開く。彼の頭上に一瞬見えたものを理解した彼女は、震えそうになる足に力を込めた。数秒悩み、意を決した彼女は「私の家、今日の夕飯がまだ残ってるんです」と伝える。

 よかったら、食べに来ませんか、と誘われた彼は、口角を上げて笑った。


「喜んで」


 赤い舌で自分の唇を舐めた彼は、目を細める。

 その日、彼を招いた亜梨紗は、以来彼と同棲するようになった。


◇◆◇


 授業を終えた亜梨紗と沙耶は、構内にある食堂に来ていた。昼時で、混み合った食堂内は、暑いくらいである。ほとんど満席状態の中から、二人分の空席を見つけ、滑り込む。

 向かい合った二人は、それぞれ料理の載ったトレーを前に、「いただきます」と手を合わせた。入れ替わり立ち替わりの激しい中、比較的ゆっくりとお喋りしながら食事をとる。

 肉の内側から、肉汁とともにとろりとしたチーズが流れ出るハンバーグを口に運んでいた亜梨紗は、行き交う学生たちの間に、今朝家で別れてきたばかりの人を見つけて、ぎょっとした。


「亜梨紗、忘れ物」


 赤色のタンブラーを掲げながら近づいてくる真人に、駆け寄る。「大事なものだろう」と手渡されて、彼女は「ありがとうございます……」と申し訳なさそうに礼を言った。

 突然席を立った亜梨紗を目で追った沙耶は、何度か見かけたことのある彼女の恋人に、目を瞬かせる。真人は、そんな沙耶に目を留めて、テーブルの側にやって来た。


「こんにちは、亜梨紗がいつも世話になってるね」

「あ……い、いえ……」


 声をかけられた彼女は、視線を斜め下に向ける。普段散々貶している相手に、親しげに声をかけられると、気まずい。

 それと同時に、腑に落ちないことがあった。亜梨紗が、今日彼と連絡していた様子はない。彼は、どうやって彼女を見つけたのだろうか。


「よく亜梨紗の居場所がわかりましたね」


 驚きを伝える沙耶に、真人は「ああ、匂いが──」と言いかける。しかし、「真人さん」と亜梨紗に遮られて、彼は口を噤んだ。

 「折角ここまで来たのなら、帰りに夕飯の材料買っておいて下さい。今日は焼肉の予定ですから、好きなお肉買っていいですよ」と頼む彼女に、彼は「今日は肉か!」と瞳を輝かせる。


「じゃあ、俺は先に帰る」


 ぽんぽん、と亜梨紗の頭を軽く叩くように撫でた真人は、踵を返して食堂の出入口へ向かう。その後ろ姿を見た彼女は、「寝癖……直してないんだ」とくすりと笑った。

 同棲している二人の夫婦のような会話を聞かされた沙耶は、肩を竦めている。改めて席につき、残っていた料理を食べ終えた亜梨紗は、真人が持ってきてくれたタンブラーに口をつけた。

 プラスチックのコップに入った食堂のお茶を啜りながら、沙耶は「亜梨紗って、いつもそのタンブラー持ってるよね」と言う。彼女は、毎日そのタンブラーで水分を取っていた。


「何が入ってるの? お茶?」

「何って……真人さんのスープ、かな」


 少し考えてから答えた彼女に、沙耶は「ふーん……」と相槌を打つ。「美味しいの?」と尋ねると、亜梨紗は「最初はあんまり好きじゃなかったけど……でも、今は美味しく感じるよ」と笑みを湛えて答えた。


「一口頂戴」

「駄目」

「どんな味か気になるじゃん」

「だーめ」

「じゃあ、匂いだけでも……」

「駄目」


 どんなスープなのか、好奇心に駆られた沙耶に、亜梨紗は笑顔のまま、拒否を繰り返す。むすっと唇をヘの字にした沙耶の目の前で、飲み干した彼女は、満足そうに息をついた。


「亜梨紗のケチ」

「ケチで結構」


 だいぶ人がまばらになった食堂で、小さな笑い声が響いた。


◇◆◇


 翌日、空きコマに暇を持て余していた亜梨紗は、沙耶ともう一人の友人である佳菜に呼び出されて、カジュアルな印象のカフェに入った。最奥の隅の席にいた二人の向かいに座る。


「どうしたの、突然」


 電話で、いいから今すぐカフェに来て! と興奮気味の口調で捲し立てられてやって来た亜梨紗は、にやにやとしている二人に眉を顰めた。沙耶の手には、新聞が握られている。彼女が、余程のことがない限り読まない新聞を持っているなんて、珍しい。

 「今日の新聞見た?」と尋ねられた亜梨紗は、首を横に振った。


「行方不明事件の犯人が、わかったかもしれないんだって!」

「ほら、亜梨紗、ここ読んでみなさいよ」


 沙耶の言葉に目を瞬かせた彼女は、佳菜に促されて、新聞の記事に目を通す。

 見出しには、「行方不明事件、犯人は吸血鬼か」とあった。詳細を読む前に、視線を上げた彼女は、「……これ、偽新聞?」と訝しげな顔をする。沙耶が「違うよ!」ともどかしそうに体を揺すった。


「地方紙だけど、ちゃんとした新聞よ。読んでみたらわかるわ」


 冷静な声音で、佳菜に再度促された亜梨紗は、暫しの間黙読する。

 その記事は、実際に吸血鬼は存在するのだ、という話から始まっていた。吸血鬼だけではない、狼男や天狗など、伝承上の生物は、希少だが基本的に全て存在している。人々の間で、吸血鬼は人の血を吸う、十字架が苦手、など様々なことが言われているが、その言い伝えには正解もあり不正解もあるという。

 そして、現在の吸血鬼に関して言うと、言い伝えられているものは、ほとんどが当てはまらなかった。人間と交わることで、吸血鬼としての特徴は昔に比べて薄れていき、今では人間とそう変わらない。ニンニクや十字架など、以前は苦手としていたものへの耐性ができる一方、人の血液への渇望も減り、現在はひっそりと人間と共存している、とされている。

 しかし、人の血を吸わなくとも満足できる吸血鬼が増える中、人の血がないと発狂してしまう、血を見ると興奮状態に陥る、という吸血鬼も存在した。今回の行方不明事件は、後者によるものではないか、というのが、当記事の本題である。


「今回の、とか書いてるけど、今更だよねー」


 やれやれ、と沙耶が水を差すように言った。首肯して、同意を示した亜梨紗は、続きを読み進める。

 吸血鬼を犯人とする根拠としては、行方不明者が出るのは決まって、吸血鬼が人を襲う日の特徴である、新月や曇り空の日など、月のない夜だったこと。人の血を吸い尽くした後、その死体を隠すという吸血鬼の習性が見られることなどが挙げられていた。

 最後は、種族間の諍いになる可能性を危惧して、事件解決に尽力しない警察を批判して終わっている。

 読み終えた亜梨紗は、何とも言えない微妙な顔をした。この記事は、信憑性に欠ける創作のような内容だ。


「……え、二人はこの記事信じたの?」

「えぇ」


 沙耶よりも早く頷いた佳菜は、「信じ難いのはわかるけど、よく調べてみたら、本当に吸血鬼とか魔女とか、存在してるらしいわ。世界的にあまり公にしたくないみたいで、なかなか信頼できる資料が見つからなかったけど、さっき政府の公式な文書が掲載されてるのを見たの」と述べる。

 「でも、その吸血鬼の特性を利用した人間の仕業だった、っていう方が有り得そうじゃない?」と持論を言った亜梨紗に、沙耶が「あ、その可能性は考えなかった!」と手を打った。佳菜は、「さぁ、そこはわからないわ」と肩を竦める。

 「まぁ、面白いとは思うけど……」と一度新聞に目を落とした亜梨紗は、改めて二人の顔を見た。

 大量殺人鬼のような人間の仕業だと考えるよりも、吸血鬼という非現実的なものの仕業だと思った方が、気が楽なのだろう。しかし、それを差し引いても、二人の楽しそうな表情が解せない。

 彼女たちの話には、まだ先がありそうだ、と思った亜梨紗は、「それで……?」と続きを請うた。その言葉を待っていたのか、沙耶は愉しそうに口元に弧を描く。


「それで、思ったんだけど、その吸血鬼って真人さんじゃないのかなって!」

「えっ……」


 亜梨紗の目に、驚愕が走った。ふふん、と自慢気に人差し指を立てて、沙耶は続ける。


「あの人、いつも公園にいたんでしょ? ニートだし。ハナミズキ公園で、獲物を狙ってたんだよ!」

「何言って……」

「亜梨紗があの人と付き合い始めたのは、半年前。行方不明事件が収束したのも、半年前。きっと、亜梨紗にご飯恵んでもらうようになってから、あの人が人を襲うのをやめたんだって!」


 拳を握り締めて、力説する沙耶に、亜梨紗は「え、と……」と顔を引き攣らせた。助けを求めて佳菜に視線を送るが、彼女は湖面のように静かな瞳で亜梨紗を見つめている。その眼差しが、どこか冷えたもののように思えて、亜梨紗は顔を強張らせた。

 そんな一瞬の空気の違和に気づかず、沙耶は「で、あの人が吸血鬼だったら、亜梨紗が危ないじゃん! って思ってさぁ!」と身を乗り出す。


「亜梨紗が襲われたら嫌だし、やっぱりあの人と別れた方がいいんだって!」

「……結局、真人さんと別れてほしいってことなんだ……」


 最終的な結論を聞いた亜梨紗は、今までと変わらない沙耶の主張に、ほっと息をついた。「でも、吸血鬼っぽさがどんなものかわからないけど、真人さんからそんな危険は感じないよ?」と言いながら、彼女は鞄から赤いタンブラーを取り出す。口をつけようとして、丁度席の間を通っていた店員と目が合った。ここがカフェであることを思い出した彼女は、バツが悪そうにタンブラーを仕舞う。


「そうやって、油断させておいて、ってことだよ!」


 本気なのか冗談なのかわからない沙耶の口振りに、「うーん……」と亜梨紗はテーブル上で、両手の指を絡ませた。


「じゃあ、気をつけておくね」


 曖昧な返事をした彼女に、沙耶は顰め面を返す。丁度時計の針がてっぺんを指し、次の授業がある亜梨紗は、席を立った。



 その後、授業を終え、食材を買って帰宅した彼女は、暗い室内で真人がソファに寝そべっていることに気づく。彼女がレジ袋をダイニングテーブルに置いていると、ソファの背もたれの向こう側で、彼の細い腕が挙がった。


「亜梨紗……血が足りない」


 ひらひらと彼女を呼ぶように手を振った真人に、彼女は首に巻いたマフラーを解きながら近づく。ソファを回って、彼の前に跪いた。


「空腹だ」

「半年間、現状で我慢できてるんですから……頑張って下さい……って、私が言えることじゃないですけど……」


 ソファの縁に置かれた亜梨紗の手を取った彼は、かぷりと彼女の指に噛みつく。


「……噛み切ったら怒るか?」

「怒ります」

「だろうな」

「その代わり、今日も肉料理ですよ」

「本当か!」


 「私の指より、そっちの方がいいでしょう?」と言う彼女の指から口を離した真人は、勢いよく起き上がった。鼻唄を歌いながら、レジ袋の中身を確認する彼の嬉しそうな表情に、亜梨紗も口元を綻ばせる。


「肉が続くと、今の状態でも、無駄に狩りに行かなくても済むからな。ありがたい」


 すっと細めた目で彼女に視線を送る真人のもとに歩み寄り、亜梨紗は腕を伸ばして、彼の頭に手を添えた。黒髪に紛れるようにして立っている耳を、折り畳むように押さえる。


「耳、出てます」

「ああ、すまない」


 自分でも頭に手を触れた彼は、ぴんと立っていた黒い三角形の耳が消えたことを確認して、笑った。「興奮すると、無意識のうちに出てしまう」と呟く彼の口から、鋭い犬歯が覗く。

 カフェで沙耶が言っていたことは、半分が正解で、半分が不正解だった。

 俗に狼男と例に出される狼族と、吸血鬼の混血。

 世界中を探しても、数人しかいないであろう珍しい種族の彼は、人懐こい笑みを彼女に向ける。優しく緩んだ目元に、亜梨紗は安心したような面持ちで「気をつけて下さいね」と伝えた。


◇◆◇


「ああっ」


 それは、偶然だった。新聞に吸血鬼の記事が載ってから、一週間が経った頃のことである。

 犯人は吸血鬼ではないか、という話は学生に人気だったようで、あちこちで様々な憶測が飛び交う中、亜梨紗と沙耶、佳菜の三人は、カフェで事件に関係する話をするのが日課となっていた。数日前、行方不明事件だけでなく、動物殺害事件もそのような伝承上の生物の仕業ではないか、と沙耶が言い出したことは記憶に新しい。

 真人は、吸血鬼ではなく狼男である、と沙耶に推測された亜梨紗が、冷や汗を掻いたことは内緒である。彼がそうだとバレたら、この人間が君臨する世界で生きにくくなることは必須だからだ。

 今日も、朝から何やかやと持ち寄った情報を元に、沙耶や佳菜は持論を述べていた。聞き手に回っていた亜梨紗は、カフェの店員に、紅茶を頼む。暫くしてから、盆に載せられた紅茶が運ばれてきた。

 しかし、店員がソーサーごとカップをテーブルに置こうとしたとき、手を滑らせたのである。テーブルの上に落ちた陶器のカップが割れ、熱い液体とともに破片が飛び散る。


「熱っ、いったぁ!」


 運悪く、すぐ側に手を置いていた沙耶は、悲鳴をあげた。尖った欠片で手の甲を切った彼女は、痛みに顔を歪める。じわり、と赤い血が滲んだ。

 大丈夫か、と店員と佳菜が慌てる一方、亜梨紗は「あ……」と目を見開いて傷口を凝視する。深く切れてしまったのか、沙耶の手からは、ゆるゆると血が滴り落ちていた。


「……亜梨紗?」


 彼女の異変に気づいた佳菜が、傷から視線を上げる。店員が、救急箱を持ってくる、と言って店の奥に引っ込んだ。

 鼻をひくつかせた亜梨紗の喉が、ごくんと鳴った。

 彼女の瞳に、赤い光が走ったような気がした佳菜は、息を呑む。

 亜梨紗の手が、鞄に伸びた。常備している赤いタンブラーを掴み、蓋を開ける。しかし、次の瞬間、タンブラーは彼女の手を離れていた。

 佳菜が、彼女の手からタンブラーを弾き飛ばしたのだった。

 乱暴な所作で、タンブラーを弾いた佳菜に、亜梨紗は驚愕の顔を向ける。テーブルの上にあったナプキンで傷口を抑えていた沙耶は、ぽかんと口を開けていた。

 ゴトン、と耳障りな金属音を響かせて、タンブラーが石造りの床に落ちる。開けられたタンブラーの口からは、赤い液体が流れ出ていた。


「え……?」


 赤い液体が小さな池を作る。時間帯のせいか、三人以外に客のいないカフェで、濃い血の匂いが漂う。

 席を立った佳菜が、さっとタンブラーの側にしゃがみ、液体に触れた。微かに粘着質な赤色を指で拭い、匂いを嗅ぐ。


「……血だ」


 呆然と呟かれた言葉に、沙耶が「ひっ……」と声にならない声をあげた。

 愕然としたままの亜梨紗は、恐怖を宿した沙耶の瞳を見つめる。佳菜が、震える声で言った。


「亜梨紗……そうだったのね、貴方が…………吸血鬼」

「違う!」


 張り上げられた声に、沙耶と佳菜は、ビクリと身を縮こまらせる。いつも物腰柔らかな亜梨紗が怒鳴ったのを見たのは、初めてだった。


「違う……私は……違う。吸血鬼じゃなくて……私は……。どうして……どうしよう、タンブラーが……」


 がくがくと震えて、うわ言のように呟かれる言葉は、彼女の動揺を示していた。俯いて、頭を抱えた彼女の脳内で、真人の声が響く。

 『発作が出たら、これを飲めばいい』『大丈夫、亜梨紗だったら、大丈夫』

 一瞬硬直した後、亜梨紗の震えが止まった。顔を上げた彼女の瞳が虚ろであることに気づいた佳菜が、「亜梨紗……?」と恐々と声をかける。

 そんな彼女を無視して、亜梨紗は沙耶に目を向けた。


「血が……欲しい」

「いやぁぁああ」


 沙耶の絶叫が、店内に轟く。その声は厨房にも届いただろうが、怖気づいているのか、店員はやって来ない。

 亜梨紗の長く白い指が、向かいに座る彼女に伸びる。


「っ沙耶……!」


 佳菜が庇う暇もなかった。テーブルに膝をつき、恐怖で固まっている沙耶の肩を掴んで引き寄せた亜梨紗の唇が、その中にある牙が、彼女の首筋を狙う。

 ぷつり、と皮膚が裂ける微かな音がした。


「……間に合った」


 涙目の沙耶は、腰を抜かして椅子にもたれかかる。佳菜は、音もなく現れた彼を見つめながら、震えていた。

 亜梨紗の鋭い牙は、真人の右腕に突き刺さっていた。

 後ろから羽交い絞めするように、彼女の眼前に腕を差し出した彼は、一心不乱に血を啜る亜梨紗を抱き締めて、彼女の頭を優しく撫でる。


「本能には逆らえないよな……亜梨紗」

「どうして……ここが……」


 ふらふらと立ち上がった佳菜は、彼がここにいる理由を尋ねた。すると、真人は「偶然だ」と答える。


「いや……俺も本能的に感じ取ったのかもしれないな、危険だと。血の匂いがしたんだ。俺自身の血の匂いが」


 タンブラーから零れている血に視線を落とした彼は、「それは、俺の血だ」と告げた。


「亜梨紗は、本能で人の血を求めてしまうからね。その発作が出たとき、その辺の人ではなく、俺の血を飲んで凌ぐように持たせていたんだ。今の技術だと、鮮度を保ったまま血を保存することもできる。便利なことにね」

「貴方は……」


 放心している沙耶に代わって、佳菜が彼の存在を問う。彼は、狼の耳を出して、自分の頭を指差した。


「俺は、狼族と吸血鬼の混血だ。人間じゃないから、血を吸われても、死なない。他の獣の血肉を食らえば、すぐに復活するしね。肉料理でもいいんだが……あれはちょっと物足りない」


 笑んだ真人に、敏い佳菜はハッとする。「じゃあ……最近の動物殺害事件の犯人は……」と言う彼女に続けて、「俺だよ」と彼はさらりと答えた。


「亜梨紗に血を分け始めてから、自分の血が足りなくなってね。彼女が人間を襲うよりかはマシだと思っていたが、わりと大事件に発展してしまったらしい。これでも、動物を襲う回数は減らしているつもりなんだがな」

「ということは、行方不明事件の犯人は、亜梨紗……なんですね」


 掠れた声で言った沙耶に、「そうだ」と彼は頷く。

 亜梨紗と出会ったときのことを思い出した真人は、懐かしそうに瞑目した。



 月のない夜、公園を早足に進む彼女の匂いに、異常を感じた。手の傷から香る彼女自身の血の匂いと、別の血の香が混じっていたのだ。すぐに、目の前を行く女性が行方不明事件の犯人である吸血鬼なのだと悟った。

 人間とは異なる種族だという親近感、そして、単純に闇を纏った彼女の姿に見惚れたから、というのもあるのかもしれない。

 耳を見せて、異種族だと示し、上手いこと彼女のもとに転がり込んだ。

 後に、あの日の傷は、獲物として見定めた男の反撃にあってつけられたのだ、と聞いた。

 それから、真人を家に上げた彼女は、取引を持ちかけてきたのである。


『貴方、ニートですよね? 生活に困ってるんでしょう? これからは私が養ってあげます。だから……』


 だから、血を吸い尽くした後の死体処理をしてくれ、と頼んできた。それすなわち、狼族である真人が死体を食え、ということだった。死体を隠すのが手間なのだ、とぼやく彼女は、虚ろな目をしていた。


『……俺は、人肉は嫌いなんだ』


 そう答えると、使えない奴だ、と舌打ちでもされそうな不機嫌そうな目で射抜かれる。溜息をつく彼女に、純粋な質問をぶつけた。


『人を襲って、血を吸うのは、楽しいのか?』


 人の血を吸わなくとも生きていける真人には、理解できない感覚。

 人の血を吸えば、やはり恍惚とした気持ちになるのか、それとも違うのか、と単純に疑問に思っただけなのだが、質問された彼女が、傷ついたように目を瞠ったのを見て、何てことを問うてしまったのだ、と後悔した。

 今のご時世、人間族と吸血鬼の差など、ほとんどなきに等しい。彼女にも、人間の友人がいるだろう。本能に抗えないだけで、共存している相手を襲い、殺す行為に何も感じないわけがない。そう想像する。人間を襲う苦悩は、計り知れないだろう、と彼女の心情を想像する。否、想像はできなかった。何故ならば、真人にとって、人間族など取るに足らない存在だったからだ。


 幼い頃、気を許した人間の友人に、狼族と吸血鬼の混血であることを打ち明けた。その翌日には、真人の一族全員が村から追い出された。友人だと思っていた人間には、恐怖の目で見られ、両親には、何故真実を喋ったのかと詰問された。以来、一族が大事なのだ、話も聞かずに石を投げてくる人間族は我々と相容れない存在なのだ、と言い聞かされてきた真人は、人間族を関心の外へ追いやった。

 取るに足らない存在と思っている相手と、仲良くやっていけるわけがない。両親と死に別れ、孤独に放浪していた真人は、初めて会った同族の彼女を眺める。

 人間なんて、どうでもいい。つまり、彼らが死のうがどうなろうが、知ったことではない、と思っていた真人にとって、眼前にいる彼女の傷ついたような瞳は、酷く印象的に映った。


『楽しくない……です』


 翳った瞳で答えた彼女を、衝動的に抱き締める。抱き締められた彼女の体が、強張った。悪かった、と謝罪する。その言葉に、彼女は何の反応も示さなかった。

 人間を襲うことへの躊躇を抱き、襲う対象である人間と親しくしている彼女に、強く惹かれた。襲ってしまうという自分の行為に傷つく彼女を、救いたい、とそう思う。自分とは異なる考えを抱く彼女の傍にいたい。

 真人は、君の取引には乗れない、と断ってから、別の提案をする。


『人間の血ではなく、俺の血を吸えばいい』

『…………狼族の血は、獣臭くて嫌いです』

『俺は吸血鬼との混血だ。だから、きっと大丈夫だ。ほら』


 Yシャツの袖を捲って、剥き出しの腕を彼女の前に差し出した。彼女は、真人を窺うように見上げてから、おずおずと腕に牙を立てる。

 血が吸われていく感覚に、ぞっとした。思わず彼女の牙を振り払いたくなるのを抑えて、腕を引く代わりに、彼女の頭を撫でてやる。

 数分もせずに、牙は彼の腕から離れた。腕に空いた二つの小さな穴に、血が滲み出る。


『美味いだろう?』

『……微妙です』

『慣れるさ。俺の血を日常的に飲んでいれば、人を襲わなくても済むだろう。君は俺を養ってくれる。俺は君に血を分け与える。こんな取引でどうだ?』


 提案された彼女は、暫くの間悩んでから、その案を受け入れた。

 受け入れてくれた彼女に、『もう君は、人を襲わなくていいんだ』と伝えると、彼女は黒目がちの目を瞬かせる。微笑んだ亜梨紗の瞳には、涙が滲んでいた。

 見ているこちらが心を救われるような、優しい微笑だった。

 それは、もう半年程前のことである。



「あの日以来、亜梨紗は人を襲っていない。今回は、まぁ……不可抗力だな、亜梨紗」


 カフェにて、彼女を宥めるように頭を愛撫していた真人の声を合図に、亜梨紗は牙を引っ込めた。

 彼の腕を離した彼女は、沙耶を襲ったときのような覇気は纏っておらず、友人たちの知るいつもの亜梨紗に戻っていた。正気を取り戻した彼女は、「ごめん……なさい……」と怯えて、わななきながら謝る。

 沙耶と佳菜が目配せをして、どう答えたらいいのか、と窺うような、居た堪れない空気が漂った。


「ごめんなさい……」


 ぎゅっと拳を握り締めた亜梨紗は、逃げるように店を飛び出す。「亜梨紗!」と彼女を呼ぶ沙耶の声は、脱兎のごとく去っていった彼女には、聞こえなかった。


◇◆◇


「亜梨紗、沙耶ちゃんの怪我は、大したことないそうだ」


 自宅のソファの隅で、膝を抱えていた彼女に、真人は声をかけた。膝に顔を埋めている亜梨紗は、頷く仕草をすることで、了解の意を示す。

 彼女の隣に腰を下ろした彼は、「気に病むことはない。君は、誰も襲ってない」と言った。いつにも増して優しい声音の彼に、彼女は「……真人さんが来てくれなかったら、襲ってました」とくぐもった声で言い返す。


「十八歳を過ぎた頃から、人の血がないと発狂しそうになって、人を襲い始めました。一旦牙を立てたら、途中でやめられなくて、吸い尽くしてしまって……結局、殺してしまうんです……。こんなことしたくないのに、吸わないと頭がおかしくなりそうで……。でも、真人さんに会って、人を襲わなくても済むようになりました。これでもう大丈夫だ、って、人を襲わなくてもいいんだ、って思って、沙耶や佳菜みたいな、人間の友達の前でも、罪悪感なく笑えるようになったんです。真人さんのおかげで、変われた、と、そう思ってた、のに……」


 吐露する彼女の声が、涙色を帯びた。


「私は、何も変わってないです。一番の友達を、襲おうとしたんです。真人さんの血も、全部無駄だったんです」

「そんなことない」


 肩を震わせている亜梨紗の言葉を否定した彼に、彼女は、慰めはいりません、と強い語調で返す。

 力を込めて言われた言葉が、酷く不安定に揺れていて、真人は「慰めじゃないさ」と続けた。


「人間の血ではなく、狼族と吸血鬼の血で満足できるようになった。亜梨紗は、人の血を飲まなくてもやっていける。立派な進歩だ」


 そっと顔を上げた彼女に、彼は笑いかける。覗く犬歯に凶暴性は感じず、人懐こい笑顔は、彼女を安心させた。

 櫛の通っていない黒髪を、ぐしゃぐしゃと混ぜるように掻いた真人は、「その代わり、俺の血がないと生きていけなくなった、けどな?」と、照れて視線をあらぬ方向へ飛ばしながら言う。

 亜梨紗は、くすりと笑った。


「何で、自分で言って照れてるんですか」

「や、なんか、君は一生俺から離れられないんだ、とか、プロポーズみたいに聞こえるだろう」

「プロポーズじゃないんですか?」

「え、なっ」


 どもる彼に、悪戯っぽい笑みを見せた彼女は、「もう、ここにはいられませんね……」と寂しそうに呟く。牙こそ立てなかったが、襲ってしまった沙耶や佳菜の前で、今まで通りいられる気がしなかった。事件の犯人として、警察に嗅ぎ付けられたら、亜梨紗も真人もただでは済まないだろう。

 知っていた。人の血を必要としない吸血鬼ならともかく、血を求めて発狂する吸血鬼は、人間と共存できないことくらい、知っていた。真人と出会い、友人と笑いあうことで、変われるのだと期待をしてしまっただけだ。

 ぎゅっと一度唇を真一文字に結んでから、亜梨紗は自分が逃亡する旨を口にしようとする。これ以上、彼に迷惑はかけられなかった。彼と別れて、人里離れた場所に引きこもろうと考える。しかし、彼女が口を開くよりも先に、真人が「どこに行きたい?」と尋ねてきた。


「え……?」

「この街も快適だったが、今度はもっと田舎でもいいかもしれない。俺は、動物園に住むのが一番いいんだが……」

「園内の動物食べる気ですか。無理ですよ」

「だよな。海沿いもいいが、やっぱり山沿いか。食事に困らない方がいい。亜梨紗は? どんなところに住みたいんだ?」


 行き先の候補を出す彼に、彼女は戸惑う。


「あの……これ以上真人さんに依存するわけには……」

「言っただろう。君は一生俺から離れられないんだ」


 二人で、どこへでも行けばいい。俺がいれば、君は人を襲う罪悪感に塗れず生きていける。俺は、君と共に生きていける。亜梨紗、どこへ行きたい? と再度尋ねる真人は、期待の眼差しで彼女を見つめた。眠たげに見える目に、楽しげな光がくるりと巡る。


「……でも、お金が」

「俺が職に就く」

「無理でしょう。できるなら、とっくにニートやめてるはずですよね」


 現実的な問題を述べた亜梨紗は、冷静なつっこみを入れた。

 図星の真人は、「うっ……」と呻く。「な、何とかなる」と、普段気だるげな印象を受ける彼らしくない様子で、拳を握り締めた。


「亜梨紗、どこかへ行こう。二人で」


 迷っている彼女の頭を胸に引き寄せ、抱き締める。じんわりと胸に染み入る優しい声に、亜梨紗は気づけば、素直に頷いていた。


「傷つかなくていい。人間族と、無理に一緒にいなくてもいいんだ。行こう、亜梨紗」


 彼の声に誘われて、差し出された手を取る。

 数日後に、沙耶と佳菜が訪れた亜梨紗宅は、家具等全てそのままで、住んでいた彼女と彼の姿だけが、消えていた。



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Red spiral 幾瀬紗奈 @sana37sn

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